“人の知性”についての物語ーー『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』は知的好奇心を煽る秀作だ

 『ノーゲーム・ノーライフ』は人間の知性を信じる物語だ。人の力は暴力ではなく、どこまでも知性であると信じる人の話だ。大抵のヒーローは最終的には腕力で事件を解決するが、このシリーズの主人公たちはどこまでも知略で立ち向かう。

 「人生はクソゲー」と言ってはばからない引きこもりがちな天才ゲーマー兄妹が、ある日全てがゲームの勝敗によって決まる異世界に召喚されたことから、その力を発揮する。非力で魔法のような特殊能力も持たない人間が、異世界のエルフや獣人種たちに対抗する術はその知性のみ。ゲームを極めた兄妹がその知略で巨大な力に打ち勝つ爽快さが、本シリーズの最大のカタルシスだ。

 血の繋がらない兄妹というライトノベルによくある設定かつ、コミカルな作風で、人間の知性がいかに素晴らしいものであるかについて語った作品と言える。

 今回の劇場版『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』は、TVシリーズの内容の前日譚的な位置づけとなる。原作では6巻の内容に相当するが、ゲームで全ての雌雄が決する世界がどのように生まれたのかが描かれる。全てがゲームで決まるというルールで動く世界の、そのルールを決めたのは誰なのかを描く。それも、知性を巡って、極めて今日的な問題提起を含んだ上で。非常に知的好奇心を煽る秀作だ。

 本作はTVシリーズで描かれた時間軸の6000年前が舞台となる。特殊な力を持った種族が覇を競う大戦のさなかであり、非力な人間は絶滅の危機に瀕している。本シリーズの主人公の兄妹はほぼ登場せず、兄の空(そら)によく似た人間・リクと、妹の白(しろ)に似た機械仕掛けのエクスマキナであるシュヴィが主人公となっていて、物語の雰囲気も、コミカルな本筋とは違い、重厚かつ終末感漂うものとなっている。

 雰囲気が一変しているとは言え、「人の知性」についての物語である点は一貫している。本作ではその人の力である知性でもって、暴力が支配する大戦を終わらせる戦いを描いており、知略がより良い未来を作るという希望を、一層強く感じ取れるような内容だ。

 とりわけ本作は、人工知能と人間の知性の関係について着目した作品と言える。人間は地上における最高度の知的生命体だが、人工知能の進化は人の能力を超える段階まで差し掛かろうとしている。このシリーズを象徴するチェスでは、AIが最高ランクの人間のプレイヤーを負かして10年以上が過ぎているが、もはや現行のルールで人間がチェスに勝つことは難しくなってきており、将棋や囲碁の世界でもコンピュータの躍進は大きく注目されている。そうした人工知能がゲーム分野のみならず、今まで人間が担ってきた様々な役割を果たしうるようになった時、人の存在意義とはなんなのかが問われる時代になってきている。

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