Appleが初めてゲームスタジオを買収 Apple Arcade“第2フェーズ”幕開けの号砲となるか

Appleは5月28日、『Sneaky Sasquatch(忍び足のサスクワッチ)』の開発元であるRAC7 Gamesの買収を発表した。
Apple初のゲームスタジオの買収は、同社のゲーム事業にどのような意味を持っていくのだろうか。競合の戦略から今後の展開を予測する。
Appleが『忍び足のサスクワッチ』のRAC7 Gamesを買収
『忍び足のサスクワッチ』は、RAC7 Gamesが開発/発売を手掛けるアクションアドベンチャーだ。プレイヤーは、キャンプ場の近くに住む類人猿の主人公・サスクワッチとなり、体力や空腹度といった固有のリソースメーターを管理しながら、釣りをしたり、ゴルフをしたりと、気ままなスローライフを送っていく。
同タイトルは2019年にiOS、macOS、tvOS(※)向けにリリースされた。Appleが展開するサブスクリプション型のゲーミングサービス・Apple Arcadeでは、ローンチタイトルともなっている。記事執筆時点のApp Storeにおけるレビューでは、星4.8と高い評価を獲得している。リリース翌年の2020年には、当該年に同サービス内で提供された、もっとも優れたゲーム作品に贈られる賞「Apple Arcade Game of the Year」にも輝いた。
Appleは近年、Apple Arcadeの展開に代表されるように、ゲーム事業にも力を入れているが、開発スタジオを傘下に入れるのは初めてのこと。今回の買収にあたり、同社はアメリカのテック系メディア・Digital Trendsを通じて、以下のコメントを発表している。
「私たちはSneaky Sasquatchを愛しており、2人からなるRAC7チームがAppleにくわわり、ともに開発を続けてくれることを大変うれしく思っている。世界トップクラスの開発者による数百ものゲームで、Apple Arcadeユーザーの皆様に素晴らしい体験を提供し続けていく」
※…AppleがApple TV向けに開発した専用のオペレーティングシステム。
買収が意味するApple Arcade「第2フェーズの幕開け」

ゲーム市場ではここ数年、サブスクリプション型のゲーミングサービスが数多く登場し、覇権争いを繰り広げている。MicrosoftのGame Pass、AmazonのAmazon Prime Gaming、NVIDIAのGeForce NOWなどはその一例だ。より広い視点では、ソニー・インタラクティブエンターテインメント(以下、SIE)のゲームカタログや、任天堂のNintendo Switch Onlineなど、プラットフォーマーによるオンラインサービス加入者向けのコンテンツもそのひとつであると言えるだろう。AppleのApple Arcadeもまた、その一角を担っている。
一方で、現時点でのシェアでは、プラットフォーマーでもあるSIEと任天堂、Microsoftがしのぎを削り合っているが、上述の性質から先の2つはクローズドコミュニティに向けたものであるとも考えられ、実際には成長率も含め、Game Passの一人勝ちのような状況となっている。Microsoftはそのラインアップを充実させるべく、外部のソフトウェアメーカーと契約を結ぶとともに、気鋭のゲームスタジオの買収を続けている現状だ。直近では、セガ/アトラスによる人気ファンタジーRPG『メタファー:リファンタジオ』の追加や、「Call of Duty」「Diablo」といったシリーズで知られる大手・Activision Blizzardの買収が話題となったことも記憶に新しい。おそらく今後も、同様の手法で求心力の獲得を目指していくのだろう。
AppleによるRAC7 Gamesの買収もまた、こうした文脈上にある取り組みだと言える。Apple Arcadeにとって『忍び足のサスクワッチ』は、決して多いとは言えない成功作のひとつである。その開発元であるRAC7 Gamesを傘下に収めることに、同社は芳しくない状況を打開する青写真を描いているのではないか。
また、今回の報道には、ゲーム事業に対するAppleの前向きな姿勢もうかがえる。ローンチ時の話題性に比べると、悪い意味で一段落してしまった印象のあるApple Arcadeだが、同社はまだ覇権の掌握を諦めておらず、今後はRAC7 Gamesの買収を皮切りに、Microsoftのような積極策を展開していくのかもしれない。
事業全体では、Microsoftにも勝る資本を持つAppleだけに、次なるフェーズでは「どこにどうリソースを割いていくか」が重要になるだろう。情熱は成功に必要なエッセンスのひとつではあるが、それだけではGame Passの牙城を崩すことはできない。求められるのは、サービスの拡大に効果的な投資先と、それを的確に判断できる目、一歩を踏み出す決断力なのではないか。
もしもAppleの傘下というポジションから送り出されるRAC7 Gamesの新作が、一定の結果につながるようであれば、今回の買収はApple Arcade、さらには市場のターニングポイントとなる可能性もある。はたしてAppleはGame Passが優位に立つ状況を覆すゲームチェンジャーとなれるか。Apple Arcadeの今後の動向に注目したい。























