最先端バイオテクノロジーがもたらす“究極のキャラクター表現” 『SONIC THE HEDGEHOG DNA FIGURE』セガ・星野一幸 × LOM BABY鼎談

セガ・星野一幸 × LOM BABY鼎談

 1991年の誕生以来、時代を超えて愛され続け、唯一無二の個性で世界中のファンを魅了してきたセガの世界的キャラクター「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」。そのソニックが35周年を迎えた今年、革新的なアート作品「SONIC THE HEDGEHOG DNA FIGURE」が誕生した。

 同プロジェクトは、最先端のバイオテクノロジーを駆使し、ソニックを象徴する特徴を“キャラクターのDNA”として設計・合成。その実態のある人工DNAを、胸元に輝くカオスエメラルドの中に封入した等身大フィギュア。現在、渋谷PARCO 6階の「SEGA STORE TOKYO」にて期間限定で展示されており、大きな話題を呼んでいる。

 従来の「造形や彩色」によってキャラクターの姿を立体化してきたフィギュアとは一線を画し「どのような特徴を持ち、なぜそのキャラクターらしいのか」という存在の核(コア)をDNAという生命の設計図として具現化した前代未聞のプロジェクトは、いかにして生まれ、どのような思いが込められているのか。

 セガで「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のクリエイティブディレクターを務める星野一幸氏と、「生命の誕生」をテーマに活動し、本フィギュアのDNA設計・合成および造形を手掛けたサイエンスコレクティブ「LOM BABY」の青木寛和氏、浪岡拓也氏による鼎談インタビューをお届けする。(編集部)

ソニックの「冒険心」はハリネズミの「探索行動」のDNAとリンクしていた

左からクリエイティブディレクター 星野一幸氏、サイエンスコレクティブ「LOM BABY」青木寛和氏、浪岡拓也氏

ーーソニック生誕35周年プロジェクトの一環として、この「SONIC THE HEDGEHOG DNA FIGURE」という非常に特殊かつ革新的な企画が立ち上がった背景からお聞かせください。

星野:もともと私自身が、LOM BABYさんが過去に手がけられた、架空の宇宙人のDNAを用いた作品や、恐竜や龍といった存在の細胞や肉を培養して表現するバイオアートの取り組みを拝見し、非常に驚かされたんです。我々としても「ソニックブランドとして常に新しいことに挑戦していきたい」という強い思いがありましたので、ソニックでこの技術を用いたコラボレーションができたら、間違いなく誰も見たことがない新しいものになるだろうと考えました。

浪岡:セガさんからお声がけいただいたときは本当に驚きましたし、光栄でした。私たちLOM BABYは「生命の誕生」をテーマに、アーティストやエンジニア、科学者などで構成されたサイエンスコレクティブです。約3年前からこの「DNAフィギュア」の構想をスタートさせたのですが、その根底には「2次元にいるキャラクターを、ゲームやアニメ、漫画とは違う次元、つまりテクノロジーの力で現実の3次元世界に引っ張り出すことはできないか」という思いがありました。 そのプロセスにおいて、まずは版権が関わらない世界中で最も有名な空想上の存在として「龍」に行き着き、第2弾として「宇宙人」を扱いました。ただ、我々にとってそれらはあくまで、最終的に行き着きたい「世界的なIPとのコラボレーション」を実現するための手段というか、技術的な証明や認知を広げるためのステップだったんです。ですから、今回ソニックという世界中から愛されるIPで実現できたことは、我々がまさに思い描いていた到達点の一つでした。

ーー今回のフィギュアは従来の「造形や彩色」に留まらず、キャラクターの「存在そのもの」を表現する新しいフィギュアと定義されています。プロジェクトを進めるにあたり、「ソニックのDNAを設計する」という途方もない作業はどのように行われたのでしょうか?

