メールマガジン、ポッドキャスト、RSSリーダー……再び脚光を浴びるかつての情報発信・収集ツールたち

再び脚光を浴びるかつての情報収集ツールたち

 SNSの隆盛によって誰もが簡単に情報を発信・受容できるようになり、メールマガジンやRSSリーダなど、多くの情報発信・収集ツールが取って代わられるようになった。しかし、現在はこうしたツールが再び脚光を浴びている。

情報発信のトレンドは「直接届ける」スタイル

 米国では会員登録制のメールマガジンサービスである「ニュースレター」が人気だ。様々なジャンルの専門家が定期的にメールを配信しており、購読者は好みのレターを選んで登録する。有料のものもあり、ニュースレターだけで生計を立てるようなライターも現れているようだ。プラットフォームとしては「Substack」が1番人気で、多くのレターが集まる。

米国で人気のニュースレタープラットフォーム「Substrack」

 ニュースレターの購読者が増えた背景には、SNSに発信される情報がユーザーがその内容を精査できないほどに膨れ上がっており、取捨選択が不可能になってきたことが挙げられる。もちろんSNSの運営企業もこうした状況を改善するためにタイムラインの投稿を間引いたり、好みに応じて見せ方を変えたりといった取り組みを行ってはいるものの、こうした取り組み自体が批判される事態にもなっており、「自分の得る情報を自分で選びたい」と考えるユーザーの動きが、ニュースレターの反映につながったようだ。

 コンテンツ制作者の視点から見てもニュースレターは魅力的だ。プラットフォームとなるWEBサイトは一斉配信などの機能を備えるものの、根本的な仕組みは「コンテンツ制作者が、ファンに向けてメールを送る」というシンプルなものであり、たとえプラットフォームを移行してもこれまでに製作したコンテンツが消失することはない。登録者のメールアドレスさえ保存しておけば、クリエイターはドメインにとらわれずコンテンツを届けることができる。

日本でも株式会社OutNowがニュースレタープラットフォーム「theLetter」を提供している

 音声コンテンツの世界ではポッドキャストが再び脚光を浴びている。「Broadcast(放送)」と「iPod」のかばん語であり、「トークコンテンツをダウンロードして聴く」というスタイルで、2004~2005年ごろに生まれたコンテンツだ。当時の日本では一部のテックトレンドに明るいユーザーなどに支持されたものの、大きく普及してはいなかった印象がある。

現在もAppleはポッドキャスト再生専用アプリ「Apple Podcast」を提供している

 近年では様々な企業が「誰でも簡単にポッドキャストを制作・配信できる仕組み」を作っており、なかでもSpotifyの「Spotify for Podcasters」とAppleの「Podcast Connect」はプラットフォームの大きさ・使いやすさの点で優位に立つ。こうしたサービスの普及もあり、現在は有名無名を問わず多くの配信者(ポッドキャスター)が多様なコンテンツを届けている。

「Spotify for Podcasters」のWEBサイト。2021年には「Apple Podcast」を抜いてポッドキャスト視聴サービスのトップシェアとなった

 X(旧・Twitter)やFacebookの普及によって、我々は情報過多にさらされ、そのコントロールの難しさに頭を抱えるようになった。先に紹介した二つの事例はいずれも、視聴登録していると新規投稿がユーザーの元に直接届く仕組みを持っており、必然、こうした仕組みがもたらす情報にはノイズが少ない。ある意味ではSNSの発展以前のような情報収集方法が再び支持されているともいえるだろう。

RSSリーダーが復活 コミュニティでの情報収集も手堅い

 WEBサイトには更新時に「フィード」を発信する仕組みがある。フィードとはあらすじ、概要のようなもので、こうした「フィード」を集めて通知するのがRSSリーダーの役割だ。好みのWEBサイトがフィードを発信しているなら、ユーザーはそのフィードをRSSリーダーに登録すれば、更新時に即通知が来る。特にブログの更新を即時にキャッチできることからRSSリーダーの人気は高まったものの、2010年代後半にはSNSの発展とともに利用者が減っていった。

2008年からアップデートが続いているフィードリーダーアプリケーション「Feedly」

 そして近年、このRSSリーダーが再び脚光を浴びている。Google Chromeは2013年にRSSリーダーの機能を廃止したが、2021年に再度実装した。フィードとリーダーの仕組みは古くからある"枯れた"技術であり、行政やGoogleニュースのような規模の大きいWEBサイトもRSSの発信機能を備えている。信頼できるソースを自分で選び、これらのサイトのフィードをRSSリーダーに登録することで、「自分専用の専門誌」を作るような感覚で情報を得られるのがRSSリーダーを使うメリットだ。

SlackにRSSリーダーの機能を追加することもできる

 専門的な情報を収集するために、コミュニティを活用することも盛んに行われている。近年はDiscordのプライベートサーバーが活発で、有名メディアから個人管理者まで、様々な人々がサーバーを構築し、コミュニティを運営している。特定のジャンルに興味を持った人が閉じたコミュニティの中で議論や情報交換をしているので、「このジャンルに関する包括的な情報がスピーディに欲しい」という事象があったら、関連するサーバーを探してみるのも良いだろう。この「専門性のある閉じたコミュニティ」を形成する仕組みは、かつての2ちゃんねるに代表される掲示板の雰囲気を思い出す。

Discordには好みのサーバーを探すための「サーバー発見」タブが存在する

 近年の情報発信・収集におけるトレンドを駆け足で解説してみた。溢れる情報の渦の中でいかに簡単に、ストレスなく有益な情報を取得するのかが重要で、その視点に立った時、前時代に活躍していた技術が再び脚光を浴びているのは興味深い。この記事が「ポストSNS」時代における情報の収集方法を考える機会になったら幸いだ。

〈参考〉
・朝日新聞社プレスリリース「ポッドキャストを聴く方法は、SpotifyがApple Podcastを抜いてトップ」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001282.000009214.html
・Otonal「ポッドキャスト国内利用実態調査2022(2023.2月)」
https://otonal.co.jp/podcast-report-in-japan2022

〈サムネイル画像:Pixabay

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