メタフィクション構造を愛し、ゲームの“ギリギリ”を攻め続けるクリエイター・Davey Wredenとは? 『The Stanley Parable』を生んだ鬼才の人生を追う

『The Stanley Parable』を生んだ鬼才の人生

 昨今、ビデオゲームという構造自体に疑問を持ち、あえてその形式を逆手に取った表現をする作品が増えてきた。

 RPGの伝統的なストーリーテリングを疑った『moon』や『Undertale』を始め、PC内のファイルにアクセスするタイプのホラーゲームや、難敵に対してオプション設定を変えることで突破することができる仕掛けなども当たり前になってきた節がある。

 そんななかで、一際輝くセンスを持ったクリエイターがいる。Davey Wreden(デイヴィー・レデン)だ。

Q&A with Davey Wreden - The Creator of The Stanley Parable | Vancouver Game Dev Series

 ゲームの内外を行き来しながら、クリエイティブの本質に迫る彼の作風は、とても外連味があると同時に誰にも真似できない。ギリギリのラインを攻めるDavey Wredenの創作と人生を振り返ってみよう。

『The Stanley Parable』

 1988年、彼はアメリカで生まれる。幼いころは他の子どもたちと同じように「スーパーマリオ」シリーズなどの任天堂作品を楽しんでいたようだが、成長するとともに「メタルギア」「Portal」「Half-Life」シリーズなどを遊ぶようになった。

 2009年、彼はカリフォルニアの大学に通いながらゲーム開発を始める。2011年、Valveの名作『Half-Life 2』のMODとして『The Stanley Parable』を制作。この作品はすぐに注目を浴びることになった。

 2013年、ウィリアム・パグとともにこのMODをリメイクし、一本のゲームとして発売。批評家から高い評価を受け、ゲームクリエイターとしての人生を正式に歩むこととなった。

 『The Stanley Parable』は、とあるオフィスで働く従業員番号427番のスタンリーという男が主人公のアドベンチャーゲームだ。毎日毎日退屈な仕事をこなしていた彼は、ある日突然上からの指令が届かなくなり、呆然とする。誰もいなくなったオフィスを巡り、何が起きているのかを探るというストーリーである。

 本作がもっともユニークな点はナレーションの存在だ。冒頭でスタンリーは2つのドアの前に立つことになる。そこでナレーションは、スタンリーとプレイヤーに対して「彼は左のドアに入りました」と語りかける。

 だが、もちろん本作はゲームなので、右のドアに入っていくこともできる。そうするとナレーションは「これは会議室への正しい行き方ではなく、スタンリーもそれをわかっていました。彼はまず従業員用のラウンジに立ち寄って、その様子を見たかったのでしょう」と話の軌道を修正するのだ。

 こんな具合で、ナレーションを裏切って行動することで、天邪鬼な気持ちが満たされるというなかなかシニカルなゲームだが、残念ながら本作は自由とは対極にある作品である。

 ナレーションは(まるで日頃のつまらない仕事でストレスが溜まっていたかのように)滅茶苦茶な行動ばかりするスタンリーに対して、途中で指示を諦め、しょうもない隕石落下オチで話を終わらせたり、ゲームをリスタートさせてきたりする。

 世界を騙したかのような万能感は全部作り物で、所詮はプログラムの枠から出ることはできず、酔っ払いが考えたようなオチを読んでげんなりするのである。

 しかし、ただのブラックジョークだと言い切れないのも事実だ。プレイヤーとゲームシナリオの関係性について考えさせられる素晴らしい実験作と言えよう。

『The Beginner’s Guide』

 『The Stanley Parable』の成功に対する重圧からか、創作の動機を失った彼は、うつ病を経験した。しばらくコミックだけを描いて表舞台から姿を消していた彼だが、2015年に傑作を生みだすことになる。それが『The Beginner’s Guide』だ。

 『The Beginner’s Guide』は、Davey Wredenがゲームジャム(クリエイターが集まって短期間でゲームを作るイベント)で知り合ったCodaというゲームクリエイターに惹かれ、彼の作った異常な短編ゲームを紹介しまくるという作品である。

 プレイヤーは、Codaの作ったゲームをひたすら遊びながら、Davey Wredenによる解説を聞くばかりである。

 作中に出てくるゲームはどれもこれも珍妙で、ハイコンテクストが過ぎるものばかりだ。後退しかできないゲームや、常にオンラインに繋がっているふりをしつつ実際は手作りの書き置きしかないゲームなど、絶対に商業の世界では通用しないようなファインアートばかりが並んでいる。それらにDavey Wredenは心酔しており、ときに彼なりに遊びやすく編集したものを、これでもかと提供してくるのだ。

 しかしながら、Codaは途中でゲーム作りを辞めてしまう。一体それはなぜなのか? その唯一にして最大の謎が解けたとき、ビデオゲームでは味わったことのないような、何とも言えない複雑な感情に襲われるのである。

 ゲームプレイ全体でたった90分しかないので、ぜひとも遊んでみてほしい。『The Stanley Parable』で得たメタフィクションの構造や、プレイヤーを騙すことによってプレイヤーがどんな感情を抱くかといったテストは、本作でついに完成したと言っていいだろう。

 何かしらの創作物を発表することを生業や趣味としている人なら、深く突き刺さる作品なのは間違いない(特に商業媒体で生活しているわけではないタイプのクリエイターならなおさら当てはまるだろう)。

 なお、本作にも有志の日本語化MODが存在する。

『Wanderstop』

 2017年にitch.ioで『Absolutely』というRPGツクール製のジョークゲームを出す以外には、特にここ最近は動きがなかった同氏だが、ようやく新作の発売が決まった。

 彼はIvy Roadsという開発会社を設立し、Annapurna Interactiveの支援を受けながら『Wanderstop』を制作している。

 『Wanderstop』は、元女戦士のアルタが主人公。彼女は百戦錬磨の猛者だったが、長年の疲労からか、ある日を境にまったく勝てなくなってしまう。

 師匠に教えを乞いに行くものの、森で遭難し、ボロという太っちょの男に助けてもらうのだった。彼のアドバイスでアルタはしばらくティーショップを経営するものの、最強の自分が足踏みしている現状にやきもきするのだった……。

 ゲームらしい中世ファンタジー世界をテーマにした本作は、グラフィックもゲーム性も抜群に良くなり、普通にSteamで販売しているようなルックになった。むしろ10年以上のキャリアがあるにも関わらず、グラフィックやサウンドは二の次で、ゲームの構造にのみ執着していたDavey Wredenのクリエイティブが異常だとも言えるが……。

 現在配信されているデモ版を遊んでみた。序盤のカットシーンはアルタの抱く劣等感をねっとりと描き、まさに『The Beginner’s Guide』の作者と言えるものだったが、いざゲームが始まると、草むしりや植物の育成、お茶の生成に至るまで、まるで『牧場物語』や『ルーンファクトリー』を遊んでいるような感触であった。

 しかしながら、言葉の端々にこの後の展開を予見させるようなシリアスな雰囲気が漂っている。このまま元女戦士が絆されてティーショップ経営に勤しむだけのゲームになる……わけがない! Davey Wredenがゲームらしいゲームを作ったという事実が壮大な伏線になっていることを祈りつつ、本作の発売を待とう(なお、本作は正式に日本語化されている)。

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