星野:目的は「ソニックのDNAというものを開発し、それをリアルに誕生させる」ということでした。そのためには、そもそも「ソニックって何だっけ?」という本質的な問いを、もう一度我々自身が深く掘り直す必要がありました。 そこで、ソニックを象徴する特徴をピックアップし、これだけ揃えば誰もが納得する「ソニックだ」と言える要素としてLOM BABYさんにお渡ししたんです。例えば「青い身体」「音速で走る能力」「ブースト能力(超加速)」「自由でクールな性格」「冒険好き/じっとしていられない」「体を丸めてスピンできる」といった要素や、「泳ぐことができない」といった弱点に至るまで、身体的特徴から精神性までを含めた設定です。

浪岡:いただいた詳細なリストを我々のチームの研究員に渡したとき、非常に面白い反応がありました。というのも、過去のプロジェクト、例えば龍を作った時などは、さまざまな動物の生物的・物理的な特徴のDNAだけを抽出して組み合わせており、「精神性」までは入れていなかったんです。 しかし今回は、ソニックの「冒険心」や「ヒーロー性」「じっとしていられない」といった内面的な特徴がリストに含まれていました。足が速いことや青い色といった外的な物理的DNA以外の部分を、どうやって表現していくのか。そこが我々の腕の見せ所でした。

青木:具体的には、ソニックがハリネズミであることをベースにしつつ、「冒険心」という要素であれば、ハリネズミの「探索行動」を司るDNAの部分を増幅させたりすることで、「探索意欲が強い=冒険心が強い」というロジカルな形で設計し、心の設計図として落とし込んでいったんです。

ーー「ハリネズミ」というモチーフが、実際のハリネズミの「探索行動のDNA」を通じてソニックの「冒険心」とロジカルに結びつくというのは、非常に興味深いシナジーですね。

星野:ソニックのモチーフをハリネズミにしたのは、元々「敵を倒すために体を丸めてスピンする」というゲームシステムの遊びの部分から採用したものなので、我々としては「ハリネズミの探索性が冒険心に繋がる」というところまでの逆引き的な意図は当初はありませんでした。ですが、我々が提示した特徴を、LOM BABYさんが見事に生命の記号である「DNA」に落とし込んでくれた。図らずも一致した部分ではありますが、それをロジカルにDNAの塩基配列として構築し、意味を持たせてくれたことは本当に素晴らしいと思いますし、まったく新しい表現だと感じましたね。

ーーDNAの設計・合成プロセスについても具体的に伺いたいのですが、「青い身体」や「音速で走れる能力」を塩基配列に変換し、物理的なDNAを生成するまでにはどのような連携があったのでしょうか?

浪岡:ソニックの様々な特徴から導き出した塩基配列のデータ、つまりA、T、G、Cの4進法のコードを設計します。それを、DNA合成やゲノム編集技術を手掛けるアメリカの高度なバイオ研究機関に依頼し、実際の物理的なDNA素材として合成してもらいます。 その後、送られてきた複数のDNAフラグメント(素材)を日本国内の我々のラボに集め、研究員の手で「ソニック・ザ・ヘッジホッグの全ゲノム」として一つのDNAに統合します。

 そのDNAを独自開発した人工樹液の中に封入し、琥珀結晶化させたうえで、フィギュアの胸元のカオスエメラルドに封入しています。世界最高峰の機関と連携することで、単なるギミックではなく、本物の「命の設計図」として機能するクオリティを担保しているんです。現在は、このDNAから細胞をプリントし、皮膚や鱗を形成技術の実現に向けて、関連技術を持つ企業との連携も進めています。

セガのゲームに息づいていた「A-Life(人工生命)」の文脈

ーーDNAを封入する器となる「等身大フィギュア」のデザインや質感についても、大きな驚きがありました。全身がシルバーのミラー塗装で、胸元にカオスエメラルドが輝いているという非常に象徴的な姿ですが、この造形において最もこだわったポイントを教えてください。

星野:造形を進める上での大前提となる要件は、このフィギュアが「DNAの格納容器」であるということでした。そして同時に、それが誰が見ても「ソニック」でなければなりません。 デザインのプロセスは、ある意味で「ソニックらしさをどこまで引き算できるか」という挑戦でした。格納容器としての機能を最大化し、アートとしての美しさを追求するなら、極端な話、ソニック特有の体温も毛並みもいりませんし、なんなら「青くなくてもいい」という決断に至ったのです。不要な情報を極限まで削ぎ落とし、ミラー仕上げのシルバーにすることで、中に封入されたDNAの存在感、つまり「命」をより際立たせることを目指しました。

