宇多田ヒカル渾身のラブソング並ぶ『初恋』に代わり、浦島坂田船が首位に 最新チャートを考察

 知らない立場で一気に調べたから乱暴は承知ですが、要するに浦島坂田船は、歌えるうえにトークも面白く、体当たり企画もこなせるネット界のマルチアイドル、みたいな存在でしょうか。楽曲も初めて聴きましたが、どんなタイプの曲でも楽しそうに歌い、また歌声の違いも含めて各自のキャラを活かしているところ、けっこうジャニーズっぽいなと思います。ただし世界のクリエイターからトレンドを薄く意識した楽曲を集める嵐などとは違い、彼らはいい意味でチープというか、真似してみたくなる親しみやすさがある。どこまで意識的かはわかりませんが、これぞまさに2010年代ネット社会の申し子でしょう。

 ヒャダインや米津玄師など、ネットから火がつき有名になったミュージシャンは過去にもいましたが、彼らはネット→各メディアが注目→CMやアニメなどタイアップ主題歌を担当→本格的ブレイクという手順を踏んでいたわけです。しかしこの『V-enus』は全曲ノンタイアップ。ニコ動を“自分たちに最も適したメディア”として駆使する浦島坂田船には、どうやら「マス」に進む必要がないようです。それでも5.5万枚が売れるのだから、うーん、凄い時代になったものです。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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