スクエニとTBSが協業を発表 新規IPはメディアミックス前提か…両社の背景から作品性を考える

スクエニとTBSが協業開発する新規IPの作品性

 5月14日、スクウェア・エニックスとTBSテレビが完全新規オリジナルIPのゲーム開発における協業を発表した。

 本稿では、両社の取り組みや近年の業界動向から、タイトルの作品性とリリース後の展開を予測する。それぞれの業界のリーディングカンパニー同士による協業は、ゲームの分野に大きなストリームを生み出せるだろうか。

完全新規のオリジナルIP創出を目指して、スクエニとTBSが協業

FINAL FANTASY XVI “SALVATION”

 スクウェア・エニックスは、「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンタジー」など、数々の人気ゲーム作品の開発/発売で知られる企業だ。フリークにとっては、いまさら説明するまでもない存在なのかもしれない。同社は「無限の想像力で、新しい世界を創り出そう」をパーパスに掲げ、「コンテンツやサービスを通じて、世界中のお客様の心に残る新たな体験や価値を提供し続けること」を目指している。2024年以降は新たな中期経営計画のもと、確かな面白さを持つバラエティ豊かなコンテンツをユーザーに届けるべく、新規IPの創出や新しいビジネスモデルの展開、IPのメディアミックスなどに取り組んでいる。

 一方のTBSテレビはその名からもわかるとおり、テレビメディアを中心に事業を展開してきた。同社は「最高の“時”で、明日の世界をつくる。」をブランドプロミスに掲げ、デジタルコンテンツの開拓や、グローバルコンテンツブランドとしての「TBS」の成長へと挑戦している。2023年7月にはその一環として、ゲーム事業ブランド「TBS GAMES」を立ち上げ、同分野発のオリジナルIPの創出への取り組みをスタートさせた。

 今回の協業の背景には、目下のビジョンの一致があると考えられる。両社は発表されたプレスリリースのなかで、「それぞれの分野で培ってきた経験と強みを結集し、国内外に向けた完全新規オリジナルIPのゲーム開発を行っていく」と明言している。「それぞれの業界のリーディングカンパニー同士」という意外かつ強力な組み合わせから、どのような作品が生まれるのか。今後の動向に注目が集まっている。

業界内でひろがるIP創出と利活用の動き。スクエニとTBSは良い化学反応を生み出せるか

『風雲!たけし城』 ROBLOXでゲームになって登場!!【TBS GAMES】

 先にも述べたが、TBSテレビからはゲーム事業を推進する組織として、2023年にTBS GAMESが設立されている。同ブランドからはこれまでに、『風雲!たけし城』や『アイ・アム・冒険少年 超・脱出島』『eSASUKE』『あたまおしりゲーム』といったタイトルが、モバイルを中心としたプラットフォーム向けに展開されてきた。こうしたラインアップからわかるのは、TBS GAMESの事業がテレビコンテンツとのコラボレーションを軸に進められている点だ。名前からもわかるとおり、紹介したタイトルたちはすべて、TBS系列の番組/企画をベースに制作されている(※)。

※『あたまおしりゲーム』は、TBS系で放送されているトークバラエティ『バナナサンド』内にある人気ゲームコーナーをモチーフにしている。

🍌🥪『バナナサンド』の人気ゲームコーナー「あたまおしりゲーム」がアプリに!!🤩MC4人でやってみた①設楽&富澤編 【TBS】

 一方のスクウェア・エニックスは、かねてから主戦場としてきたPCを含むCS機でのゲーム開発/発売と並行して、昨今はモバイル領域での事業にも力を入れる。ラインアップの大半は、同社が抱える既存のIPから派生したタイトルたちだ。しかしながら、これらはリリース直後の初動こそマーケットに一定のインパクトを与えやすい反面、その後は失速が浮き彫りとなり、やがてサービスを終了させる場合が珍しくない。

