映画『ソレダケ/that’s it』サントラ盤が伝える、ブッチャーズ・吉村秀樹の不屈の闘志

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 「“泣き”って言われるたびに、なんなのそれって思ってた」

 1999年のアルバム『未完成』のときの、吉村秀樹のインタビュー発言を思い出す。あぁ、そうか、そうだったと今になって膝を打ちたい気分だ。

 USのオルタナティヴ・ブームに呼応するよう、日本でもオルタナ/ポスト・ハードコアがようやく注目され始めた90年代後半。96年発表の4th『kocorono』は最高傑作との評価を受け、早くから行っていたUSツアーが実を結んだこともあり、「日本のバンドならブッチャーズが好きだ」と公言する洋楽アーティストが増えていく。翌年にはCHARAに提供した「タイムマシーン」が世間でもヒットし、バンドのみならず、作曲家/メロディメイカーとしての吉村が“泣き”という言葉で多くの音楽ファンに知られるようになった。それまでアンダーグラウンドなポジションに甘んじていたブッチャーズにとっては、なんとも喜ばしい時期だったはずである。

 しかし作られたのは『未完成』。タイトルどおりサウンドは混沌としまくっており、吉村はまったく満足していなかった。むしろ満身創痍、もはやこれまでかという覚悟をもって音と言葉を放っている感すらある。相変わらずメロディは優しい(子供にも歌える素朴な旋律、そして子供のように調子っぱずれで、無防備ゆえに切なさを感じる。人によっては“泣き”と呼ぶであろうムードなのだ)が、本人はまったくそう思っていなかったという事実。なんといっても先行シングルになった「ファウスト」の歌詞はこうである。

〈疲れ切って腹を空かしても/絶え間なく人を傷つける〉
〈努力も息も絶え/残された勘だけで放つ〉

 ここを石井監督は切り取った、のではない。これが吉村秀樹の本質、どうしたって変わらない核というか魂であったと、『ソレダケ/that’s it』を観て確信した。「“泣き”って、なんなのそれ?」。主役の染谷将太が真顔で言っても不思議ではない台詞を、吉村秀樹は15年前すでに口にしていた。そして“泣き”に逃げない者が取る行動はただひとつ……。

 吉村と監督のあいだに、どんな共通認識があったのか、どんな会話があったのかはわからない。ただ、ブッチャーズ最後の作品となった『youth(青春)』の制作時から、二人は水面下でコラボ企画を推めていた。当時の計画や映画内容は今とまったく違ったらしいが、吉村がなんとなく録音しておいた効果音(ギターのハウリング音、演奏前のサウンドチェックらしきもの、低音のドローンなど)は多数残っていた。映画はそれらをふんだんに使用しているため、このサントラは21曲中11曲が効果音。オリジナル曲は10曲のみである。

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