水溜りボンド・カンタ×倉本美津留対談 モンティ・パイソンから『VISUALBUM』、そして現在に受け継がれる「映像コント」のバトン

水溜りボンド・カンタ×倉本美津留対談

 水溜りボンド・カンタによる連載「クリエイティブの方舟」。第一線で活躍するクリエイターをゲストに招き、その思考法や制作の裏側に迫る本企画。今回のゲストは、数々の伝説的なお笑い番組を手がけ、日本のテレビバラエティの歴史を牽引してきた放送作家の倉本美津留を迎えた。

 YouTubeというプラットフォームが一般化し、動画クリエイターとしてのあり方に葛藤を抱えるカンタ。お笑いをルーツに持つ彼が、新しい笑いを生み出し続けてきた倉本さんに悩みを打ち明けるうち、話題は「映像コント」へと広がり、熱い展開を迎えた。その模様を余すところなくお届けしたい。

14年前の渋谷、20人規模の劇場での「ファーストコンタクト」

カンタ:こうして対談という形でお話しするのは初めてですよね。以前、一度だけご飯に連れて行っていただいたことはあるんですが。

倉本:そうやね。あの時は何の流れで行ったんやったっけ。ジャルジャルの福徳(秀介)くんからの繋がりやったかな。僕のYouTubeチャンネルで大喜利のライブ配信をやっていた時に、カンタくんに出てもらったこともあったよね。

カンタ:ありました。ただ、僕はもう個人的に倉本さんの大ファンなんです。昔からダウンタウンさんがものすごく好きだったというのもあるんですが、倉本さんご自身にすごく惹かれていくきっかけがあって。実は僕、大学1年生の時に倉本さんのイベントを見に行っているんです。

倉本:え!? そうなん!?

カンタ:当時、渋谷に「シアターD」という20人くらいしか入らない狭い劇場がありましたよね。そこで倉本さんが突然、「コントについて語る」というイベントを告知されて。それを僕は見に行きました。もう14年くらい前の話です。

倉本:ああ、やったね。なんで俺があんな狭いところで、そんなイベントをやったのかきっかけは忘れてしまったんやけど。誰かに頼まれて突然告知したんやったかな。あの頃のTwitterって、届けたい人にちゃんと届く時代やったからね。でも、あそこにカンタくんが来てくれていたとは。同じ空間に、まだ売れる前の斎藤工くんも来てたみたいなんよ。後から言われて、なんであんなちっちゃい所に後にすごくなる人たちが来てたんやと不思議に思ったんやけど。

カンタ:選ばれし者しかいなかったのかもしれないですね(笑)。当時、倉本さんがイギリスのコメディ集団である「モンティ・パイソン」の映像を見せながら、お笑いのルーツや映像コントの面白さについて講義してくださったのがすごく印象に残っています。

倉本:そうやったね。意外と若い子たちはモンティ・パイソンを通っていない人が多いから。彼らは「笑い」で世界を変えた、コメディ界のビートルズのような存在なんやけど。僕は彼らにすごく影響を受けた人間だから、「絶対にみんな観といた方がええで」って紹介したかったんよね。スクリーンで映像を見せて、窓から人が落ちてくるシュールなコントとかを紹介して。

カンタ:特別授業みたいで、めちゃくちゃ贅沢な座学でした。僕は当時からテレビのお笑いが大好きで、「テレビの源流から教わって、どう自分の今の時代に持ってくるか」というお話にすごく刺激を受けました。当時から大学でお笑いサークルに入っていて、令和ロマンとか真空ジェシカとかも同じ界隈にいたんですが、僕は倉本さんに出会ってしまったことで、「テレビのバラエティのコント」ではなく、「映像でコントをする」という方向に惹かれていったんです。

『VISUALBUM』から『太鼓判』へ 誰もやっていない「新しい笑い」を見抜く眼差し

倉本美津留

倉本:そうか。僕は昔から、舞台でやるライブコントとは違う面白みが作れる「映像遊び」、つまり映像コントが基本的に好きなんですよ。ジャルジャルとも映画を2本くらい作りましたし、その前にはダウンタウンの松本(人志)くんと『HITOSI MATUMOTO VISUALBUM(ビジュアルバム)』という作品を作りました。

カンタ:あの『VISUALBUM』も倉本さんの提案だったんですか?

