元ビーイング名物プロデューサー中島正雄が語る「パクり」のクリエイティブ論

元ビーイング役員が語るクリエイティブ論

 B’zやZARD、大黒摩季など数々のヒットアーティストの作品を世に送り出してきたビーイングのミュージシャン/音楽プロデューサーだったマリオ中島こと中島正雄が、定年を迎える層に向けた「定年後の遊び方指南」本、『定年クリエイティブーリタイア後の創作活動で後悔のない人生をー』を上梓した。太田裕美のバックバンドのギタリストとしてキャリアをスタートし、1978年からは音楽制作会社ビーイングの社員として型破りな音楽制作を行ってきた中島が、いかにしてクリエイティブな余生を過ごすかを、その心構えや具体的な方法論とともに解説する本書は、「人生100年時代」といわれる今、一読の価値があるといえそうだ。

 本書の中でも特に目を引くのは、『「パクる」ことから始めよう』という章。創作において、ネガティブなイメージを抱かれがちな「パクり」をあえて勧めることの真意とは、一体いかなるものなのか。また、本書で中島が提言する作品/アーティストの「絶対評価」と「相対評価」とは、どのような価値基準なのか。CDバブル時代に100万枚を超えるセールスを数多く経験してきた中島ならではの、ユニークなクリエイティブ論に迫りたい。(編集部)

「オリジナリティは完璧なコピーの後にできる」

――同書の中で特に印象的だったのが、『「パクる」ことから始めてみよう』という章です。ここに中島さんのクリエイティブに関する考え方の核があると感じました。

中島:本書はもともと、世の中の創作されたものの中に「パクり」ではないものはない、との発想から始まっています。例えば人間は生まれてから、言葉を覚えるにしても何をするにしても、まずはマネから入るわけです。まったく何もない中で人間は育たないし、コンピューターと同じで、“インプット”しないと“アウトプット”できないのは当然のことで。オリジナリティという言葉に対して、幻想を抱いている方は少なくないと思うんですけれど、その人独自の表現というのは、過去の表現を完璧にコピーできるようになって、その上に初めて成り立つものだと思うんです。今、何かしらの表現をして活躍している側の人間だって、数多くのパクりの上に成り立っているはずで、だからこそ「パクり」に関してそれほどネガティブに言う必要はないのではないか、というのが僕の考えです。

ーー音楽ビジネスにとって著作権は非常に重要な要素ですが、そこはどう考えますか。

中島:僕自身がJASRACの会員ですし、長らく著作権や著作隣接権と向き合ってきた人間です。だからこそ思うのは、音楽出版という制度は生まれてから300〜400年経っていて、世の中の変化ともに変わってきたものなので、今の時代に合わせて修正が必要だということです。もちろん、この制度には良いところもたくさんあるのですが、今の音楽業界は、自ら詩や曲を書いたり演奏したりしていない人にどうやってお金を配分するかというところが上手くできていて、肝心のミュージシャンなどへの配分が少ないんです。その一方で、別に良いんじゃないの?というところで著作権が発生したりしていて。例えば今、ユーミンが発表した曲を自分が演奏して歌ったり、ライブハウスで若手バンドがカバーを演奏したりすることに対してまで、著作権を主張したりするのは違うんじゃないかなと、僕は考えています。料理のレシピには基本的に著作権はなくて、誰が作っても自由じゃないですか? カバーに関しては、それくらいの感覚で良いのではないかと。そもそも音楽だって「パクリ」なしには生まれないのだから。

――その考えは長年、音楽業界にいて強くなっていったのですか?

中島:僕はもともとミュージシャンですからね。「パクリ」というと語弊があるかもしれないけれど、過去の音楽に学んで色々と演奏してきたわけで。だからこそ、著作権にうるさいミュージシャンには「自分を棚に上げてなに言ってるんだよ」と思っていました(笑)。

ーー過去の音楽を参照するにあたって、中島さんが意識していることはありますか?

中島:音楽はすべからくダンスをするためにある、ということですね。それはジャズでもクラシックでも、ゆったりとしたバラードでも一緒です。ダンスをするために音楽があるという前提で「パクる」ことを考えると、人気がある楽曲のリズムパターンを模倣するのが一番良いです。ポップスでいうと、コード進行なんかもそう。人が好むパターンというのがあるので、それをまずは完璧にコピーして、そこに一捻りを加える。例えば去年バカ売れしたDA PUMPの「U.S.A.」は、1992年にリリースされたイタリア人歌手ジョー・イエローのカバーでユーロビートじゃないですか。でも、今のサウンドとダンスでやるとかえって新鮮というか、おもしろおかしいし、パッと身体が動いてしまうようなキャッチーさがある。バカバカしく思えるかもしれないけれど、ヒット曲にはあれが必要なんですよね。特に、これからデビューして世の中にバーンと出ていこうとするアーティストは、一定のリズムで押していくことを意識すると良いと思います。

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