 スクウェア・エニックスのモバイル向け事業をめぐっては、こうした縮小の動きが顕在化しつつある。実際に同社は2024年、話題作『ドラゴンクエスト チャンピオンズ』を含む、10以上のモバイルタイトルをクローズ。長く好調を維持している『ドラゴンクエストウォーク』のような例は少なく、2024年3月期決算では、コンテンツ等廃棄損として約221億円の特別損失を計上した。2024年2月開催のアナリスト向け決算説明会で代表取締役社長の桐生隆司氏は、「今後はクオリティの高いタイトルにリソースを集中する」と明言している。前項で紹介した「新たな中期経営計画」とは、このような現状から脱却するための指針として2024年5月に発表されたものである。このメッセージのなかで同社は、対象となる2027年3月までの期間を「Square Enix Reboots and Awakens(さらなる成長に向けた再起動の3年間)」と位置づけた。

 とはいえ、2024年11月にサービス開始となったモバイル/PC向け戦略RPG『エンバーストーリア』は当初の話題性ほどの結果は残せておらず、先日5月14日には、位置情報活用型アクションRPG『KINGDOM HEARTS Missing-Link』の開発中止も発表した。モバイル向けタイトルの成功が、スクウェア・エニックスにとって喫緊の課題となっているのは間違いない。その突破口として、ゲーム開発を推進し、かつテレビを中心とした他のメディアともつながりを持つTBSテレビとの協業に白羽の矢がたったのではないか。

【公式】スクウェア・エニックス完全新作ストラテジックRPG『エンバーストーリア』| ファイナルトレーラー

 ここ数年、ゲームを含むエンターテインメント業界では、新たなIPの創出とその利活用が大きなテーマとなっている。2024年6月には、IT大手のサイバーエージェントが『STEINS;GATE』や『刀剣乱舞』などの作品で知られるゲームスタジオ・ニトロプラスを買収。同社のコンテンツ制作をバックアップしつつ、その知見を生かしてオリジナルIPの創出に力を入れていく方針を明らかにしている。また、2024年12月には、KADOKAWAとソニーグループが戦略的な資本業務提携に合意。これまでのさまざまな協業の延長として、両社の保有するIPの価値の最大化、クリエイターの共同発掘、メディアミックスの推進に注力する方針を発表した。

 今回のスクウェア・エニックスとTBSテレビの協業もまた、こうした動向と地続きの取り組みであると言える。紹介した2つの例とは、「ゲーム企業×別メディアにパイプを持つ大手」という共通項もある。スクウェア・エニックスは、TBSテレビとの協業を通じたIPの創出の先に、同社のネットワークを生かしたメディアミックスを見据えているのかもしれない。このことは、共作するコンテンツを「ゲームタイトル」ではなく「IP」と両社が表現していることにもあらわれている。

 その観点から考えると、今後開発が進められていくタイトルは、モバイルに対応し、かつ展開先となりやすいアニメ分野と相性のよい作品性を持つ可能性が高い。おそらく主な成分は、同領域では王道の「アニメタッチで描かれた、アイコンとなる多数のキャラクター」「彼らの個性が生かされたストーリー性のあるシナリオ」などとなるのだろう。ジャンルは、スクウェア・エニックスが主戦場とするRPGになると見られるが、もしかすると、他ジャンル、特に2つの条件を両立しやすいノベル/アドベンチャーと距離の近いものも選択肢のひとつとなっていくのかもしれない。もし後者となれば、その意外性からより大きく話題を集めていくこととなるはずだ。

 スクウェア・エニックスとTBSテレビの協業は、どのような世界を私たちに見せてくれるのか。今後の動向に注目だ。

Nintendo Switch 2の「販売計画台数」は妥当なのか? 実績と環境から考える“初代超え”の可能性

任天堂は5月8日、Nintendo Switchの後継機「Nintendo Switch 2」について、全世界における初年度の販…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる