小熊俊哉のキュレーション連載スタート! “2017年のロック”を提示する新鋭の5作

 最近のアメリカでは、ワシントンDCの男女4人組ことPriestsのデビュー作『Nothing Feels Natural』が出色の内容。FugaziやBikini Killといった地元ハードコア・シーンの血統を受け継ぎつつ、サーフ・ロックやジャズ・ファンクも呑みこんだノイジーでうねりのあるアンサンブルで聴く者を圧倒します。2012年の結成以来、EPのリリースを重ねながら音楽性を磨いてきただけあってクオリティーは折り紙つき。メロディアスなパートや緩急も織り交ぜた巧妙なアレンジは、くるり・岸田繁も愛したワシントンDCの知性派、The Dismemberment Planの影がチラつくほど。女性フロントのケイティ・アリス・グリアーが放つ危ういオーラも、The SlitsやESGといったポスト・パンク期の女傑や、The KnifeにPerfect Pussyといった近年のライオット・ガールのそれと瓜二つで、『Pitchfork』が「Savages『Silence Yourself』以来のパンク・デビュー作」と激賞するのも納得の逸品です。ライブ動画もインパクトがあるので“女性ドラマーの叩きっぷり!”、ぜひチェックしてみてください。

Priests - Pink White House

 最後に、今の日本で旬のロック・バンドといえば、チャーベこと松田岳二が率いるLEARNERSでしょう。ベスト・セラーとなった前作に引き続き、2作目の『More Learners』でもアクセル全開でかっ飛ばしています。今回もレパートリーを占めるのはロカビリーやカントリー、古き良きポップスにロックンロール。Bow Wow Wowで有名な「I WANT CANDY」やTHE CHECKERSの「ムーンライト・レビュー 50's」のパンキッシュなカバーから、オリジナル曲の「WATER THE FLOWERS」まで、 “過去から未来がやってきた”と言わんばかりにゴキゲンな演奏のオンパレードです。さらに、抜けの良いドラムや、分厚さと分離の良さを両立させた音像にはレコーディングへの拘りも垣間見え、“ライブの勢いを真空パック”というクリシェに収まらない録音芸術としての完成度も特筆すべき点でしょう。そして何より、華やかに踊る紗羅マリーの歌、豪快かつジェントルに弾きまくる堀口チエのギター、強靭にボトムを支えるリズム・セクションと、この5人でなければあり得ない奇跡のバンド・マジックは、ロックンロールの本質的な楽しさを思い出させてくれるはずです。

WATER THE FLOWERS

■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部を経て、現在は音楽サイト『Mikiki』に所属。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。Twitter:@kitikuma3

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