原作購入者は約80%オフ 『Days Gone Remastered』におけるSIEの新施策は“完全版商法”をめぐる軋轢を解消できるか

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)は2月13日、PlayStationプラットフォームの新作情報番組『State of Play』のなかで、『Days Gone』のリマスター版にあたる『Days Gone Remastered』を4月25日に発売すると発表した。
PlayStation 4の性能を生かしたAAAタイトルとして、リリース当時から話題を集めた同作。このたび発売となるリマスター版は、PlayStation 4でオリジナル版を購入したユーザーにかぎり、ディスカウント価格で提供されるのだという。これまでありそうでなかったSIEによる施策は今後、ゲーム市場のスタンダードとなるだろうか。『Days Gone Remastered』をめぐる販売手法から、業界に横たわる問題と、今後の展望を考えていく。
2019年発売の人気オープンワールド・サバイバルアクションがリマスター化
『Days Gone』は、PlayStation Studiosに名を連ねるアメリカのゲームスタジオ・Bend Studioが開発を、SIEが発売を手掛けるオープンワールド・サバイバルアクションだ。舞台は、謎のウイルスの蔓延によって「フリーカー」と呼ばれる感染者が発生し、文明と秩序が崩壊してしまった世界。プレイヤーは、バイカーを生業とする主人公のディーコン・セントジョンとして、極限状態の暮らしからの脱出を目指していく。
特徴となっているのは、オープンワールドの世界と、それとは対照的なストーリー性のあるシナリオ。自由度の高さと良質な物語が共存する稀有のゲーム性によって同作は、国内外を問わず、広く支持を獲得した。オリジナル版の発売から約7か月後の2019年11月には、廉価版にあたる『Days Gone Value Selection』がリリースに。さらに1年半後の2021年5月には、PCプラットフォームにも移植されている。Steamにおけるレビューでは、7万件近いユーザーのうちの92%が「好評」とし、上から2番目のランクである「非常に好評」へと分類されている。SIEのファーストパーティータイトルとして、期待されたとおりの結果を残しているのが『Days Gone』という作品である。
今回発売されることが明らかとなったのは、同作に新規コンテンツの追加、グラフィック品質の向上などを施したリマスター版。対応プラットフォームはPlayStation 5とPC(Steam、Epic Games Store)で、価格は税込5,480円となっている。SIEによると、PlayStation 4で発売されたオリジナル版を所持するユーザーは、税込み1,190円でリマスター版へのアップグレードが可能になるとのこと。また、同タイトルはPlayStation 5 Proに実装されているエンハンスモードにも対応する。
メーカー都合の施策が広げつつあるユーザーとの溝。SIEの取り組みは業界課題に一石を投じるか
これまでまったく情報が出ていないなかで、突如として発売日までもが発表となった『Days Gone Remastered』。先にも述べたとおり、同タイトルはオリジナル版からアップグレードする場合、通常の20%ほどまでディスカウントされた価格で手に入れられる。対象となるのは、PlayStation 4版を購入したユーザーに限られている(PS Plusのフリープレイキャンペーンで手に入れたPlayStation 4版は含まれない)が、新たに発売されるリマスター版がこのような形で展開されることは極めて珍しい。おそらくは、SIEによるファーストパーティータイトルだからこそ実現できた取り組みなのだろう。原作のファンにとっては、手放しで喜べる施策となったはずだ。

ここ数年、ゲーム業界では、オリジナル版の発売から程なくして、リマスター版や完全版がリリースされる例が増えてきている。本稿で扱う『Days Gone Remastered』も、原作の発売からは5年半ほど(この数字を長いと見るか、短いと見るかは人それぞれだが)しか経過していない。こうした販売手法はメーカーにとって、低コストで一定の利益が見込める理にかなった取り組みなのだろう。だからこそ、多くのメーカーは完全新作だけでなく、(広い意味ではリメイクも含む)こちらの開発/発売にも力を入れているのだと推測する。
一方で、そうした“メーカー都合”のトレンドがフリークの理解を得られているかと言われれば、首肯はしづらい現状もある。ユーザーにとって、予定調和的なアップグレード版のリリースは、「複製された商品による売上の二重獲得である」とも捉えられやすいからだ。最近では、このような手法をたびたび取り入れる一部のメーカーのタイトルで、完全版のリリースを見据え、オリジナル版を買い控える動きも出ている。ことこの界隈においては、メーカーとユーザーの信頼関係がしだいに失われつつある実情がある。
今後『Days Gone Remastered』に盛り込まれたような取り組みがひろがれば、アップグレード版をめぐるメーカーとユーザーの軋轢は解消に向かうだろう。その意味において、SIEが展開する上述の施策は、画期的なものであるとも言えるのではないか。もしかすると、ゲーム市場では近い将来、こうした販売手法が当たり前となる日がやってくるのかもしれない。デジタル所有、デジタル管理が一般化しつつある時代だからこそ、その先には、オリジナル版の購入履歴をもとに、ディスカウントを含むさまざまな特典を、アップグレード版の購入者が受け取れるような仕組みも生まれる可能性がある。
とはいえ、フィジカルとデジタルの二軸でコンテンツを展開していくのであれば、本来はこうしたユーザーエクスペリエンスに関わる部分も、同時に議論がなされていくべきである。この点においても、メーカー都合によって、片手落ちのデジタル化が定着しつつあるのが、ゲーム業界の実態だ。
私は2024年10月、「ゲームのパッケージ版とダウンロード版は同一価格であるべきか」というテーマで記事を執筆している。そのなかで問題として取り上げたのは、両者の価格によこたわる特有の歪さだ。解消のためには、同一価格を前提にした得られるサービスの共通化、あるいは、コストを含むそれぞれの特性に応じた価格差の創出が必要であるとした。本稿で述べたアップグレード版をめぐる問題も、広い意味では同様の文脈上に存在するものなのではないか。
『Days Gone Remastered』におけるSIEの取り組みは、業界の悪しきスタンダードを変えられるか。さらなる発展のためにメーカーは、ユーザーの声により注意深く耳を傾ける必要があるのかもしれない。























