元ビーイング名物プロデューサー中島正雄が語る「パクり」のクリエイティブ論

元ビーイング役員が語るクリエイティブ論

「歌が上手いからといって売れるわけではない」

――本書で中島さんは、ポップミュージックの評価について「絶対評価」と「相対評価」があると書いていました。この価値基準についても、改めて教えてください。

中島:例えば新人のアイドルの女の子がいたとして、すごく下手で音程も悪いとするじゃないですか。それで「プロなのにこんなに下手くそなのか?」と顔を見てみたら、ものすごく可愛くて、「これだけ可愛いのなら許せるな」となる。歌の上手い下手、音楽的な価値基準が「絶対評価」だとすると、この「許せるな」という感覚が「相対評価」だと考えています。お客さんがポップミュージックに求めるものには、「感動したい」という気持ちと「正義感を満たしたい」というふたつの気持ちがあって、お客さんの「正義感を満たしたい」に訴求するのは、実は相対評価の部分が大きかったりするんです。ミュージシャンは若い方が有利なのは、「この年齢でこのテクニックはすごい」という相対評価が働きやすいからで、そこに「よし、俺が応援してあげよう」という正義感が発生する。この相対評価を意識するかどうか、言い換えると自分を客観視できているかどうかが、ミュージシャンにとってはとても重要です。

――ギターがすごく上手いのに売れないと悩んでいるミュージシャンは、相対評価を加味していない、ということですね。

中島:しっかり売れて、ちゃんと残っていくアーティストは、本当に自分たちを客観視ができていると思います。B’zはそのいちばん良い例です。「10代でこれができるのはすごい」があるなら、「40代でこれはすごい」もあるはずで、その相対評価を踏まえた活動ができています。僕もそうだけど、自分のことはわからないんですよ。そして、人から自分のことを色々と言われるのはみんな嫌なんです。だから、嫌なことをちゃんと言ってくれて、かつ信用できる人間が周りにいるのが大切です。良いことを言ってくれる人はたくさんいるけれど、それだけだと伸び代がなくなってしまう。でも、嫌なことを言われて、悔しいけれど図星かもしれないと、自分を客観視して改善しようとなれば、その人はどんどん伸びていく可能性がある。ビーイングなんて、嫌なことを言う人間ばかりが集まった集団でしたから(笑)。

――ビーイングは、それで実際に結果を出してきたわけですね。さて、中島さんはそんなビーイングを退社後、2002年に日本コロムビアの代表取締役社長に就任するわけですが、その頃に音楽業界のCD全盛期は終わりを迎えました。時代の変化をどう捉えていましたか?

中島:コロムビアに移った次の年かな? 2003年に新星堂、タワーレコード、山野楽器などの代表の方々と20人くらいでツアーを組んで、ニューヨークに行ったんですよ。それでソーホーにできたApple StoreでiPodを見てビックリして。「CD売ってる場合じゃない、これはやばい!」と。アメリカはすぐにデータで音楽を聴く時代になりました。日本はその後、データの時代に移り変わるまでに少し時間はかかりましたが、結局はたかだか10数年で音楽業界のあり方が大きく変わりました。今はCDの売り上げで考えると、レコード会社にとっては大変な時代だけれど、やっぱり音楽は生で聴くのが一番だから、ある意味では良い時代になったんじゃないかな。DVDとかBlu-rayでいくら綺麗に撮っても、やはり満足はできない。ビーイングの頃から、ライブの演出にはとにかくこだわってきたから、そこはちゃんと時代に先んじた発信ができていたのかなと思います。

Alright

――『定年クリエイティブ』は、そんな中島さんのこれまでの経験を定年世代に向けた指南書としてまとめたものです。今後も何かしらの発信を続ける予定でしょうか?そ

中島:定年世代なので、むしろ発信していかないとと思ってます。加えて、僕に対しても「今はこれがおもしろいよ」という情報を教えて欲しいですね。僕のためにというより、せっかく色々な経験を積んできたので、「面白おじさん」として上手く使って欲しいんです。それと個人的に今、Alrightというブルースバンドをやっていて、日本語でどうブルースを表現するかを模索しています。ステージ上でも「こっち(日本)での生活が長いんで、日本語の方が良いかな」と言っているんですけど(笑)。お客さんも日本人だから、無理して英語で歌うよりも、ダイレクトに日本語で言った方が良いのではないかと考えていて。それが今、だんだん良くなってきています。ドラムもベースも完全にプロだから、みんな上手いんですよ。そのバンドはまさに僕にとっての「定年クリエイティブ」で、これはこれとしてちゃんと成立するように色々考えています。もし僕らのバンドにも「ネットを使ってこういうことをしたらおもしろいよ」などのアイデアがありましたら、ぜひ教えてほしいです。

(取材・構成=編集部)

◼️プロフィール
1953年東京生まれ。学生時代はクラブ活動において音楽業界の実地訓練のような日々を送る。 歳の頃には渡辺プロからデビューした太田裕美のバックバンドを担当。1976年、京都のウエストロードブルースバンドに加入。1978年、音楽プロデューサー長戸大幸氏率いる、音楽制作会社ビーイングに入社し、制作・マネジメントに携わり、数々のヒット作品、ビッグアーティストに関わる(TUBE、LOUDNESS、B’z、大黒摩季、ZARD、 WANDS、T―BOLAN、DEEN等々)。2002年、日本コロムビア株式会社代表取締役社長に 就任。一青窈、平原綾香、木村カエラを手掛ける。 現在、マリオマネジメント株式会社社長として、新 人の育成、経営コンサルティング、講演会等を行っ ている。また「マリオ中島」と名乗り、「Alright」 というブルースバンドを主宰し、ライブ活動を行なっている。

『定年クリエイティブ定年クリエイティブーリタイア後の創作活動で後悔のない人生をー』

◼️リリース情報
『定年クリエイティブ定年クリエイティブーリタイア後の創作活動で後悔のない人生をー』
発売中
定価:950円(税込)
発行:ワニ・プラス
発売:ワニブックス

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる