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オリラジ中田案、チケトレ開設……チケット転売問題の行方は? 経済学者・田中秀臣氏が解説

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 昨夏、一般社団法人日本音楽制作者連盟、一般社団法人日本音楽事業者協会、一般社団法人コンサートプロモーターズ協会、コンピュータ・チケッティング協議会の4団体が、賛同アーティスト、フェス、イベントとの連名で、高額転売防止を訴える共同声明を発表して以降、ファンやアーティストを巻き込んだ形で、活発な議論が行われるようになった“チケット転売”をめぐる一連の問題。ヤフオク!、チケットキャンプといった、従来からチケットの転売に活用されているシステムに加え、6月1日には、上記の4団体が立ち上げた、利用者間でイベントチケットを2次売買できる公式チケットトレードリセール『チケトレ』が、正式オープンする。そもそも、“チケット転売”の問題の本質とは何なのか?   その解決策はどこにあるのか? 『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)などの著書もある経済学者・田中秀臣氏に話を聞きながら、いま改めて考えてみることにしよう。

20170521-tanaka-th-th-ps.jpg田中秀臣氏

 まず、“チケット転売”をめぐる問題とは、経済学的には、どのように考えるべき問題なのだろうか。

「経済学的には、まず市場というものを考えて、その需要と供給が一致するのが、もっとも効率的なわけです。つまり、チケットを求める需要とチケットの供給が、価格を通じて調整されることで一致する。そのときの価格を均衡価格、あるいは市場価格と言うのですが、それが一致していれば、欲しい人には全員チケットが手に入るので、転売問題というものは原則的には起きない。ではなぜ、転売問題が起きるかというと、市場価格よりもチケットの定価が低く設定されてしまっているからです。すると、超過需要という現象が起こる。簡単に言うと品不足ですね。で、チケットが手に入らない人はどうするかというと、正規ではないルートで手に入れたり、転売業者(※筆者注:いわゆる“ダフ屋”ではなく、正規に届け出ている転売業者を指す)から買うことになる。つまり、経済学の観点から見ると、転売業者というのは、需要と供給の不均衡を埋める役割を果たしているわけです」

 いわゆる“ダフ屋行為“――転売目的でチケットを入手し、それを公共の場で売りさばく行為は、多くの自治体の“迷惑防止条例”によって禁止されている。近年は、ネットも“公共の場”に含めるべきだという議論が活発に行われており、いわゆる“転売ヤー”の取り締まりも強化される傾向にある。よって、本稿でいう“転売業者”とは、チケット購入者が何らかの都合によってライブに行けなくなった場合、そのチケットの転売を代行する、正規の“転売業者”を意味することを、あらかじめご留意いただきたい。

 ところで、この4月、オリエンタルラジオの中田敦彦が、自身のブログで“転売撲滅の画期的システム”を発表したことが話題となった。転売問題の構図を、“販売者”と“購入者”という2つのプレイヤーではなく、販売者を“主催者”と“出演者”、購入者を“転売者”と“来場者”に分け、合計4つのプレイヤーが関係する問題として解説した記事だ。曰く、「この問題はいわゆる“経済学的な需給バランスによる価格決定問題”と決定的に異なるところがあると思う」。それについて、田中氏はどのような所感を持ったのだろうか。

「中田さんのブログを見たところ、転売業者がいるからこそ、転売問題が発生すると言っているのですが、それはちょっと違うように思います。転売業者というものは、いま言ったように、定価と市場価格にズレがある、すなわち市場に欠陥があるから存在しているのです。転売業者は、超過需要、すなわちチケットの品不足をもたらすような価格設定を修正する役割を果たしている。よって、市場を効率化させるという点において、転売業者を一概に否定することはできない。むしろ、必要な存在であるというのが、経済学者のいちばんオーソドックスな見方でしょう」

