『FFタクティクス』リマスターに搭載された“良いとこどりの仕様”は「復刻作」のスタンダードとなるか?

スクウェア・エニックスは6月5日、PlayStationプラットフォームの新作情報番組『State of Play | June 4, 2025』のなかで、『ファイナルファンタジータクティクス』のリマスター版にあたる新作『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』(以下、『FFT』リマスター)を発表した。
本稿では、同タイトルに盛り込まれる仕様から、リメイク/リマスター作品と原作の距離感をめぐる議論を考えていく。
SRPGの金字塔『ファイナルファンタジータクティクス』が28年ぶりに復刻
『ファイナルファンタジータクティクス』は、人気RPG「ファイナルファンタジー」シリーズのスピンオフとして、1997年6月にPlayStationで発売となったシミュレーションRPGだ。舞台となっているのは、のちに『ファイナルファンタジータクティクスアドバンス』や『ファイナルファンタジーXII』にも登場した国家「イヴァリース」。同国の全土を二分して争われた後継者戦争「獅子戦争」は、ディリータという名の若き英雄の登場によって幕を閉じたと後世に伝えられているが、その陰には歴史に名の残っていない、ある若者の活躍があったという。プレイヤーはその当事者であり、ゲームの主人公でもあるベオルブ家の末弟・ラムザの目線から、国家全土をめぐる争乱の真実を追体験していく。
主要なスタッフに、日本の開発会社・クエストで『伝説のオウガバトル』『タクティクスオウガ』の制作に携わった松野泰己氏、吉田明彦氏がクレジットされており、システム面では、ジョブや魔法の名称といった「ファイナルファンタジー」の独自性と、後者からトレースされた仕様の共存がなされている。そうした背景に裏付けられたゲームとしての完成度、当時のシリーズ人気などが追い風となり、国内市場では、同ジャンルの作品としては当時最高となる135万本を売り上げた。
また、『トバルNo.1』や『ファイナルファンタジーVII』(以下、『FF7』)『サガ フロンティア』『ゼノギアス』『パラサイト・イヴ』といったスクウェアの往年の人気作品とほぼ同時期に発売されており、1990年代の同社の黄金期を彩った一作に数えられる機会も少なくない。発売から30年近くが経った現在も、歴代最高のシミュレーションRPG作品に推す声が多く、リマスター版の発表は、ファン待望のニュースであったと言える。
『FFT』リマスターは、2025年9月30日発売予定。対応プラットフォームは、PlayStation 5/PlayStation 4、Nintendo Switch 2/Nintendo Switch、Xbox Series X|S、PC(Steam)で、価格は、通常版が5,800円、デラックスエディションが6,800円、特別装丁コレクターズBOXが22,000円となっている(※)。
※通常版、特別装丁コレクターズBOXはそれぞれ、ダウンロード、パッケージのみの展開であり、かつXbox Series X|Sでは、パッケージ版・デラックスエディションが展開されない。デラックスエディション、特別装丁コレクターズBOXの収録内容については、公式サイトを参照のこと。価格はすべて税込み。
盛り込まれる2つのモードは、ユーザー目線の画期的な施策に
長く待望されるなかで、ようやく現代への復刻が実現した『ファイナルファンタジータクティクス』。開発・発売元のスクウェア・エニックスによると、『FFT』リマスターには、原作で脚本を務めた松野氏によるストーリーの大幅加筆・調整、UIの刷新、フルボイス対応といった変更が盛り込まれるという。また、「クラシック」「エンハンスド」と呼ばれる2つのモードを収録。オリジナルに忠実な形で『ファイナルファンタジータクティクス』の世界を楽しみたいプレイヤーは、上述の追加要素を排除した前者を選ぶことで、自身のスタイルに合った体験が可能となる。この点は、今回のリマスター版の特徴的な箇所であるだろう。
スクウェア・エニックスは、『ファイナルファンタジータクティクス』がいまなお愛されるシミュレーションRPGの金字塔であり、かつ復刻を長く待ち望まれてきた作品であるからこそ、満を持して発売されるそのリマスター版にこのような仕様を盛り込んだ可能性がある。「クラシック」モードは、往年の人気作を“原作のまま”に現代によみがえらせるという復刻の大きな意義を満たしつつ、原作を知るファンも大切にできるアプローチであると言える。
