なぜ真の女性ヒーロー映画が登場するまで40年かかったのか? 『ワンダーウーマン』の画期性

真の女性ヒーロー映画登場に40年かかった理由

 ついに、ついに、真の女性ヒーロー映画が誕生した。

 ここまで長かった。1978年の『スーパーマン』から数えればヒーロー映画の歴史は今年で40年。その間、女性ヒーロー映画はずっと暗黒の歴史だった。1984年の『スーパーガール』は評価、興行とも散々。2004年の『キャットウーマン』はラジー賞。何よりの驚きは、これだけアメコミ映画が隆盛を極める中で、女性ヒーロー映画にはこの2作の大失敗くらいしか振り返るべき歴史がない、ということだ。そもそも制作すらされていないのだ。

 『ワンダーウーマン』だって例外じゃなかった。2000年ころから噂レベルでは映像化の話はあっても実現まで行き着かない。唯一、形になったのは2011年のTVシリーズのパイロット版1話のみ。しかも、出来が酷いということで放映すらされなかった。

 というような歴史を踏まえれば、今回の映画『ワンダーウーマン』がアメリカで今夏最大のヒット、歴代興行収入でもサム・ライミ版『スパイダーマン』を抜き、もうすぐ『アイアンマン3』も『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』も上回りアメコミ映画史上5位の興行収入に迫っているという事実の画期性も伝わるはずだ。上にはもう『アベンジャーズ』2作と『ダークナイト』2作しかいないのだ。1970年代後半のテレビシリーズ以来の『ワンダーウーマン』ファンとして、これは本当に現実なのかと思うほどの事件だ。

 そもそも、なぜ女性ヒーロー映画はこんなに少なく、制作されても評価が低かったのか。

 色々な説明があると思うが、重要なのは「ヒーローとして戦う動機をどう描くか」という点じゃないかと思う。この問題がついて回るのは男女関係ないが、肉体的に戦うという行為がもともとマッチョな行為であるゆえに、特に女性ヒーローの場合には「何のために戦うか」という問いと向かい合わざるを得ない。正直言って女性ヒーローものに対する需要はこれまで相当程度まで性的な需要だった。性的な需要からまず女性ヒーローの造形が形作られた後に、じゃあこの女性ヒーローはどうして戦うのか?という動機を後から型に流し込もうとしてうまくいかなかった、というのがこれまでの歴史だった。

 少し寄り道になるが、テレビシリーズ『ワンダーウーマン』と同時期に日本でも放映された戦う女性ものに『チャーリーズ・エンジェル』と『バイオニック・ジェミー』がある。この3作をセットで記憶している人も多いと思う。

 『バイオニック・ジェミー』は2007年に一度だけテレビ版としてリメイクされているが、脚本家組合のストの影響を受けたった8話で打ち切られるという、『ワンダーウーマン』テレビシリーズ版と大差ない結果に終わっている。

 一方で、『チャーリーズ・エンジェル』は2000年に映画としてリメイクされヒットしている。そもそも、『ワンダーウーマン』『バイオニック・ジェミー』の映像化という企画の背景には映画版『チャーリーズ・エンジェル』の成功も大きかったはずだ。

 なぜ『チャーリーズ・エンジェル』だけ成功できたのか。色々な理由があるが、「エンジェルとして戦う動機」という問題について考えこまず、バカ映画の体裁と女子3人のノリで突っ走った、という点は大きかった。エンジェルたち3人には、どう見てもあんな危険な任務に体を張る理由はない。でもいいじゃん、楽しければ!で映画1本押し切ったのだ。

 でも、エンジェルたちは続編『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』で「戦う動機」という問題と向き合わなかったツケを払わされることになる。

 女子3人がやかましく活躍する娯楽映画なのは間違いないが、明らかに、『チャーリーズ・エンジェル』というフィクションはキリスト教の体系を借用している。そもそもタイトルからしてエンジェル=神の使いである天使だ。エンジェルたちにとっての神は雇用主の大富豪チャーリー。偶像崇拝を禁止されているがごとく、決してその姿をスクリーンに現さないチャーリーからのお告げに忠実に従い、自分ではなく神のために戦うのがエンジェルたちだ。映画が成功したのは、「神=チャーリーのために戦う」という構造を巧妙に温存した上で、それを明るく楽しいノリでコーティングしていたからだ。

 でも、『フルスロットル』の敵はチャーリーを裏切った「元エンジェル」だ。キリスト教における悪魔とは堕落したかつての天使。『フルスロットル』は天使と悪魔の戦いなのだ。ラストバトルはなぜか教会で、床に穴が開くと中はなぜか炎が燃え盛っており、敵は地獄の業火に焼かれて死ぬ。明るく楽しいノリのコーティングがはがれ落ち、神(≒父なる男)のために戦うという元々の物語の構造があらわになってしまったのが『フルスロットル』だ。

 笑い飛ばすだけでは、「何のために戦うか」という問題からは逃れられないのだ。

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