デヴィッド・ボウイに人々が惹きつけられる理由 不世出のアーティストは変容と連続性の間を生きた

 新作ごとに方向性やキャラクターを変化させるのと同時に、過去の曲も演奏し、音楽活動の連続性を保たなければならない。彼は、変容と連続性に引き裂かれそうになる自分に自覚的だった。その種の自覚のありかたは、遡れば、まだ小ヒットを出しただけの段階で、宇宙からやって来たロック・スターと観客の関係を題材にした1972年の『ジギー・スターダスト』にまで遡れる。ロックに憧れていた自分とスターとの距離という内心のテーマが、過去の自分と現在の自分のズレというテーマに移行したように考えられるからだ。

 最初のヒット曲「スペース・オディティ」の主人公である宇宙飛行士は、実はジャンキーだったと歌った「アッシュズ・トゥ・アッシュズ」。さえない青年と華やかなロック・スターを1人2役で演じた「ブルー・ジーン」のビデオ。うっすら髭を生やした熟年のボウイが髪の長い若いボウイの膝に抱かれている『アワーズ』のジャケット。彼は、現在と過去、自分ともう一人の自分の距離を何度もモチーフにした。結果的に最後のツアーとなった2003〜2004年の『リアリティ』ツアーまで、彼はライブでの過去曲演奏は単純な再現ではなく、新曲のモードと釣りあうアレンジにすることを心がけているようだった。変容と連続性のバランスをとろうとしたのだろう。変容を生きた彼を象徴する初期曲「チェンジス」も収録した生前最後のベスト・アルバムが、『ナッシング・ハズ・チェンジド』(なにも変わらない)と題されていたことが、彼の考えかたを暗示している。

 『DAVID BOWIE is』展ではヘッドホンが渡され、映像、衣裳、自筆の歌詞などを来場者が見て回ると、関連した曲や本人のインタビュー音声が自動的に流れる仕組みになっている。音楽と声が次々に耳へ流れ込むことで、彼の変容と連続性を自然に感じとれるわけだ。変わる自分と変わらない自分の両方を誰もが抱えているものだけれど、デヴィッド・ボウイはそれをとてもドラマティックな形で見せてくれた。だから私たちは、彼に惹きつけられる。たぶん、これからも。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。

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