バイリンガルシンガー・ナノ、デビュー5年で辿り着いた場所「やっと『時代がきた!』って感じ」

ナノ、デビュー5年で辿り着いた場所

 デビュー5周年を迎えるナノが、5月31日に2年4カ月ぶりとなる4thアルバム『The Crossing』をリリースした。今回はナノによる英語詞の新曲8曲を含む全12曲を収録し、楽曲制作にはSHO (MY FIRST STORY)、中西航介(a.k.a. neko)、buzzG、ゆよゆっぺ、Powerless、重永亮介、そして自身とバラエティに富んだ面々が参加した。

 今回リアルサウンドでは、デビュー5周年という節目にあわせ、デビューからの軌跡を辿るインタビューを行ない、自身の葛藤や成長、ニューヨーク出身のバイリンガルシンガーならではの海外と日本のシーン比較、新作での挑戦についてなど、大いに語ってもらった。訊き手はナノの活動を初期から取材し続けている西廣智一氏。(編集部)

「5年前はこの先に何があるのか、まったく考えてなかった」

ーー2012年3月14日アルバム『nanoir』でデビューから、今年で5年。5年続けるのも簡単なことではないし、ましてやメジャーシーンで5年生き残るのもすごく大変なことだと思うんです。

ナノ:そうですね。ここまで続けられて、すごくありがたいです。実際、5周年という言葉で簡単にまとめちゃっていいのかなっていうぐらい、本当にすごいことなんですよね。

ーー今回は節目のタイミングということで、この5年を振り返りましょう。5年前のナノさんは正直、右も左もわからない状態でデビューしたと思います。あのとき、正直どこまで先のことを考えてましたか?

ナノ:あのときは自分はこれをやりたいんだという強い気持ちだけで、自分がどこに向かっているのかまったくわからなくて。果たしてこの先に何があるのか、まったく考えていなかったです。

ーーそれこそ歌うことが好きで、歌いたくてアメリカから日本に渡って、動画サイトに自分が歌った音源をアップしていたのは、単純に「好き」という気持ちだけで動いていたってことですよね。

ナノ:そうですね。好きっていう気持ちがなかったら、ここまで続いてなかったと思いますし。正直に言うと、これまでの自分の人生というのは葛藤やつらいことのほうがずっと多かったんです。そんな中で音楽をやっているときだけは楽しかったので、これがないと先の人生やっていけないとそのときに思いました。その部分ではまったく迷いがなくて、だから音楽とは切っても切れない関係なんです。

ーーでも、その大切な音楽を、今は仕事にしてしまっているわけで。そこで自分の中での楽しみや好きなものとしての音楽を職業として作ることで、葛藤が生じることもあったんじゃないでしょうか?

ナノ:ありました。根本的に以前とやってること自体は変わらないんですけど、気持ちの上では違いがあって。趣味としてやっていた頃もプロのミュージシャンを目指してはいたんですけど、あの頃は趣味の範疇だったので好きなことだけをやれるじゃないですか。自分が良いと思ったもの、自分が好きなものだけをやって、自分が納得いくまでやれる。だけど、今のディレクターと出会ってデビューしてから、タイアップ曲を歌ったり作詞したりするようになると、自分がこうしたい、ああしたいだけではとてもじゃないけど成り立たない世界だということに気づくわけです。別にディレクターや外からの注文が嫌だというわけではなくて、自分がそれにうまく応えられる自信がなくて、そういう部分ですごくつらかった時期はありました。自分がすごくちっちゃく感じたというか。

ーーなるほど。

ナノ:しかも、例えば自分がオーディションに参加してディレクターと出会ったのなら話は別ですけど、自分がもがき苦しんでいるときに拾ってくれたので、すごくちっちゃい気持ちでいたんですよ。自信満々でやっていたんじゃなくて、ものすごく自信がないところから始まった。しかもディレクターが、良い意味で新人だからといって手加減しない方だったので、その大きな期待に応えるのが最初は難しかったんですけど、それに応えられなかったら自分に負けるなと思ったので。自分は自称「世界一の負けず嫌い」なので、そこは何が何でも応えるしかないと思いましたね。

「自分の名前をあんな熱く、愛情を持って呼ばれたことがなかった」

ーー思えばナノさんは1枚目シングル(2012年5月発売の『Now or Never』)から大きなタイアップ(NHK Eテレで放送されたアニメ『ファイ・ブレイン 〜神のパズル 2期』のテーマソング)が付いたのを機に、以降の作品ではアニメやゲーム、映画などリスナーに耳に触れる機会の多い作品に楽曲提供してきました。そのリアクションというのもTwitterやSNSを通じて触れてきたと思いますが、最初に自分で自信を持てた、手応えを得られたのっていつ頃でしたか?