倉本:そう。モンティ・パイソンに影響を受けていたから、コントをただ見て終わるんじゃなくて、アーティストが発表するアルバムのように、ちゃんとしたショートムービーの感覚で映像作品として残した方がええと提案して作り始めたんよ。

カンタ:ダウンタウンさんもジャルジャルさんもそうですが、当時から僕が大好きだった人たちが、みんな倉本さんのもとに集まっていくという印象があります。倉本さんは昔『太鼓判』というライブも主催されていましたよね。

倉本:ちょうど昨日、10年ぶりに『太鼓判』をやったんよ。あれは、まだ全く無名だったAマッソが面白かったから、認知させたいなと思って立ち上げたイベントで。当時すでに名前が知られていた笑い飯や千鳥と一緒に、全然無名なAマッソをぶち込んで一緒に見せるというありえない贅沢なライブやったね。

カンタ:その「この人は面白い」と見抜くチョイスの感性というのは、どういうものなんですか?

倉本:表現していることが面白いかどうかの1点に尽きるんやけど、それはつまり「今まで誰もやっていない新しいことをやれているか」ということなんですよ。新しい角度を持てるかどうかが一番重要。だから、新しいことをすると、最初はみんな一瞬「ん?」って理解できなくて否定的になる。でも僕はそういうのが好きやから、アンテナが反応して、「大丈夫、おもろいからそのまま行け!」って早めに応援する役割やと思ってずっとやってます。

カンタ:周りが理解していなくても、背中を押すんですね。

倉本:M-1グランプリの審査員をやっていた時もそういう視点でした。無名やけど面白い人たちが決勝に残って、漫才の概念を進化させていく。そのイメージを一番大事にしていましたね。人と違うことをすると最初は否定されるけど、僕がおもろいと言うことで、みんなにとってプラスになるなら言いに行きたい。

カンタ:それは昔からそういう性格なんですか?

倉本:そうかもね。「なんで俺がおもろいと思ってるのに、みんなおもろいと思ってないんや」って変な責任感が出てくるんよ。中学生の頃、ビートルズが大好きやったんやけど、周りの同級生は誰も知らなくて。だからカセットテープに聴きやすい順番で曲を入れて、「これ聴いてみろ」って勝手に配ってPR担当みたいなことをやってた。頼まれてもいないのにおせっかいやね(笑)。でも、1人でも分かってくれる人がいれば続けられるから。

ビートルズの作法と、クリエイターとして走り続けた10年目の葛藤

倉本:僕は基本、ビートルズの作法を基準に物事を考えてるんよ。彼らは常に、今までやったことのない新しいことをやり続けて、世の中の可能性を増やしてきた。エルヴィス・コステロが熱狂的なビートルズファンだったのに、『ラバー・ソウル』が出た時に新しすぎて理解できず、一度嫌いになったというエピソードがあるくらい。面白すぎると、みんな一瞬分からなくて怖くなるんよね。

カンタ:笑い飯さんがM-1に出てきた時も、最初は島田紳助さんと松本人志さんしか高く評価していませんでしたもんね。浸透するのに時間がかかったイメージがあります。

倉本:そうそう。アンテナが高い人間はすぐ分かるんやけど、世間が学習して面白さに気づくまでに半年や1年はかかる。カンタくんがインターネットの世界でお笑いをやり始めた時も、そのスピード感で新しいことに挑戦して成功していった人だなっていう認識があるよ。

カンタ:ありがとうございます。でも実は最近、少し悩みというか葛藤があって。僕がYouTubeを始めた10年前は「あいつ、何をやってるんだ」と否定的な目で見られていたんです。でも今はYouTubeが当たり前の時代になって、むしろYouTubeの方が主流みたいになってきました。