人工DNAを、胸元に輝くカオスエメラルドの中に封入した等身大ソニックフィギュア

浪岡:DNAを保管するための装置や器官、カプセルというものを考えた時、有名な話ですがアインシュタインの脳がステンレスの容器で保管されているように、我々もDNAを格納する存在意義を表現するために、全身を金属的な質感の鏡面加工にしました。 また、展示場所が渋谷PARCOの「SEGA STORE TOKYO」であることも最初からイメージしていました。店舗がある6Fの「CYBERSPACE SHIBUYA」は様々なIPのキャラクターグッズが溢れる、とてもカラフルでポップな空間です。

 もしソニックに通常の青い塗装を施していたら、その空間に埋没してしまい、単なる「大きなフィギュアの装飾」として見過ごされてしまったかもしれません。 しかし、全身をシルバーのミラー塗装にし、そこにセガストアの青い照明が反射して身体が青く染まり、その瞬間に「ソニック」が完成する。そんなダブルミーニングを込めた演出を考えました。結果的に、ソニックのファンではない通りすがりの中にも、その異質な存在感に引き寄せられて足を止め、写真を撮っていく方がたくさんいらっしゃいました。

星野:視覚的な着色や装飾を削ぎ落としたからこそ、その奥にある生命感や本質的なメッセージが、事前情報を持たない通りすがりの人の心にも真っ直ぐに届いたのだと思います。

ーーカオスエメラルドがソニックの胸元で浮遊し、その中にDNAが封入されているという演出も非常に劇的です。この視覚的な演出によって来場者に何を感じ取ってほしいですか?

星野:カオスエメラルドは、ソニックの世界において非常に象徴的で、謎めいた力を秘めた存在です。今回は、そのカオスエメラルドに「DNA」という本プロジェクトの核心的な部分を取り込みました。 そして、それがただの宝石として飾られているのではなく、ソニックの胸元、つまり「心臓」や「命」のありかとして配置されている。しかも、ソニック自身がそれを力強く指差している造形になっています。この一連の演出によって、「オレはオレさ!」「悩む暇があったら走るんだ!」といったソニックの揺るぎない精神性やメッセージを、言葉を使わずにトータルで伝えたかったんです。

浪岡:あのカオスエメラルドの造形は、日本の超一流の工房の職人さんたちが、本当に魂を込めて作り上げてくださったものです。実は、今展示されているものは「テイク2」なんです。 最初に作っていただいた段階で、星野さんから「カオスエメラルドらしくするには、もうちょっとエッジを立たせたい」というフィードバックがありました。それを実現するためには、デジタルでやり直すようなことはできず、職人さんがゴールデンウィークの休みを返上して、毎日手作業でひたすら磨き続けるしかなかったんです。

星野:そうなんです。我々ゲーム開発の現場では、ポリゴンであればキーボードを叩いて何度でも形を修正できます。しかし、フィジカルなモノづくりの世界、しかもアートピースとなると、「Ctrl+Z(取り消し)」がない世界です。デジタルのようにやり直しが効かない、超アナログなクラフトマンシップの執念と迫力には、本当に圧倒されました。

浪岡:継ぎ目が一つもなく、本当に動き出しそうなほど滑らかで美しい仕上がりにしていただきました。情報量を足していくのではなく、引き算の果てに職人の手で極限まで磨き上げられたからこそ、そこに本物の「生命感」が宿ったのだと思います。展示を見た方からも「本当に動き出しそう」というコメントを多数いただき、細部まで突き詰めることで命を感じてもらえるのだと確信しました。

ーーテクノロジーとエンターテインメントの融合という点において、セガとLOM BABYの間には非常に深い親和性を感じます。エンターテインメント領域におけるバイオテクノロジーの可能性をどのように捉えられていますか?