ナノ:正直言うと「Now or Never」は初めてのタイアップ曲だったので、自信が付いたかというとそこまでではなくて。不安ももちろんありましたし、と同時に自分に対する期待感もあったんですけど、自分のことで精一杯すぎてその反応というのはまだそこまで強く感じられなかったかもしれないですね。だけど、次の『No pain, No game』(2012年10月発売の2ndシングル)のときはひとつ殻が壊れたかなという気持ちがありました。歌うこと自体もちょっと余裕ができたというか、楽しむことをひとつ覚えたというか。

ーー「No pain, No game」って歌うのもめちゃめちゃ難しい楽曲だと思うんです。

ナノ:そうですね。だから変な話、難しすぎて悩む余裕すらなかったというか(笑)。もう死ぬつもりでレコーディングに挑みましたから、逆にそれが良かったのかな。

ーーその曲がライブなどを通じて、いまだに愛され続けているというのも非常に興味深いですよね。

ナノ:それが一番嬉しいですね。今でもライブで歌うと本当に盛り上がるし。すごく深いですね。

ーーそこから年が明けて2013年、2月に2ndアルバム『N』が発売されて、翌3月16日には新木場STUDIO COASTで初のワンマンライブ『Remember your color.』が開催されました。ライブ自体、それまでほぼ経験がなかったとか。

ナノ:なかったです。今振り返っても、よくあれでステージに立てたなと思えるぐらい、何の心の準備もなくて。でも、それ以前に2500人未満の規模感でライブをやったことがないので、それが大きいのか小さいのかもわからないし比べようがなかったから、そこは良かったのかもしれないですね。そもそも自分自身、舞台だったり人前で何かを披露することがもともと大好きだったので、2500人を前にして何かをやるってことに対する恐怖はなくて。むしろ、やりたくてやりたくて仕方ないという抑えきれない感情がずっとありました。

ーーしかもそこで初めて、それまでネットを通じてコミュニケーションを取っていたリスナーの方々とリアルに対面したと。

ナノ:はい。いまだにひとつ、はっきりと心に刻まれている感情があって。以前はネットやSNSで応援の言葉を目にしていたんですけど、1曲目の「magenta」でステージに出ていって、「ナノーッ!」っていう生の声援を聞いたときの鳥肌……今まで文字で見ていたものが音として聞こえた瞬間、自分の名前をあんな熱く、愛情を持って呼ばれたことがなかったので、あの瞬間は歌詞がぶっ飛びそうになりました(笑)。あの頃はまだイヤモニを使ってなくて、自分の歌声が聞こえなくなるくらい大きな声援で。自分の声が会場に飲み込まれて、ちゃんと聞こえない状況で歌ったことをよく覚えてます。

ーーそこから国内ツアーや海外公演を通じて、ライブの経験をどんどん積んでいくわけですが、ライブならではの“ナノらしさ”というものをステージでどのようにして築き上げていったんでしょうか?

ナノ:これは音作りの段階や歌い方でもそうなんですけど、“自分らしさ”というのが自分の中での一番の課題としてあったんです。正直「ナノって果たして何なんだろう?」ということを本人が一番わからずここまできたから、ライブやツアーに関しても「こういうナノを演じよう」というのがまずなくて。そのときそのときでやってみて違和感を感じるか感じないか、何か良いものを見つけるか見つけないかという、本当に手探りの状態で続けてきたので、変な話ライブが一番自分の素に近いというか。だから「こういうナノを届けよう」というのは、自分としてはあまり考えてないかもしれないですね。むしろ、ライブを通じて新しい自分を生んでいるという感じが強いかもしれません。

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