 さらに、中田が提唱する『ジャスト・キャパシティ・システム』(会場のキャパを決めずにチケットを販売。キャンセル料なしという前提で、規模の異なる会場を仮押さえした上で、初動を見て会場を決定する方法)については、以下のようにコメントする。

「彼の言っていることは、結果として、我々経済学者が言っていることと同じだと思います。つまり、需要と供給の一致を図ろうとしている。その手続きとして、彼は会場の大きさ、すなわち座席数で調整しようとしているのですが、私はむしろ、価格を調整したほうが賢明だと思います。キャンセル料なしで複数の会場を押さえるのは、あまり現実的ではないし、価格はオークションで動かせるなど、柔軟性が非常に高く、コストもかからない。定価が市場価格を反映してないのであれば、むしろ一刻も早く、競争的な再販市場を整備するべきでしょう」

 では、そもそも何が“問題”なのか。それは、上記4団体が昨夏行った“転売NO”キャンペーンサイトにも明記されているように、“チケットの高額転売”である。ただし、何をもって“高額”と捉えるかは、人それぞれであり、チケットキャンプなどの転売サイトの多くは、オークション、すなわち顧客の意志によって落札価格が決定されている。経済学的な観点から言うならば、売り手と買い手が満足しているわけで、そこに問題は発生しない。つまり、問題となっているのは、定価と落札価格の“差額”が、誰の利益となるのかなのである。無論、それはアーティストやプロモーターではなく、転売者の利益となる。それが、転売者以外のすべての人にとって、心情的に納得いかない点があるのは、言うまでもないだろう。ちなみに、この問題は、日本に先んじること10数年前、アメリカの経済学界でも、大いに議論されたテーマであるという。

「いわゆるチケット転売問題というものは、すでに21世紀の初め頃、アメリカの経済学会で盛んに議論されていました。その背景には、音楽業界自体がCDのようなメディアを売る商売から、ライブの収益で経営をまわしていくようになったという、ビジネスモデルの変化があります。アメリカは日本よりも早く、90年代からライブが音楽産業の中心となり、ライブのチケット代が高騰し始めたのです。それにともなって、転売問題というのが、アーティストやプロモーター、観客、そして経済学者にとって非常に大きな関心事になっていったのです」

  田中氏曰く、海外の経済学者たちが転売問題を議論するときには、ある共通した枠組みがあるという。

「それは、競争的な再販市場の構築です。経済学者たちの間では、すでに実証研究に基づいた論文がいくつも出ていて、それらの多くは、競争的な再販市場をしっかり構築すれば、そもそもの問題であった定価設定が低すぎることでもたらされた市場のミスマッチ(品不足など)は、やがて解消されるだろうと結論づけています。つまり、コンサートチケットの再販市場は、すべての人に便益をもたらすと。それを誰が整備するのかといったら、オフィシャルな団体がリードして整備するのも一案なのではないでしょうか。その意味で今回、上記の4つのオフィシャル団体が、高額転売に反対声明を出すだけではなく、そこから一歩踏み込んで『チケトレ』というリセールサイトを立ち上げたことは、非常に評価できることだと思います」

 ただし、田中氏は、「チケトレ」が「定価販売」を原則としていることを憂慮しているようだ。

「オフィシャル団体が立ち上げたサイトということで、倫理的、心理的な要因から、他の転売サイトではなく、そこから買いたいという人は一定数いるでしょう。ただ、売る側の問題がありますよね。基本的に運営側は、余ったチケットを持っていないという前提だから、チケットを他所から手に入れなくてはならない。つまり、すでにチケットを持っている人に、利用してもらわなくてはならないわけですが、定価販売が原則であることを考えると……手数料を引いたらマイナスになってしまいますよね。それでどれだけの人が利用しようと思うでしょうか。そして、定価販売とした場合、最初に言った定価と市場価格のズレは、解消されないまま残ってしまう。やはり、ここはもう一歩押し進めて、オークションによる競争的な市場にすべきだと思いますが……」

      

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