大阪でさまざまなスタートアップ×研究・支援機関による共創が生まれ続けている理由とは? JAM BASE×VIE×MUIC Kansaiのキーパーソンが語り合う

関西におけるスタートアップの背景とは

『JAM BASE』が目指す施設像

ーーそもそも『JAM BASE』が目指す施設像として、どのような考え方があったのでしょうか。

窪庭:関西は、スタートアップの資金調達額が東京と比べて少ないため、資金調達環境を整備し、スタートアップやVCの方々が集積する場や、新しいビジネスを作る人たちが集まれる場を作りたいと思っていました。グラングリーン大阪というアクセスしやすい梅田の地に『JAM BASE』はありますが、例えば、会員制交流スペース「Syn-SALON」は個人、法人ともに月額11,000円(税込)から利用でき、場所の相場を考えても利用料は非常に抑えた価格帯に設定しております。これはスタートアップの方に限らず、VCの方、支援機関の方々にも参画いただくことを見込んでのことでした。

今村:使えるインフラに対して、圧倒的に格安ですよね。すごくラグジュアリーな空間なのに。

ーーインフラや価格帯も『JAM BASE』ならではですが、入居されている企業・団体のラインナップが多様であることも特徴ですよね。これも意図的に多様化させている部分はあるのでしょうか。

窪庭:そうですね、『JAM BASE』はごちゃごちゃ空間をキーワードとしており、スタートアップやVCの方々はもちろん、MUIC Kansaiさんのような支援機関、金融機関、さらには大学・研究機関やクリエイターの方々にも入居いただいており、我々のほうからカテゴリを絞るということはしていません。多様な方々がごちゃごちゃに集うことで得られる新しい刺激や、発見があると思いますし、実際、全く異なる領域同士での共創も生まれています。

ーーMUIC Kansaiとしては支援する側でありながら、同じ場所に入居するという特殊な立ち位置だと思います。『JAM BASE』の立ち上げに際して、どのような印象を持たれましたか。

上野:我々は2021年から大阪を拠点に活動を始めています。これは『EXPO 2025 大阪・関西万博』を契機として、地域の社会課題の解決と新しい事業の創出をこの地域でやっていくことを目指してのもので、関西を中心に大企業やスタートアップなどとの連携活動を進めてきました。そんな我々の機能の主核にあるのが「課題解決プログラム」です。これは、観光、環境、健康、食、エンタメ等といった重点領域で、大企業とスタートアップを結びつけ、社会課題の発見からソリューションの実証、社会実装までを支援するプラットフォームを提供するというもので、累計100件以上の実証実験を支援し、その中から26件が社会実装に至っています。

MUIC Kansai 事務局長の上野文博氏

 『JAM BASE』のオフィスには開業以来入居しており、今回のVIEさんのように、入居企業の方との共創の機会を探ってきました。万博が終わった後も「万博レガシーの社会実装プラットフォーム」というビジョンに則り、万博で披露された新しい技術やサービスを社会実装していく活動を強化しております。

ーー『EXPO 2025 大阪・関西万博』を起点に考えると、たしかに自分の周辺にいる会社をはじめ、各パビリオンにさまざまなスタートアップが絡んでいるという印象を受けました。VIE社もそのうちの一社ですよね?

上野:VIEさんは「大阪ヘルスケアパビリオン」でコンテンツを提供されていたり、ニューロミュージックでの技術協力もいただいています。万博でも披露されたこのような新技術をまさに「万博レガシー」として社会の中に実装していくべきであると考え、数多ある『JAM BASE』入居企業の中でも特に注目していました。

ーーまさに万博のタイミングで大阪には大きな流れが来ているように思えます。万博にも関わるMUICさんとして、どのような気運や流れを感じていますか?

上野:今は会期の終盤でもあるので「万博を契機に盛り上がっているものを、そのまま終わらせずに継続していくべきだ」という気運の高まりをより感じますね。これは我々だけでなく、他の支援機関や行政も含め、みなさんが思っていて口に出していることでもありますが、いまはそれをスローガンだけで終わらせないように、着実に実行していく段階にあります。MUIC Kansaiとしての活動の成果が出ていくのは、まさにこれからだと考えています。

ーーVIEさんもそうですが、スタートアップや支援機関等が万博需要なども含めて大阪やJAM BASEに拠点を持つ流れも増えているのでしょうか。

窪庭:大阪・関西を盛り上げるべく、VCや大企業、金融機関、行政等が大阪やJAM BASEに拠点を構えて活動いただける事例が増えているなと思います。それに呼応して、スタートアップなどのプレイヤーも多くJAM BASEに来たり、入居する事例というのが増えてきているので、チャンスのある場所として捉え、活動されているように感じています。

