美しき煙の国を彷徨うメトロイドヴァニア『ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist』レビュー

『エンダーマグノリア』レビュー

 Binary Haze Interactiveを代表する傑作メトロイドヴァニア『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』の続編『ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist』がついに発売された。

 前作同様、探索型アクションゲーム(メトロイドヴァニア)としての手堅い面白さをじっくりと味わえる良作である。音楽もグラフィックも磨きこまれており、世界をさまよっているだけでも満足感のある一本だった。

 反面、説明不足に感じるストーリーや、やたらと判定の強い攻撃を仕掛けてくるザコ敵の挙動など、気になる点も見つかった。それでは見ていこう。

滅びを待つ国をさまよう上質なメトロイドヴァニア体験

 本作は大好評を受けたインディーゲーム『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』の続編だ。よって、基本的な遊び・コンセプトは前作と変わらない。滅びゆく美麗な世界を舞台に、良くできた設計のボリューミーなメトロイドヴァニアを楽しめる作品である。

※ちなみにメトロイドヴァニアとは「メトロイド」シリーズと『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』を合わせたような作品を表し、具体的には2Dの画面構成で、無数に用意されたエリアを行き来しつつ、アイテムを集めて謎解きや戦闘をこなすアクションプラットフォーマーゲームのことだ。

 前作で描かれた「死の雨」から数十年。かつては魔法で栄えた煙の国だが、いつしか人口生命体であるホムンクルスが暴走し、人々に害をなしている。主人公のライラックはそんなホムンクルスたちを救うことができる調律師だ。下層で記憶を失くした状態で目覚めた彼は、自らの記憶と仲間たちを求めて、上層へと向かう旅を始める……。

 まず何よりも素晴らしい点は、メトロイドヴァニアとしてのシステム面である。

 ほどよく探索しがいのあるステージ、再訪の要不要がすぐにわかるマップ画面、すっきりとしたUI、いつでも使えるファストトラベルとレストポイント(休憩所)に戻るボタン、マップのどこにでも置けるマーカー、バリエーションの豊富な装備・スキルなど、およそメトロイドヴァニアを快適に遊ぶために必要な要素がしっかりと詰まっている。

 マップはどこもユニークな見た目をしており、なかなか飽きさせない。地下水路、処分場、森、研究所など、魔法と機械文明の融合したダークファンタジーでぜひとも堪能したいステージがぎゅっと詰まっている。

 それらのマップを行き来し、壁破壊や水中ダッシュなどのアクションを覚えることで、元のステージにあった仕掛けを解くことができるようになる。まさしく、万人が思うメトロイドヴァニアらしいメトロイドヴァニアなのだ。

 ステージの最奥には当然ボスも待ち構えている。ボスのデザインも素晴らしく、終末的な世界観にとてもマッチしている。初見では避けきれないような苛烈な攻撃を浴びせてくるものばかりだが、今回は敵との接触でダメージが入らないうえに、難易度選択もあるので、どうしてもクリアできないというような事態にはならなかった。

 また、この難易度選択が良い作りをしている。本作の難易度選択は「敵のHP」や「敵の行動頻度」などを細かく選択できるのだが、これらを上げるほど「フラグメント」という特殊通貨を得られる倍率が上がる。

 このフラグメントはゲーム内のキャラクター強化には一切使用せず、キャラクターのスキンや設定、アートボードなどをアンロックするために用いることができる。つまり、高難易度で遊べば遊ぶほど、ファン向けの特典に早くアクセス可能ということだ。これはなかなか面白い配慮である。

 これらのゲーム体験をさらに良いものにしているのが、音楽である。前作同様、ピアノを主体とした物悲しい雰囲気の曲ばかりで、テーマが一貫している。特に拠点となる旧市街のBGMは必聴だ。

 しかしながら、ストーリーに関してはやや気になる点も多い。

 本作のストーリーは、はっきり言って、プレイヤーの理解を拒む作りをしている。キャラクターの出自や、この世界で起きた出来事など、プレイヤーが気になる情報を小出しにする手法は一般的だが、それらを開陳していくペースが遅く、ゲームの進みに対して物語の理解が追いつかない状況がほとんどだった。

 これはもちろん「ダークソウル」シリーズに影響を受けた“ソウルライク”作品にありがちなスタイルといってしまえばそれまでだが、本作は仲間キャラクターとの会話劇もしっかり描いており、各マップごとにボスやその周りのモンスターなどに一貫したテーマと物語が用意されているので、それらをアイテムテキストなどでチラつかせるだけではもったいないのでは? と思ってしまった。

 たとえば「デクランの館」というマップでは、ホムンクルスを製造していたデクランという男と戦うことになる。道中では彼が改造してきたホムンクルスと戦いつつ、デクランが狂ってしまった経緯なども教わるので、話が非常にわかりやすい。デクランとのバトルの後に起こるイベントも印象的だ。

 本作においては(というかソウルライク系の作品のなかでも)図抜けてシンプルな構成だが、ゲーム部分が忙しいうえにキャラクターたちも記憶喪失者ばかりだから、これくらい単純でちょうど良いくらいだと感じた。

 本シリーズは、いわゆるソウルライク的な、思わせぶりなセリフの連続や目を見張るようなデザインセンスによってプレイヤーを驚かせたいわけではなく、ウェットなドラマによってしっかりと感動を味わわせるタイプのシナリオであると思った。ゆえに、引き算の美学ではなく、もっと補助線を引いてプレイヤーを導くべきだったのではないだろうか。

 システム部分においては、これでもかと思うほど親切だっただけに、ストーリーにおいてもそこまでクールにする必要はなかったのではないか? と思った次第である。

 また、もう一点気になったのは、ザコ敵の挙動である。

 どの敵キャラクターも数パターンの攻撃方法を持っており、かなり判定が大きい。加えて、一部の敵の遠距離攻撃(冷気など)はその場に留まる性質を持ち、その残滓に当たって大ダメージを受けるということも多かった。

 ネズミや浮遊する小型機械などの敵がやたらとまとわりついてきたのを避けようとして他の敵の投擲物に当たるなど、敵側の想定したコンボが決まる場面も珍しくもなく、決して楽しいと言える体験ではなかった。

 このジャンルの祖である「悪魔城ドラキュラ」シリーズを必ずしも参考にするべきかは難しいところだが、あちらの敵AIは(作られた時代もあってか)さして賢くもないので、うっとうしくはあったがすぐにハックすることができた。

 難易度選択によってカジュアル層にもリーチする施策を取ったにもかかわらず、敵の攻撃パターンだけがここまで豊富である必要があったのかは疑問である。一部の敵キャラクターの挙動はアップデート対応がアナウンスされているので、この点は大いに期待しておきたいポイントである。

 と、ストーリーとザコ敵の挙動については看過できないものがあったが、前作同様に秀逸なメトロイドヴァニアとして充分にファンの期待に応える出来であるのは間違いない。時間を忘れてマップを探索する喜びを味わいたい人は、買ってみることをオススメする。

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