姫乃たま『First Order』インタビュー
姫乃たまが乗り越えた、アイドル活動の葛藤 「やりたくないことをやるのが仕事だと思っていた」
これほど強気な姫乃たまを初めて見た。
姫乃たま名義では初の全国流通盤となるアルバム『First Order』を2016年11月23日にリリースし、2017年2月7日には渋谷WWWでワンマンライブ『アイドルになりたい』を開催する姫乃たま。
彼女はソロ活動のほかにも、佐藤優介(カメラ=万年筆)や金子麻友美との「僕とジョルジュ」、DJまほうつかい(西島大介)との「ひめとまほう」でも音楽活動をしており、彼女のTwitterを見ていると、まるで毎日作詞とレコーディングをしているかのようだ。しかも、ライター仕事の締め切りにも常に追われている状態。姫乃たまは「地下アイドル」を自称しているものの、それだけでは収まりきらない活動をしている。
そんな彼女のソロ・アルバム『First Order』は、姫乃たまを初期から支えてきたSTXを中心にしつつ、藤井洋平と宮崎貴士(図書館、グレンスミス)もソングライターに迎えている。そして、「姫乃たま」という一筋縄ではいかない存在を音楽で見事に表現したアルバムに仕上がった。姫乃たまを知っている人でも、『First Order』では初めて見る「姫乃たま」に出会うことができるだろう。
インタビューで彼女が言い切った、ワンマンライブをソールドアウトさせたいという意気込み。そんな強気な姿勢は、『First Order』というアルバムを完成させた自信ゆえだろう。
約8年の歳月を経て、遂に生まれたソロ名義での初の全国流通盤『First Order』について、姫乃たまに話を聞いた。東京の「地下」には、彼女のようなアイドル、シンガー、作詞家がいるのだ。(宗像明将)
ファンが「自分に向けて歌っている」と感じるように書いた
——『First Order』を作るにあたって、どんなコンセプトからスタートしたのでしょうか?
姫乃:えっと……売れ線にしようと!
——売れ線……!
姫乃:STXさんはデビューした頃から曲を作ってくれていたのに、日の目を見ていない音源が多かったんです。最初にFriendly Spoonのアナログ(2013年『夢の風船旅行』。姫乃たまがボーカルで参加)が全国流通したのも、STXさんに申し訳なくて。僕とジョルジュは、もともとスカートさん(澤部渡によるユニット)とアルバムを作るはずが、いろいろあってなしになったんですが、そちらをSTXさんとのアルバムより先に作るのも「筋が違う」と気にしていたんですよ。それでできた『僕とジョルジュ』(2015年)は、10曲入りでフレンチポップスのシングル曲集みたいなものを目指したら、21曲入りになって(笑)。今度こそ、ジャケットもかわいくして、売れ線にしようとしたのが『First Order』ですね。
——売れ線を狙っているのがちょっと意外ですね。
姫乃:売れたいのか……?
——なんで急に自問自答するんですか……。
姫乃:いや、油断すると私もレーベルも横道にそれがちなので、「売れ線」にしないといけないんです。
——そして完成した結果はいかがでしたか?
姫乃:……。
——なんで黙るんですか……。
姫乃:重いし長い(笑)。10曲で30、40分のはずがこうやって50分以上に(笑)。でも、「あれもこれも」とバランスを取る方向になって、結果的に良くなったのかな。自分のことになると遅くなりがちだし、重いもののほうがファンの人たちにもいいかなと思ったんです。
——「重いもの」というのはどういう意味でしょうか?
姫乃:私はなかなかアルバムを出さないから、重くて聴きごたえがあるほうがいいかなと(笑)。STXさんと藤井さんは違うベクトルで密度が濃いし、宮崎さんもギュッとしているんです。あと、通勤にちょうどよく聴けるサイズにしたかったんですけど……長くないですか? 餓鬼レンジャーのファースト・アルバム(1998年『リップ・サービス』)みたいなのがいいんですよ、30分ぐらいで冒頭がシームレスで。だから、今回は私も初めてマスタリングに行って、曲間を短めにしました。
——いきなり餓鬼レンジャーが出てきましたね。僕とジョルジュやひめとまほうとの違いは意識しましたか?
