落ちぶれたヤクザが過疎町をゆるキャラで復興!? 奇抜なのに高純度な任侠サクセスストーリー『プロミス・マスコットエージェンシー』レビュー

『プロミス・マスコットエージェンシー』レビュー

 Kaizen Game Worksより4月10日に発売されたオープンワールドアドベンチャーゲーム『プロミス・マスコットエージェンシー』をクリアした。

 本作はひょんなことからゆるキャラ派遣事務所を再生させることになったヤクザ・菅原道真と、相棒のマスコット・ピンキーのサクセスストーリーを描いたゲームだ。

 あまりに濃すぎる設定のオープンワールドミステリーゲーム『パラダイスキラー』を生み出したKaizen Game Worksに、UNSEENのCEOである中村育美と、同じくUNSEENのコンセプトアーティストであるMAI MATTORIが参加し、独自の化学反応を起こしている。前作同様、ほとんどのゲーマーが見たことのないようなとんでもないアートの作品に仕上がっていた。

 のんびりとしたゲーム体験に、刺激的なアート、意外と地に足の着いたストーリーと、見るべきところは多い作品だが、気になる点もあった。ひとつずつ見ていきたい。

 本作のストーリーはこうだ。「マスコット」というゆるいキャラクターたちが人間と共存する世界……主人公はミチこと菅原道真という名の九州のヤクザで、義兄弟のトキとともに、120億円の上納金を持って、組ごと東京のヤクザに面倒を見てもらうはずだった。

 しかし、取引の情報はどこかで漏れており、敵対するヤクザに襲撃され、大金を奪われてしまった。ミチは責任を負う羽目になり、ヤクザが祟りに遭うとして忌み嫌われた町・過疎町に送り込まれることとなった。

 そこにはマスコット事務所の再建を夢見ながらも、潰れかけたラブホでくすぶっているピンキーというマスコットがいた。彼女とともにミチはマスコット派遣事務所を建て直し、親分たちにも金を入れつつ、限界集落と化しつつある過疎町に人を集めていくことになるのだった。

 本作のゲームパートは(アクの強いキャラクターや演出に比べて)意外にもオーソドックスだ。ミチとピンキーはぼろぼろの軽トラに乗り込み、オープンワールドを駆け回りながら、協力してくれるマスコットを探したり、仕事をくれる店舗に話を付けてもらったりする。

 道中でさまざまな収集物を拾うのはオープンワールドゲームの常だが、本作は(前作『パラダイスキラー』同様に)むしろそれがメインコンテンツと言えるかもしれない。

 その辺に落ちているのは、長ネギ、マイナーなレトロゲーム、アニメのDVD、アイドルの写真集など、しょうもないものばかりだ。それぞれにちょっとしたテキストが付いており、ちょっと読んでみてはへなへなと脱力する……を繰り返すことになる(『パラダイスキラー』と異なり、収集物を集めている人物に渡すことでサイドストーリーが読めるようになったのは大きい変化だ)。

 また、本作は基本的に多くの問題をお金で解決することになるが、メインとなる金策は「ジョブ」だ。勧誘したマスコットを各地のイベントに派遣し、しばらく時間が経つと報酬の何割かを事務所に入れてくれる。

 しかし、一定確率でマスコットはイベントで苦難に遭遇し、それをヒーローカードという特殊なアイテム(主にNPCが描かれている)で解決するというミニゲームが発生する。こちらはいわゆる『Slay the Spire』系のデッキ構築カードゲームのようなデザインになっており、限られた時間とコストのなかから適切にカードを切っていくことが求められる。

 正直、元ネタほどは奥深くなく、コストが尽きないように順番に出すだけなので、何回かやれば飽きてしまうのだが、演出はほどよくチープで笑いを誘うものばかりだ。屋台が壊れているのになんとかイベントの体裁は保てたことになったりとか、炎上目的でやってきたインフルエンサーをボコボコにしたりとか、本当にそれで良いのか!? とツッコミたくなるおバカさがある(背景に流れるニコニコ動画風のコメントも3パターンくらいしかなく、いちいち笑ってしまう)。

 また、オープンワールドのこだわりも異様に高く、廃棄された鉱山や、建設途中で頓挫したホテルなど、過疎に悩まされている日本の町の雰囲気がしっかりと出ており、軽トラで流しているだけでも楽しい。島の裏まで数分もかからないので、ファストトラベルを使わずにプレイしたくなるような、ほどよい塩梅だ。

 そして、本作は何と言ってもストーリーが素晴らしい。こちらもイギリスの制作会社とは思えないほど濃密に日本の裏社会と地方行政の話を書き上げており、アツい展開に涙してしまいそうになった。マスコットというファンタジー要素も良い感じにミックスされているので、ぜひともラストまでしっかりと味わってほしいと思った。

 ストーリーの完成度に関しても、好きなタイミングでミステリーを終わらせることができるというあまりに挑戦的すぎた『パラダイスキラー』に比べると、アクを残しつつも誰でもわかるオチになっており、進化したところだと言えるだろう。

 とはいえ、すべてが素晴らしいわけではなく、むしろミニマルなゲームゆえの作りこみ不足は感じてしまった。

 途中でクレーンゲームのミニゲームは追加されるものの、やることはただ単にオープンワールドを軽トラで駆けるだけなので、あまりに前のめりで遊ぶには起伏が足りないように感じるだろう。特にメインクエストとオープンワールドのフリーロームや収集物集めはさして嚙み合っていないので、テキストを読み込む楽しさと何も考えずに物を集める楽しさがそれぞれに独立してあるゲームだと思ってほしい。

 加えて、予想よりも会話内に下ネタが多く、その点についても注意が必要だ。とはいえ、顔をしかめるほどエゲつないものや、直接的に画像が表示されるわけではないので、大抵の人にとっては許容範囲だろう。

 そうは言うものの、このタイトなボリューム感の中に、唯一無二のセンスと素直に感動できるストーリー、オープンワールド的な旅情感と、十二分にも程がある体験が詰まっていたのは事実だ。『プロミス・マスコットエージェンシー』、オススメである。

 最後にこれだけは伝えておきたいのだが、事務所のお手伝いをしてくれるシオリちゃんがとてもかわいい。

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