一方、こうした仕様がスクウェア・エニックスの復刻タイトルに盛り込まれるのは、今回がはじめてのことではない。「ファイナルファンタジー」シリーズで言えば、ナンバリング1~6作の2Dリマスター作品でも、リリース後のアップデートによって、BGMをオリジナル版のものに切り替えられる機能が実装されている。
同作をめぐっては、リマスター版における変更点の目玉のひとつだった「リアレンジされたBGM」が、往年のシリーズファンに受け入れられず、結果的にタイトルそのものの評価の低下へとつながった実態もある。スクウェア・エニックスにしてみれば、そのような結果は極めて不本意だっただろう。
『FFT』リマスター版に2つのモードが盛り込まれる背景には、(ナンバリング1~6作に匹敵する看板作品である)『ファイナルファンタジータクティクス』の現代への復刻において、絶対におなじ轍を踏まないというスクウェア・エニックスの覚悟があるような気がしてならない。今後発表される可能性があるシステム面での追加要素も、同様にモード変更によってオン/オフが切り替えられるのであれば、オールドファンだけでなく、はじめて同作の世界に触れるフリークも価値を感じられる、これ以上ない仕様となるのではないだろうか。
リメイク/リマスター作品は、原作どおりであるべきか
近年トレンドとなりつつある往年の人気作のリメイク/リマスター化においては、原作との距離感が物議を醸すことも少なくない。スクウェア・エニックス発のシミュレーションRPGという観点では、『タクティクスオウガ』のリメイク作品『タクティクスオウガ リボーン』の仕様をめぐり、賛否が大きくわかれたことも記憶に新しい。おそらくここには、制作側の「時代に即した新しい形でその世界に触れてほしい」という想いも影響しているのだろう。しかしながら、実際には、そうした配慮が主要なユーザーに響かないことも珍しくない。
はたしてリメイク/リマスター作品はどの程度、原作のゲーム性を踏襲すべきなのか。明確な回答は存在しない前提で、本稿では分岐点となりうるひとつの基準を提案したい。「当該作品をもう一度プレイしたいと考えたとき、オリジナルとリメイク/リマスターのどちらを手に取るか」という論点は、その分岐点を探るための指標とならないだろうか。
たとえば、おなじくスクウェア・エニックスから発売されている『ファイナルファンタジーVII リメイク』『ファイナルファンタジーVII リバース』は、オリジナルとかけ離れたゲーム性を持つリメイク作品として有名だ。もちろん両作とも商業的に大きく成功し、プレイヤーからは一定の評価を獲得している。その反面で、『FF7』のリメイク化を心待ちにしていた層に「これじゃない」と語られる状況も少なからず発生している。おそらく彼らは、今後『FF7』の世界に浸りたいと考えるとき、PlayStationで発売された原作を手に取るのだろう。
このことは先に挙げた『タクティクスオウガ』の例にも当てはまる。『FFT』リマスターに「クラシック」「エンハンスド」の2つのモードが実装されると明らかになったとき、そのファンが「『タクティクスオウガ リボーン』にも適用してほしい」と声を上げていたことも印象的だった。こうした往時を知る熱狂的なファンの目線は、ともすると「懐古的である」と批判的に見られやすい。しかしながら、このような立場による評価の乖離こそが、満場一致で支持されるリメイク/リマスター作品へと近づくための手がかりとなるのかもしれない。
直近、スクウェア・エニックスは、ファミリーコンピュータで発売された『ドラゴンクエスト』『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』の2度目のリメイク『ドラゴンクエストI&II』も発表している。同タイトルでは、オリジナルや1度目のリメイクになかった要素として、サマルトリアの王子の妹が仲間になるのではないかと噂されている。その真偽はともかく、こうした挑戦的な変更がプレイヤーに受け入れられるかは、蓋を開けてみないとわからない面がある。上述の視点から、同タイトルの発売後の評価を考えていくのも面白いのではないだろうか。
発売から28年の時を経て、満を持して復刻される『ファイナルファンタジータクティクス』。盛り込まれる“良いとこどり”の仕様は、リメイク/リマスター作品のスタンダードとなるだろうか。各メーカーには、よりユーザーの目線に立った復刻を期待したいところである。






