ーーコミュニティ運営の手応えは掴めている一方で、今後に向けての課題や目標などがあれば教えてください。

窪庭:我々としては、他の施設との連携をこれからさらに推進していきたいと考えています。オープンイノベーション施設や、地方の支援施設とも連携して、JAM BASEに入居する方々が、より発展できるような環境づくりをしていきたいと思っています。

上野: 我々が目指すのは「社会実装された技術やサービスをもっと成長させていく」こと。つまり、より成長にこだわった支援に注力していくことです。規模を大きくするところもそうですし、よりインパクトを大きくするような事業の支援をするために課題感を持って取り組んでいます。

ーー今回のイベント「雲海リトリート」に話を戻します。アウトプットに至るまで、どのようなコミュニケーションややり取りがあったのでしょうか。

今村: 公園でのイベントには多くの方々が関わっており、非常に時間が少ない中での実現でしたが、みなさんがスピード感をもって調整してくださいました。このプロジェクトで最も重要だったのは「みんなにとっていいじゃん」という旗印が立てられたことです。イベント実施にはお金もかかるし、準備、調整事項も多くありました。ただ、「市民の方々にとって良い」というパブリックな価値を軸として考えたとき、日常的に子どもたちが遊び回る環境のなかで、確実に安全を担保しながらあらゆる方に楽しんでいただけるものが提供できると思ったんです。それを実現するために窪庭さんと上野さんを中心に公園管理を行う「一般社団法人うめきたMMO」のみなさまや事業会社の方々に調整をしていただけたのが最も大きかったと感じています。

上野:今回のプロジェクトでは、都市公園とナイトコンテンツというものが、ビジネスとしていかに有効であるか、いかに横展開できるか、という観点で考えていました。VIEさんにご提供いただいた「脳を整えるリトリート体験」を他の都市空間や自然環境にも組み込んでいくことができれば、誰しもがアクセスできるウェルビーイング社会に近づいていくと考えています。今回の実証を通じて、そういったものが社会の中に実装され、広がっていくことを期待しています。

ーー 他の都市や自然環境での再現性の可能性はどのように感じられましたか?

上野:公園来場者数と滞留時間を測定したデータを見たとき、通常時と比べても十分そのビジネス展開の可能性があると感じました。あと、我々自身も他の入居企業さんから直接反響をいただくこともありましたね。

今村:アンケート結果を見ると「30分以上滞在した方が半分いた※」とのことでした。猛暑が続く、8月だったことを考えると信じられない結果です。

※本アンケートは、2025年8月27日に『雲海リトリート』来場者を対象に、VIE株式会社が実施したものです(回答数:51件)アンケート結果より:『30分以上滞在した』と回答した方が全体の51%(n=26)」。

窪庭:8月は暑い期間でしたが、ミストによる涼しげな体験とVIEさんの魅力的なニューロミュージックによる「整える体験」によって、うめきた公園に多くの方がお越しいただけたと思っています。暑かろうと、そういう空間や体験があれば、実際たくさんの人が来てくれるというのを実感できたので、今後に向けてもすごく良い経験になりました。

ーー今回のコラボレーションを通じて、今村さんが感じた興味深かった反応などがあれば教えてください。

今村:グラングリーン大阪でリトリート体験というイベント形式を私たちがやっている、ということに対して、クライアント候補からも「すごい、こんなところでやっているんだ」という反応を多くいただきましたし、うめきた公園に携わっているデベロッパーの方や運営者のみなさんが、本当に公園を愛しているということを感じました。その人たちがみんな喜んでくれた。みんなが声をかけてくれたという嬉しい体験でした。継続してほしい、来年もやらないか、という要望も多くいただきましたので、我々としては「脳をととのえる」という、心やウェルビーイングといった、目に見えにくいものをしっかり形にする会社ですが、イベント形式で涼しい夏に涼感のある体験ができるよう、感覚を脳で変えていくということを、いろんな場所でやっていければと思っています。

ーー最後に『JAM BASE』やMUIC Kansaiが目指す今後の展望についても伺わせてください。

窪庭:『JAM BASE』は今後も、「多様なプレイヤーが同じ空間に“いる”からこそ生まれる共創」を加速させていければと思っています。迎えた 1 周年を通過点に、さらなるネットワークの拡大と、大阪・関西から世界に向けたイノベーション創出の起点を目指していきたいです。みなさまのご参画をお待ちしています。

上野:『JAM BASE』は、大阪の中でもフラッグシップとなるようなイノベーション創出拠点だと思っていますし、我々もその一員としてVIEさんのような、あるいは次なる成長を遂げる会社も含めて、企業との共創をしていくつもりです。それが我々の目指す「より大きなインパクト」にも繋がると考えていますし、万博レガシーのさらなる社会実装へと発展させていきたいです。

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