児童虐待をテーマにした曲で賛否両論 文月メイは『明日ママ』問題に一石を投じるか

 児童虐待をテーマにしたデビュー曲「ママ」が波紋を呼び、YouTube動画が新人としては異例の140万回再生を記録した文月メイが、アンサーソングともいえる「Angel」のYouTube動画を1月29日に公開した。

 「ママ」は虐待を受ける子どもの視点から、母親に愛情を与えられずにこの世を去るまでの心境を綴った一曲で、「ぼくのことが邪魔なの? あのゴミ袋と一緒に捨てるの?」「ぼくね、天使になったよ。いつでもママを見守っているよ」といった衝撃的な歌詞が話題となった。ネット上では「心に響く。涙がとまりません」「一人でも多くの人に聴いてほしい」と、同曲が問いかけるメッセージを支持する声があがる一方、「救いがない」「子どもが可哀想すぎる」「虐待する親側にとって都合の良い解釈であり、自己正当化を助長する」と、その表現に疑問を呈する意見も出ている。

文月メイ「ママ」

 一方、この度公開された「Angel」は、アコースティックギターに乗せて母親の視点から子どもへの愛情を歌った一曲。「ママ」では虐待された子どもが亡くなり、自ら天使を名乗る描写が見られるが、「Angel」では母親が生まれたばかりの子どもに対し「You're my angel(あなたは私の天使よ)」と歌っている。両曲では「天使」というフレーズがまったく違う文脈で用いられており、2曲を並べた場合、その解釈をめぐって新たな議論が提起される可能性もある。

文月メイ - Angel

 同じく児童虐待をテーマにした日本テレビのドラマ『明日、ママがいない』は、児童養護施設から「預けられた子どもを傷つけ、精神的な虐待、人権侵害になる」などといった批判が起こり、番組スポンサー全8社が1月29日放送の第3話でCM放送を見合わせるなど、大きな波紋を呼んでいる。日本テレビの大久保好男社長は「抗議は重く受け止めるが、それは必ずしもストーリーを変えることとイコールではない。最後まで見ていただければきちんと理解してもらえると思うし、私もそう現場に指示している」と、全9話の放送を表明している。報道の倫理や表現の自由、人権保護といった問題が複雑にからみ合っているため、なにが正解とは一概に言い難い事例だが、同作が人々の倫理を問おうとする作品であることは間違いない。テーマの扱い方や、登場人物の描き方は大きく異なるものの、非常にセンシティブな問題に踏み込んでいるという点では、文月メイの楽曲と共通するものがあると言える。

 もっとも、文月メイの音楽では、社会派シンガー的な一面のみが持ち味なわけではない。2月5日にリリースされるファーストアルバム『She is.』では、母親との深い信頼関係を描いた「実家」や、生まれ育った街を歌った「ひまわり」など、自身の生活に根ざした等身大の歌も披露している。現在27歳の彼女が、アコースティックなサウンドとともに歌い上げる生々しい心象風景は、今後も波紋を広げそうだ。

 「ママ」が巻き起こした議論により、一層の注目を集めることになった文月メイ。果たしてアルバム『She is.』はどう評価されるのだろうか。
(松下博夫)

文月メイ オフィシャルサイト
facebookページ

■リリース情報
『She is.』
発売:2014年2月5日
価格:¥2,700(税抜)

〈収録曲〉
1. オレンジロード
2. Blue
3. ひまわり
4. 二十歳
5. Stray cat
6. 実家
7. 雨
8. 歳上
9. 生
10. ママ
11. Angel

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