Skypeサービス終了に寄せて ボイスチャット文化の定着やゲームデザインへの影響も

Microsoftは2月28日、Skypeのサービスを2025年5月5日をもって終了すると発表した。
Starting in May 2025, Skype will no longer be available. Over the coming days you can sign in to Microsoft Teams Free with your Skype account to stay connected with all your chats and contacts. Thank you for being part of Skype pic.twitter.com/EZ2wJLOQ1a
— Skype (@Skype) February 28, 2025
定番のコミュニケーションツールとして、知らない人はいないと言っても過言ではない同サービス。過去には、人気ハードの公式ボイスチャットアプリとなるなど、ゲームカルチャーとも深く交わってきたが、もしかすると、Z世代のフリークにとっては、馴染みの薄いツールなのかもしれない。
本稿では、Skypeの幕引きを入り口に、同サービスがゲームカルチャーにもたらした功績を考えていく。
Microsoftが提供するコミュニケーションサービス・Skype
Skypeは、Skype社(2011年にMicrosoftが買収)によって開発されたクロスプラットフォーム対応のコミュニケーションサービスだ。ユーザーは専用のアカウントを作成することで、インターネット回線を活用したチャット機能や音声・ビデオ通話機能を利用できる。2025年3月現在、デスクトップ版(Windows、macOS、Linux)とスマートフォンアプリ版(Android、iOS)が展開されている。かつては、PlayStation PortableやPlayStation Vitaにも公式アプリとして提供されていた。
Microsoftによると、今回の決定は、顧客のニーズに対応し、サービスを合理化していくための判断であるとのこと。今後はMicrosoft Teamsに機能を集約していく予定だという。なお、サービスが終了となる5月5日までの期間には、Skypeサービス内のアカウント情報でMicrosoft Teamsにサインインが可能となる。連絡先やチャットの履歴などは自動で引き継ぎがされるほか、他のサービスへの移行を望むユーザーには、Skype内のデータのエクスポート機能も用意される。
ボイスチャットの草分けとして、SkypeがDiscordへとつないだバトン
Skypeがリリースされたのは、2004年7月のこと。当時のゲームカルチャーではまだ、プレイとあわせてボイスチャットを行うことがそれほど一般的ではなかった。そのような時代にあって同サービスは、主にPCプラットフォームでMMORPGなどをプレイする層のニーズに応える、数少ないツールのひとつだった。
ほどなくして家庭用プラットフォームでもオンライン協力・対戦要素を備えたゲーム作品が登場すると、プレイヤーの多くは、コンソール機とは別にPCを用意し、Skypeを用いてコミュニケーションをとるようになる。現在でこそ、Discordとスマートフォンの登場/普及によって、ボイスチャットはオンラインマルチプレイに不可欠のコミュニケーションとなったが、当時はゲーム機とPCをともに所有する限られた層と、日本ではまだ少数派だったPCゲーマーだけが手を伸ばせる代物だった。
先述したPlayStation Portable/PlayStation Vitaへの対応も、そうした背景があってのことである。両機に対するサポートは、ハードの世代交代、主要サービスの移り変わりなどの影響もあり、2016年6月に終了を迎えた。その一方で、2022年2月には、DiscordがPlayStation Networkとのアカウント連携機能をリリース。現在では、PlayStationプラットフォームからでも、PC/モバイルでDiscordを利用するユーザーと直接ボイスチャットを行うことができるなど、サービスの統合が進んでいる。ゲームカルチャーとボイスチャットの歴史を知るフリークのなかには、そうした最新動向の裏で、かつてのメインストリームだったSkypeに思いを馳せ、ある種の哀愁を感じてしまった人もいたのではないだろうか。それほどまでに、オンラインマルチプレイ黎明期におけるSkypeの功績は大きかった。
Skypeがもたらしたボイスチャットの一般化。影響は現代のゲームデザインにも
実はSkypeがもたらしたボイスチャット文化の浸透は、現在進行形で支持を拡大する人気作品群のゲームデザインにも、少なからず影響を与えている。“死にゲー”や“ソウルライク”といったサブジャンルを確立させたフロム・ソフトウェアによるアクションRPG「ソウル」シリーズとその関連作品たち(以下、関連作品も含め、「ソウル」シリーズとする)だ。2022年2月にリリースされた実質的なシリーズ最新作『ELDEN RING』は、全世界で2,860万本を販売(2024年9月末時点)。2024年6月には、専用の有料ダウンロードコンテンツ『ELDEN RING SHADOW OF THE ERDTREE』が配信となり、こちらも話題を呼んだ。
大半の「ソウル」シリーズ作品には、オンラインマルチプレイのシステムが盛り込まれている。その一部であるプレイヤー同士の協力要素では、それぞれがジェスチャーなどを使い、コミュニケーションをとる仕様だ。おそらく現在の技術をもってすれば、ゲーム内にボイスチャットの機能を持たせることも可能であるはずだが、同シリーズでは、直系の始祖にあたる『Demon's Souls』の時代から伝統的に、そうした機能が実装されていない。そのため、フレンド同士でなければ、声によるコミュニケーションが不可能となっており、このことがPvE(攻略)、PvP(対戦)をめぐるレベルデザインの一部となっている実態がある。
また、高難易度であることを前提に、オンライン機能を利用するすべてのプレイヤーには、任意の場所に攻略のヒントなどを残せるメッセージ機能が与えられている。この要素もまた、「プレイヤー同士のコミュニケーションを制限し、制作側の考える適切な難易度へと着地させる」という同様の意図を持った取り組みであると言えるだろう。その難しさから独自のジャンルを確立するに至った「ソウル」シリーズのレベルデザインは、声によるコミュニケーションとの距離感によって支えられている部分がある。その背景にボイスチャットの一般化による影響があるのは言うまでもない。
現代のゲームカルチャーにおいて、「協力プレイにおけるユーザビリティ」「対戦プレイにおけるレベルデザイン」のどちらを重視するかは、ゲームデザインに横たわる永遠のテーマのひとつである。たとえば、非対称型対戦アクション『Dead by Daylight』では、1人で4人を相手にしなければならないキラー側と、フレンド同士のパーティーで楽しくゲームをプレイしたいサバイバー側で、たびたびボイスチャットの使用をめぐる論争が巻き起こっている。(好悪はあれど)このような動向もまた、もとを辿ればSkypeがもたらした影響と考えられるのではないだろうか。すべてのプレイヤーが当たり前に手に取れるからこそ、それありきのゲームデザインを考えなければならない。そうした現状の発端となったのが、Skypeの登場とゲームカルチャーでの利用であったというわけだ。
今回のMicrosoftの発表によって、ゲームとボイスチャットの歴史には、新たな1ページが刻まれることになる。ひとつの時代がまもなく終焉のときを迎える。























