「映画には過去も現在もない」シネマヴェーラ渋谷館主が明かす、名画座経営10年の信念

「何の知識もなく観たけど『これはすごいな』っていうものがたまにある」

――では最後に、普段名画座に足を運ぶ機会がない人たちに向けて、何か伝えたいことはありますか?

内藤:そうですね……。まあ、当たり前のことなんだけど、映画館に行くのではなく、映画を観に行くわけだから、たとえそこがちょっと特殊な映画館であっても、ひるむことなくきてほしいです(笑)。かつ、コスパも良いわけだから、聞いたこともない映画のほうに、むしろきてほしいところはありますね。

――ある種、偶然の出会いを求めてというか……。

内藤:そう。これはちょっと自画自賛めいちゃうけど、先ほど言った「橋本忍特集」なんかにしても、「あ、こんな面白い映画があったんだ」、全然何の知識もなく観たけど、「これはすごいな」っていうのが、やっぱりたまに出てくるわけですよ。

――名画座の館主であっても。

内藤:そうそう。ちょっと大袈裟な話になりますけど、やっぱりそういうものって、人生にとって重要なことじゃないかっていう気がするんです。本だって音楽だってそうじゃないですか。事前に「これはこういうもので、歴史的にはこんな評価がされている」っていうのを頭に入れて読んだり聴いたりするより、何かいろいろ当たっていくうちに、ふとそれに行き当たって「ああ、何だかすごい面白い、感動した」っていうことのほうが、より人を動かすように思います。それは、その人の人生にとっての「事件」なわけだから。

――「自分が発見した!」みたいな感覚って、のちのち大事になったりしますよね。

内藤:そういう感覚を……それこそ若いときに、そういうものがひとつでもふたつでもあったほうが、きっと人生、豊かになるんじゃないかなって思うんですよ。

(取材・文=麦倉正樹)

■書籍情報
『円山町瀬戸際日誌』
発売中
定価:2592円(税込)
著者:内藤篤
出版社:羽鳥書店

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