姫乃:しました! ひめとまほうは全部西島さんに任せていてノータッチなんです。僕とジョルジュの歌詞は、自分ではない女の子の話を書いています。今回の『First Order』は、姫乃たまに近くて、しかもファンの人が聴いたら「自分に向けて歌っている」と感じるように書いたかもしれないです。
——サウンド面ではどんな部分を意識しましたか?
姫乃:「わかりやすいのが一番いいよね」と話していました。僕とジョルジュは、日高央さん(ex.BEAT CRUSADERS、THE STARBEMS)が聴いてくださって、「0か100か、どっちかのアルバム」と言ってくださったんです(笑)。「サブカルおじさんの鎮魂歌だ」って(笑)。だから、ソロの『First Order』は、誰にとっても聴きやすいアルバムにしました。私のおばあちゃんもすごく聴いてくれています。
——いきなり年齢層が高いですね……。『First Order』をリリースしてどんな年齢層から反応がありましたか?
姫乃:反応がいいのは40代、50代の男性ですね。私のファン層じゃないですかね? 40代、50代の男性に好かれる傾向があるので。自分ではなぜかわからないんですけどね。でも、ひとり、ふたり年下の子もいるかな? でも、彼らも重度の鉄オタ(鉄道オタク)なんです(笑)。
——若いのに渋い……! そもそも姫乃たまさんとSTXさんはどういう出会いだったのでしょうか?
姫乃:8年ぐらい前にデビューしたときにオリジナル曲が欲しくて、知り合いの紹介で会ったんです。
——STXさんはどんな音楽的バックグラウンドの方なんですか?
姫乃:エレクトロ畑の人なんです。パーティーを主催していて、DJもしていて、レーベルも持っているんですよ。私は高校が渋谷で、青山蜂(青山のクラブ)のDJパーティーで遊んでいたんです。今のDOMMUNEの裏が高校で、あの前を体育で走っていました(笑)。
——サブカルの呪縛が強すぎますよ!
姫乃:新宿のMARZやMotion(ともにライブハウス)で遊んでいて、共通の知り合いがいたんです。当時は面白がって「アイドル面白くない?」って作ってくれて。
——いわゆるアイドルポップスがわからない状態ですね。
姫乃:私もわからないまま作ったのが良かったのかもしれないです。お互い探り探り始めたんですけど、彼だけ人間性が良くて私のもとに残ってくれました。誕生日のライブも毎年見てくれます。ファンの人が期待している新しい方向性や、私が歌いたい曲を、話さずとも汲んでくれるので、付き合いが長いのは武器ですね。
——STXさんはプログラミングからバンド・サウンドまで幅広いですよね。
姫乃:あのバンド・サウンドも打ち込みなんですよ。『First Order』では、「こういう時期もあったよね」と俯瞰して曲を作ったんです。地下アイドルを始めたときに、アニソンカヴァーをしている子が多くて、「みんなアニソンが好きなのかな?」と、中川翔子さんの「空色デイズ」みたいな曲を作ろうとしたこともあったんです。地下アイドルが参加する勝ち抜き式のライブに向けてマーケティングをしていたけれど、だんだん「違うよね?」とふたりともなってきて、今の楽曲の方向性になってきました。
——そういうバンド・サウンド志向の時期もあったんですね。
姫乃:しかも私は音量至上主義で、ボイトレもどれだけ大きな声を出せるかに特化して習っていたんですよ。グランドピアノを持ちあげて歌ったり、ドラムを身体の大きい人に頼んだり(笑)。
——それで大きな声が出るようになるんですか?
姫乃:なるんですよ!(笑) ダンベルを上げる人が声を上げるのと同じです。でも、おとぎ話の有馬(和樹)くんに「マイクが拾ってくれるから大声を出さなくてもいいんじゃない?」と言われて「本当だ!」と(笑)。私は声が大きくてマイクの音が割れて悩んでいたんですけど(笑)、それから声も小さくなって、気持ちも小さくなって……。