倉本:うん、そうだね。

カンタ:そうなると、昔のように「新しいことをやっている」という感覚が薄れてきてしまって。みんないかに早く流行りものに飛びつくかという競争になっていて、100万再生が取れても、消費される食べ物のような短いスパンの動画ばかりになってしまっている気がするんです。

倉本:なるほど。でも、YouTubeクリエイターという存在が普通になったからといって、開拓者であるカンタくんがそこに安住してはダメよ。売れてるのに「また何してんの?」って思われるような、人がやっていない新しいことをどんどんやり続けてほしい。最近カンタくんがミュージックビデオを撮ったり、映像会社を作ったりしているのも、YouTubeクリエイターでそこまでやっている人は少ないだろうから、すごくいいと思う。ビートルズだって、1枚1枚全然違うアルバムを出して、毎回ファンを一度失望させるくらい自分たちを更新していったんやから。

消費される動画への疑問 あえて企画した「ぼーっとする大会」

水溜りボンド・カンタ

カンタ:実は最近、ジャルジャルさんにも協力していただいて「ぼーっとする大会」というイベントを企画したんです。

倉本:ああ、ネットでちらっと見たよ。「なんやこれ?」って思った(笑)。

カンタ:今のインターネット社会って、常に「今日も再生数を稼がなきゃ」という焦燥感に駆られる感情があって。だからもうネットを手放して、逆方向に走っていこうと。毎日数字と戦っているからこそ、その狂気みたいなものを止めに行くために、みんなでただ「ぼーっとする」大会をやりました。

倉本:面白い企画やね。どこでやったん?

カンタ:ジャルジャルさんにMCとして入ってもらったのは、すごいスピードで移動する新幹線の中でやった回ですね。「笑ってはいけない」みたいな要素も入れつつ、無心で耐えなければならない。ぼーっとできなかったら途中の名古屋駅とかで降ろされるというルールでした。

倉本:へえ〜(笑)。そんなことやってたんや。

カンタ:僕自身、ネットを10年やってきて、中学生がバンバン顔を出して動画を上げているのを見ると、「インターネットって果たしていいものなのか」と疑問に思う瞬間があるんです。僕が大学生の頃は、一生就職できなくなるかもと怯えながら顔を出していたのに。ネットに助けられもしたけど、傷つけられもした。だからもうちょっとネットを退けて、みんなでゼロになろうよっていう感情が出てきたんだと思います。

倉本:でも、そうやって自分が感じたことを企画にして、いろんな人を巻き込んで形にしていけるのは素晴らしいことやね。そういう方向に少しずつ進んでいけばええと思うよ。

「本当はコントがやりたい」――お笑いへのリスペクトと呪縛からの解放

カンタ:倉本さんにそう言っていただけると嬉しいです。それで、実はもう一つ、ずっと心の中にあって、あまり人には言ってこなかったことがあるんです。

倉本:何?

カンタ:僕ら、水溜りボンドって元々お笑いコンビとして始まっているんです。キングオブコントでも3000組中300組まで残ったことがあって。大学生のうちに準決勝まで行くような芸人になろうと決めていました。でも、知名度がないと勝ち上がれないから、知ってもらうためにYouTubeを始めたんです。

倉本:そうか、そこまでの覚悟を持ってやってたんやね。そっちがスタートやったんや。

カンタ:はい。そしたらYouTubeの方に引っ張られていってしまって、気づけば「お笑い芸人」にはなれなくなってしまった。お笑いが大好きで、芸人さんへのリスペクトが強すぎるあまり、自分の中で「芸人じゃない自分は、もうコントはできない」と線を引いて逃げていた部分があるんです。芸人の職域を荒らしてはいけないんじゃないかって。でも、本当はコントがやりたいんです。

倉本:いや、そんなの全然関係ないよ! 面白いコントを作れるんやったらそれでええやんか。「芸人へのリスペクトがあるから」って遠慮するのは考えすぎやね。面白い映像コントを作ったらええねん。イコール芸人だと思わなくていいし、医者の役になってコントをするのと同じように、エンターテインメントとしてやればいい。

カンタ:そうですよね……。どうしても芸人さんの腕や漫才の技術を見ると、今からじゃ勝てないと思ってしまって。

倉本:カンタくんは、今のテレビのバラエティのコントを追うから無理やと思うだけで、原点に戻ってモンティ・パイソンみたいな誰もやっていないコントを研究して作ればいい。それはめっちゃチャンスやと思う。後ろを追うのではなく、自分の中のコントを作ればいいんよ。というか……それ、一緒にやろうよ。俺が監督するし。

カンタ:えっ!? 本当にいいんですか!?

