Discordへの統合が進むPSNパーティーチャット。いま振り返る“ゲームとボイスチャットの歴史”

ゲームとボイスチャットの歴史

 Discordは2月1日、PlayStation Network(以下、PSN)とのアカウント連携機能をリリースした。同機能ではそれぞれのアカウントをリンクさせることにより、Discord内でPS4・PS5におけるゲームアクティビティを表示させられるほか、プロフィールにPSNのオンラインIDを掲示できる。これまで分断されていたPC・モバイルとPlayStationのボイスチャット機能が、統合へ向けて進み始めた形だ。

 これによりDiscordユーザーは、所有するPlayStationハードを立ち上げていなくても、PSN上のフレンドのログイン状況を確認できることになる。クロスプラットフォームのタイトルが増えるなかで、スムーズなマルチプレイを提供するアップデートとなった。

 昨年5月には、PSN上でDiscordのボイスチャット機能を利用できるよう取り組んでいると発表していたDiscordとソニー・インタラクティブエンタテインメント(社名変更前のソニー・コンピュータエンタテインメントを含め以下、ソニー)の両社。今後は実現に向け、具体的な動きが加速していきそうだ。

 本稿では、今回のアカウント連携機能リリースを入り口に、ゲームカルチャーにおけるボイスチャット史を振り返る。現代では、声でのコミュニケーションなしに成立しないと言っても過言ではないオンラインでのマルチプレイ。統合の実現は、私たちのゲーム体験にどのような恩恵をもたらすのだろうか。

ボイスチャット史に影響を与えたオンラインマルチプレイの一般化

 ボイスチャット史を振り返るのであれば、まずその勃興前夜、オンラインマルチプレイの浸透までに触れておかなければならない。かつてのゲームカルチャーは、1人、あるいはローカルにおけるマルチプレイでのみ成立するものだったが、現代ではインターネット経由での協力・対戦要素がシステムに含まれているタイトルも少なくないのが実情だ。同文化のなかにボイスチャット史が刻まれてきた背景に、オンラインマルチプレイの一般化があったのは疑いようのない事実だろう。

 たとえばPlayStationプラットフォームであれば、2000年3月ローンチのPS2で初めて、インターネットに接続し、オンラインマルチプレイを可能にする周辺機器が登場した。もちろんそれ以前から、(イーサネット端子を標準装備しているケースが多い)PCにおいては、オンラインゲームの始祖とも言われる『Neverwinter Nights』(1992年発売)のほか、『Diablo』(1997年発売)、『ウルティマオンライン』(1997年発売)、『EverQuest』(1997年発売)といったMMORPG・MORPGタイトルがリリースされており、家庭用プラットフォームに先駆けてその土壌が整いつつあった。しかし、いずれにしても2000年前後がその分岐点であったとわかるはずだ。

 余談だが、前述のPS2において、オンラインプレイに対応したタイトルは、数えるほどしか発売されなかった。その後の同分野の発展を考えると、ソニーの挑戦は早すぎたのだろう。ほかにも、セガはドリームキャスト(1998年ローンチ)で、任天堂はニンテンドーゲームキューブ(2001年ローンチ)で、MicrosoftはXbox(2001年ローンチ)で本体・周辺機器にイーサネット端子を実装しているが、全社がこぞって注力するほど、この時点では日の目を見なかった。

家庭用プラットフォームからモバイルへ。広がりを見せるボイスチャット文化

 一方で、2002年には、スクウェア・エニックスより『FINAL FANTASY XI』がリリースされた。同タイトルは現在でこそWindowsを搭載したPCのみでしかプレイできないが、当初はPS2にも対応していた(2005年のXbox360発売後は、こちらにも対応)。オンラインマルチプレイとボイスチャットの歴史の起点がこのころにあるのは、やはり間違いない。その観点でいくと、MMORPG・MORPGがこれらにもたらした影響は大きかったと言えるだろう。

 当時のフリークにとってゲーム用のボイスチャットツールと言えば、Skypeが一般的だったように思う。当然、家庭用ハードで活用するとしても、別にPCを所有しておかなければならず、まだ両プラットフォームのあいだには明確な分断があった。家庭用ハードにボイスチャットが浸透したのは、PS3がローンチとなった2006年以後だったとの実感がある。それまで声によるコミュニケーションは、PCゲームだけに与えられた、なかば“専用の機能”のような位置づけだった。しかし、このころになると、家庭用プラットフォームでも、システムソフトウェアや各タイトル内でボイスチャットに対応する流れが生まれる。PS3ローンチの2年後には、ソニーからBluetooth接続の純正ヘッドセットも発売された。

 その後、Skypeは、PSPやPS Vitaにも公式のアプリケーションとして提供され、ゲーム向けコミュニケーションツール界の覇権を握るかに思われたが、誰もがスマートフォンを所有する時代となり、モバイルゲームが台頭したことで、同端末でもボイスチャットがおこないやすい新興勢力に注目が集まっていく。それがLINEやカカオトークなどの存在だ。当時のモバイルゲームのプレイヤーは、据え置き機に比べ、若年層も多かったように思う。同等のボイスチャット機能を備えていても、SkypeよりLINE・カカオトークが選ばれた裏には、これらがスマホ向けで、そうした世代にとって馴染みやすいツールであったことなどが理由となっていたはずだ。

 実際に過去、協力・対戦要素のあるモバイルゲームを熱心に遊んでいたときには、プレイヤー間で共有するボイスチャットの場として、スマホアプリがよく選ばれていた。いま振り返れば、オンラインマルチプレイ・ボイスチャットの草創期に登場したMMO・MORPGと、発展期に登場したモバイルゲームのそれぞれが受け入れられていた層・世代によって、主流のコミュニケーションツールが変化するという興味深い動向となっている。

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