映画版『ELDEN RING』成功のカギは? ゲームとの「文化の違い」の理解が分岐点か

映画版『ELDEN RING』成功のカギは?

 バンダイナムコエンターテインメント(以下、バンダイナムコ)は5月23日、『ELDEN RING』映画化プロジェクトの始動を発表した。

 発売前の期待を上回ったと言っても過言ではない好評を獲得したことで、分類されるソウルシリーズのファンの裾野を大きく広げた同作。スピンオフタイトルのリリースを前に、満を持して発表された映画化は、原作に恥じない成功を手にできるだろうか。シリーズの特性から、映画化に横たわる課題を考察する。

全世界3,000万本を出荷し、ソウルシリーズの代表作となった『ELDEN RING』

ELDEN RING 発売ロンチトレーラー【2022.02】

 『ELDEN RING』は、フロム・ソフトウェアが開発を、バンダイナムコが発売を手掛けたアクションRPGだ(※)。プレイヤーは自身の分身として自由にキャラメイクした主人公を操作し、舞台である「狭間の地」の各地に点在するボス・デミゴッドを打倒することで、エルデの王となることを目指していく。

 『デモンズソウル』『ダークソウル』に端を発するソウルシリーズの文脈に連なる作品で、ゲームシステムには同作品群としてはじめて、オープンワールドの仕組みが採用された。シリーズの人気、制作規模の大きさなどから、発表時より注目を集め、2022年2月25日の発売以降は、前評判に違わないクオリティの高さから一躍トレンドのタイトルとなった。現在までの約3年半で、全世界での累計出荷本数は3,000万本を突破している。

 2024年6月には、大型有料DLC『SHADOW OF THE ERDTREE』が配信となり、こちらも話題性を獲得。同コンテンツは2024年に発売された優れたタイトルを表彰する式典「The Game Awards 2024」において、最優秀作品賞である「Game of the Year」にもノミネートされた。また、5月30日には、同作から派生したスピンオフ『ELDEN RING NIGHTREIGN』の発売も控えている。

『ELDEN RING SHADOW OF THE ERDTREE』 発売ロンチトレーラー

 バンダイナムコによると、今回の映画化プロジェクトには、監督/脚本に映画『Ex Machina』や『Civil War』『Warfare』などを手がけたアレックス・ガーランド氏、プロデューサーに「氷と炎の歌」シリーズの作者で、『ELDEN RING』においては世界観の構築に携わった作家/脚本家のジョージ・R・R・マーティン氏らが参加しているという。

 公開時期は現時点で未定。共同制作/配給には、『Moonlight』や『Everything Everywhere All at Once』『Uncut Gems』『Civil War』『Ex Machina』などのヒット作品で知られるアメリカのエンターテインメント企業・A24がクレジットされている。

※国内市場向けでは、開発元のフロム・ソフトウェアが独自にパブリッシングも担っている。

『ELDEN RING』の映画化に横たわる潜在的な課題とは

『ELDEN RING NIGHTREIGN』ゲーム紹介トレーラー

 ゲーム業界では近年、人気作品の映像化が相次いでいる。直近では、Mojang Studiosによるサンドボックスの金字塔『Minecraft』実写映画化も注目を集めた。同作は2025年4月に劇場公開され、当初の話題性に恥じない一定の評価を獲得している。また、2025年中には、ホラーアドベンチャー『8番出口』の映画作品も公開される予定だ。

 さらにNetflixやAmazon Prime VideoといったVODサービスでは、「Fallout」シリーズ、「The Last of Us」シリーズなどもドラマ化を果たしている。人気ゲームの映画化/ドラマ化は、昨今のゲームカルチャーを代表する一大トレンドとなっている現状だ。

 『ELDEN RING』の映画化プロジェクトもまた、こうした流行の延長線上にある。原作ゲームの開発/発売に携わったフロム・ソフトウェア、バンダイナムコは、「一時代を築きつつあるソウルシリーズを『ELDEN RING』の映画化によってさらに巨大なIPへと成長させる」という青写真を、この取り組みの先に描いているのかもしれない。

『フォールアウト』本予告動画 | プライムビデオ

 はたして映画『ELDEN RING』は、関係各社の目論見どおりの成功を手にすることができるだろうか。そこには、小さくない課題も見え隠れする。

 『ELDEN RING』が分類されるソウルシリーズはもともと、どちらかといえば、日本の作品よりも海外のそれにインスパイアされたであろうゲーム性をその個性としてきた。重厚かつ退廃的なダークファンタジーの世界観、攻略の順序や方法に対する自由度の高さ、過度に現実離れはしないアクションの挙動、登場当時の標準とはかけ離れた高い難易度などはその一例だ。その裏には「体験を画一化しない」という制作側の明確なコンセプトがあり、それをどう受け止めるかは、個々のプレイヤーの裁量に委ねられてきた部分がある。

 RPGにとっての重要な成分であるシナリオに関しても同様だ。ソウルシリーズでは、いわゆるところのJRPGのように、物語の全容がつぶさに語られていくわけではない。「世界の各地に点在する、場合によっては素通りしてしまいかねないイベントなどを通じて、背景を少しずつ読み解いていく」というストーリーテリングの形式が、『ELDEN RING』にも脈々と受け継がれている。

 そのため、クリアまでプレイしたとしても、シナリオの全体像がつかめないことも珍しくない。この点もまた、同作品群が“洋ゲーライク”であると言えるひとつの要因となっている。RPGというジャンルに大別されながらも、見て取れるストーリー性以上に、プレイヤーの操作による体験が重視されている作品が、『ELDEN RING』を含むソウルシリーズなのだ。

ELDEN RING ストーリートレーラー 【2021 The Game Awards】

 こうしたシリーズの個性を踏まえると、映像化には決して低くないハードルがある気がしてならない。本来、映画を含むエンターテインメントは、抽象化ではなく、具体化のうえに成り立ってきたからだ。ゲーム『ELDEN RING』が成功を手にできた裏には「同作の内包する尖ったストーリーテリングをフリークたちが抵抗なく受け止められたこと」「インタラクティブな体験を特徴とするゲーム分野でリリースされた作品であったこと」などによる影響もあったはずだ。ワンウェイであり、かつわかりやすいシナリオ導線が求められる映画分野において、同様の個性で勝負することには、また違った難しさもあると推測する。

 そして、仮に具体的なストーリーテリングが盛り込まれたとしても、それを『ELDEN RING』の映画化作品であるとすることには、いくらかの異論も生まれてくる可能性がある。かと言って、ゲーム作品の物語をなぞる、あるいは詳しく説明するだけの映画化をファンが望んでいるかと言われれば、おそらく答えはNoだろう。映画『ELDEN RING』がゲーム作品に並ぶ成功を手にするためには、こうしたそれぞれの文化の特性の違いを正確に受け止め、そのうえで映画として面白い作品に仕上げていくことが求められていくはずだ。この点こそが同作が直面する成功へのターニングポイントであると言えるのではないか。

 映画『ELDEN RING』の制作陣は、与えられた一連の課題をクリアすることができるだろうか。映像化がシリーズの“黒歴史”となってしまうことは、関係者、ファンのすべてが望んでいない結末である。今回の取り組みがゲーム分野における今後の展開にも前向きに作用する未来に期待したい。

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