浪岡:実は、セガさんとお仕事をご一緒する中で、本当に鳥肌が立つような発見があったんです。 我々は「A-Life(人工生命)」の技術を扱う企業として新しいカテゴリーを切り拓こうとしているのですが、実はセガさんは今から約30年も前の『ナイツ(ナイツ NiGHTS into dreams...)』というゲームの中で、すでにA-Lifeのシステムが導入されていたんです。その後も『ソニックアドベンチャー』の「チャオ」などにその概念は継承されています。

 世界中にバイオテクノロジーや製薬のトップ企業はたくさんありますが、「バイオ×エンターテインメント」という文脈において、セガさんに並ぶ存在は他にないと思っています。30年前に我々が今面白いと思っていることのパイオニアだった企業と、こうして最先端のテクノロジーを用いてコラボレーションできたことは、奇跡的というか、出会うべくして出会ったのだと感じています。

ーー『ナイツ』はまさにソニックシリーズの制作チームが携わった、当時から実験的なタイトルでしたよね。本日の星野さんのTシャツもまさに「チャオ」のデザインですが、それは『ナイツ』のお話に辿り着くための伏線だったり……?

星野:いや、本当に偶然です(笑)。『ナイツ』は当時の私たちゲーム開発チームが、限られたハードウェアの性能の中で「キャラクターに自律的な命を吹き込む」ということにどれほどの情熱を傾けていたかというのを感じていただけるタイトルですよね。その根底にあるスピリットが、現在のLOM BABYさんのアプローチと見事に共鳴したのだと思います。

浪岡:もし30年前に、今回のような「ソニックのDNAを合成して封入するフィギュア」を作ろうとしたら、おそらく国家予算レベル、新幹線を通せるほどの予算が必要だったはずです。それが今、技術の進化によって実現できる時代になった。 我々世代が子どもの頃にSF映画やゲームで見た「未来のワクワク」、まだVHSでビデオをすり減るまで見ていたような世代が思い描いた空想の世界を、現実世界で具現化できる絶好のタイミングに立ち会えていると感じています。

ーー今回のプロジェクトを通じて、ソニックの「本質的な魅力」や「存在意義」について、改めて気付かされたことはありますか?

星野:我々は常にソニックと向き合い、誰よりもソニックに詳しいという自負がありますので、キャラクター自身について新しい発見があったというよりは、「ソニックらしさを世界に伝えていく手段」として、今回のアプローチが全く新しいベクトルを持っていることに気づかされました。 従来であればゲームや映像、音楽を通じて伝えていたものを、今回は「DNA」という物質に落とし込み、時間軸に訴えかけていく。何千年も残る可能性があるというアプローチは、我々にとっても未知の領域であり、非常に新鮮でしたね。

浪岡:DNAという物質は、理論上は適切な環境で保管すれば何千年という時間軸で保持されます。 デジタル空間で生きるソニックを、現実世界で最も長く保管できるテクノロジーを用いて残し続ける。それはある意味で、2次元のキャラクターと私たち現実の人間とが、これまで以上にもっと近くなれる方法の1つだと思っています。エンターテインメントを体感する手段として、映画やアニメ、ゲームとはまた違う、もう一つの新たなカテゴリーを生み出せたのではないかと感じています。

ーー35周年を迎えたソニックですが、さらに先の50周年に向けて、テクノロジー×エンターテインメントという切り口から、どのような形で世界中のファンに驚きを届けていきたいですか?

星野:我々ゲームメーカーとしては、テクノロジーが進化するのを待ってその後追いをするのではなく、ゲームというクリエイティブの側が常に先走って、「未来はこうなったら面白い」というビジョンを提示し続けなければならないと考えています。 そのゲーム側が提示するビジョンと、LOM BABYさんのような最先端のテクノロジーを持った方々のアプローチが融合することで、誰も見たことのないケミストリーが生まれる。後から振り返ったときに「あの時、あんなトンガッたことをやっていたんだな」と言われるような驚きを、これからも世界中のファンに届けていきたいですね。

浪岡:我々としては、今回のDNAフィギュアの文脈からいくと、次回はぜひ「シャドウ」でやりたいと強く思っています。彼は設定上「究極生命体」として生み出された存在ですから、バイオテクノロジーを用いた我々のアプローチとはナラティブの面でも完璧にマッチします。SNSなどでもファンの皆様からそういった声をいただいているので、星野さんに直訴し続けているところです(笑)。

星野:反響を見ながら前向きに検討していきたいです(笑)。

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