「AIに仕事が奪われた」先にある「未来の仕事」とは? オカムラ『まだ存在しない未来の職業展』が描く“2045年の働き方”

AIの進化が止まらない今、「将来、自分の仕事はAIに奪われてしまうのではないか?」という不安を抱く人は少なくない。技術的特異点(シンギュラリティ)が到来し、生成AIが人間の知性を上回るとされる2045年。私たちは一体、何をして働き、どんな価値を生み出しているのだろうか。
そんな壮大な問いに対する一つの答え、あるいは新たな「問い」を提示する展示が、高輪ゲートウェイシティの「THE LINKPILLAR 2」14階で開催中のオフィス家具メーカー・株式会社オカムラが仕掛ける『0次開発プロジェクト vol.1 まだ存在しない未来の職業展 2045』だ。本稿では、実際に現地で同展示を体験し、感じたことをレポートしていきたい。
創業100周年を見据えた「0次開発プロジェクト」
そもそも、なぜオフィス家具メーカーであるオカムラが「未来の職業」を提示するのか。実は、シンギュラリティが到来すると言われる2045年は、オカムラが創業100周年を迎える節目でもある。その時に自社がどのような事業を行なっているのかを構想することが、本プロジェクトの出発点だという。
本展を主催するオカムラの「0次開発プロジェクト」とは、新規事業の「0→1」のさらに手前にある「まだ言語化されていない問いを探求し、クイックにプロトタイプを作って仮説検証を回す試み」だ。「人間性」「課題発見」「循環」「越境」「変革」という5つの視点を掲げ、テクノロジーの視点と社会課題(ジョブ)の視点を掛け合わせることで、自社単独ではなく社内外のパートナーとの共創を目指したという。
オカムラが掲げる「人が活きる社会の実現」というビジョンのもと、未来の働き方を想像することは、これからの事業領域を考えることにも直結しているのだ。
6,000件の特許から導き出された「50の未来の職業」
会場内には、オカムラがこれまで積み重ねてきた約6,000件(失効済み、申請中の特許も含む)の技術をもとに、AIが代替できないと考えられる50の「未来の職業」がパネルで展示されている。
そこに並ぶ職業名は、「NPCクリエイター」、「シティデバッガー」、「倫理観講師」、「アドウォーカー」など、まるでSF映画やサイバーパンク小説の登場人物のようだが、これらは単なる空想の産物ではない。
例えば「共生デザイナー」は、野生動物の行動ログや習性を都市・建築設計に取り入れ、人間と動物が共に暮らせる都市をつくる職業だ。背景には、冬眠周期の乱れなどで野生動物が意図せず街へ現れる問題が増えているという「Early Signals(現在の兆し)」があり、それを解決するためにオカムラの「エリア利用状況解析システム」の特許技術が応用可能だと示されている。
また、「NPCクリエイター」はeスポーツ選手専用の仮想対戦相手を設計する専門職であり、選手の弱点を見抜いて最適な負荷を設計する。「倫理観講師」は、AIによる選択肢が自動提示される社会において、対話と討論を通じて自分自身の価値観で判断する力を育てる職業だ。
このように、すべての職業には現在の社会課題とオカムラの特許技術が紐づいている。ただ、本来の特許の内容にかなり近しいものもあれば、逆に普通の発想なら結びつかないような飛躍を含むものもあり、そのグラデーションが同展示の面白さともいえるだろう。
身体性と感情が音楽になる「ジェスチャーオーケストラ」
展示の目玉は、2045年の職業を実際に体験できるふたつのプロトタイプだ。
ひとつ目は「ジェスチャーオーケストラ」。AIが多くの創作を代替し、エンタメコンテンツが均質化していく2045年において、「人間にしかできないこと」の価値が高まる「ヒューマンルネサンス」が到来すると仮定して生まれた職業である。
体験者は、近未来的なデザインの専用グローブを装着する。これは、オカムラが10年前から研究している遠隔操作ロボット用の技術「Progress One」の指曲げセンサーを応用したものだという。
この職業の役割は、個人の感情や記憶、そしてその場所の「環境音」の断片を用いて、ジェスチャーでリアルタイムに音楽を再構成することだ。体験では、「街」「森」「海」といった環境テーマを左手で選び、右腕を振ったり、指を曲げたりする体の動きに合わせて音楽が作られていく。例えば「街」を選べばノリの良いテンポになり、「森」では静かに探るような体験になる。動きと音に合わせて、目の前のグラフィックもVJのように変化していくのが直感的で面白い。