倉本:絶対やろうよ。俺がYouTube上に上がってる『どエンゼル』っていう映像コント番組があるんやけど、笑い飯がM-1で人気が出た頃に、俺がモンティ・パイソンの感覚で彼らと作った1時間の映像コントなんよ。そういうのを今やろう。今の時代ならiPhoneで手軽に撮れるし、カンタくんは編集もできる。俺が「編集で笑いを作る方法」を教えるから。何フレームか変えるだけで笑えるかどうかが決まる、とか。

カンタ:編集で笑いを作る……めちゃくちゃやりたいです!

倉本:カンタくんのコント集団を作って、そこに僕がキャスティングして面白いメンバーを呼んでもいい。モンティ・パイソンも6人組で、作家がそのまま出演して監督もするスタイルやったから。俺も出るし、あと4〜5人誰を入れるか考えよう。竹中直人さんとかも、面白いことやるなら「行く行く!」って来てくれると思うよ。

カンタ:えええ! 竹中直人さんまで!? すごすぎる……。

AIの無駄遣い、そして縦型動画 全く新しい「映像コント集団」の幕開け

カンタ:ちなみに、僕らの会社で縦型のショートドラマのチャンネルもやっていて、登録者が20万人くらいいるんです。縦ならではのフォーマットで面白いコントを作るというのはどう思われますか?

倉本:もちろんアリやと思う。縦型で本当にクオリティの高い映像コントを作るのはいいと思うよ。例えば、さっき言ってた「人がどんどん落ちてくる」みたいなコントを、縦の画面を活かして作るとか。まだ縦型で笑わせることに真剣に取り組んで、映画的な見え方をするような作品って少ないから、そこを突破できたら面白い。

カンタ:なるほど。あとは今なら、AIを使うのも面白いなと思っていて。

倉本:そう! AIを使って誰もやっていないような笑いを作るのは絶対に面白い。昔からイメージがあったんやけど、公園で遊んでる子供たちのところに不思議なおっさんがやってきて、子供の鼻をポンと触るとピューッと伸びる。で、鼻が伸びた子供たちがただ楽しそうに戯れてるだけの映像。昔は映像化が難しかったけど、今のAIならできるやろ?

カンタ:それ絶対できます! 最高のAIの無駄遣いですね(笑)。ただ不気味なだけじゃなくて、笑えるAIの使い方。

倉本:そうそう。みんなAIをシリアスなものや便利なものとして使ってるけど、笑いのために特化させてる人はまだおらんと思う。ただ、とりあえず縦横のどっちかについては、横型でスタンダードなものをまずはやったほうがいいと思うな。

カンタ:いや、今日対談に来た意味が本当にわかりました。めちゃくちゃワクワクしています。クリエイターとして10年やってきて、次に何をすればいいかモヤモヤしていた部分があったんですが、一気に晴れました。

倉本:じゃあ、もうやろう! この場で決定!(笑) カンタくんと俺の組み合わせって、絶対に新しいことができると思うから。世間が持っている「水溜りボンド・カンタ」のイメージがあると思うけど、それを否定するわけではなく、「あ、こんな深く面白いこともできるんや」っていうのを出していく。本気で映像コントのプロジェクトを立ち上げよう。

カンタ:やりましょう。いつにしますって言い切らないと進まないですよね。

倉本:そうやで。言うてるだけで終わったらあかんから、次のミーティングの日程を今決めよう。

カンタ:こうやってその場で決めていくから色んなことが進むんですね……。あらためて倉本さんの行動力がすごいと思いました。

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