実際に体験してみると、自分のちょっとした動きや感情の盛り上がりがダイレクトに音に変換される感覚が非常に新鮮だ。同じ環境音を選んでも、人によって体の使い方が異なるため、全く違う音色や表現が生まれる。AIがどれほど完璧な曲を作ろうとも、生身の身体性や記憶から生み出される“その人・その瞬間だけのノイズや揺らぎ”がそこにあり、あらゆるものがAIで生成できる時代においては大きな価値になるのかもしれない、と実感させられた。
人生150年時代の“やりのこ死”を救う「エンディングエディター」
もう一つの体験が「エンディングエディター」だ。
「シンギュラリティ」の第一人者として知られるレイ・カーツワイルは、「科学の進歩によって寿命は毎年6週間ほど伸びており、2045年には“人生150年時代”が到来する」と予測している。そんな時代がもし訪れたとしたら、人々から“引退”という概念は消え、長すぎる人生の中で目的を見失い、死の間際に後悔する「やりのこ死」が社会問題化する。そんな未来に求められるのが、対話を通じて顧客の過去の記憶や後悔を丁寧に掘り起こし、未来への材料として「人生を再編集」する人生の伴走者「エンディングエディター」なのだとか。
今回の展示ではそんな「エンディングエディター」のカウンセリングを受けることができるそうで、実際に筆者も体験してみた。薄暗いブースに通されると、目の前のスクリーンにはさまざまな質問が表示され、ヘッドセットを通してAIからカウンセリングを受けていく。人生の転換点や自分の過去などについて、「そのとき、どんな気持ちでしたか?」「その時の匂いを覚えていますか?」など、様々な角度から踏み込んだ質問が投げかけられる。このとき、自分の腕には心拍などの生体データが取れるセンサーが装着されており、その質問に受け答えしている際の感情や身体のリアクションも分析される。
人からのカウンセリングを受けた経験がある筆者の所感でいうと、通常は核心に迫るために多くの抽象的な質問やあえて芯を外した質問をしていくものだが、AIはある意味容赦なく真意を問いただしてくる。少し怖くもあったが、相手が人ではないということもあってか、気取らずに話すこともできた。顔の見えない相手に話すという意味では、カジュアルな懺悔室のようにも思えたし、実際に若い世代はチャット型のLLMに一つの人格を見出し、カウンセラーのように使っているわけなので、そういった体験を間接的にできたのは面白かった。
今回はカウンセリングを通じてカルテを制作するところまでを体験できた。だが、本来のエンディングエディターはこの後、対話で得たカルテをもとにさらに深いカウンセリングを行なっていくという。
テクノロジーが極限まで進化し、寿命すらもコントロール可能になるかもしれない未来において、最終的に人が向き合うべきは「自分自身の心」であり、それに伴走してくれる他者の存在なのだと強く感じさせられる体験だった。
テクノロジーの進化が「人間らしさ」を浮き彫りにする
『0次開発プロジェクト vol.1 まだ存在しない未来の職業展 2045』を巡って感じたのは、テクノロジーの進化は決して人間から仕事を奪うだけのものではない、という希望だ。
AIが効率化や最適化を極めるほど、人間の「感情」「身体性」「倫理観」、そして「他者との深い対話」といった、泥臭くも人間らしい部分が新たな価値となり、次の時代の「仕事」になっていく。オカムラが掲げる「人が活きる社会の実現」というビジョンは、どんなに技術が進歩しても変わらない根源的なテーマなのだ。
オカムラは、この展示をきっかけに社内外のパートナーとの共創を呼びかけている。一見すると自社の既存事業とは遠いボールに思える未来の職業も、様々な企業の技術やアイデアが掛け合わさることで、一気にドライブし、現実の新規事業へと昇華していくかもしれない。
本展は、遠い未来のサイエンスフィクションのような話を、特許というファクトを持ちいることによって解きほぐし、私たち自身のこれからの生き方と「働くことの意味」を問い直し、再発見するための展示だったように思う。2045年、これを読んでいるあなたはどんな仕事をしているのだろうか。ぜひ足を運び、改めて考える契機にしてみてほしい。



































