『ドラゴンクエストX』好きの建築家が、開発者に「アストルティア」の都市と建築について本気で考察をぶつけてみた(第3部)

アストルティアの都市と建築(第3部)

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水谷:次は僕が大好きな『砂の都ファラザード』です。もう完全にイスラム文化ですよね。

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丹下:イスラム文化ですね。砂漠というところで、裏通りも含めて構造的にはきちんと表現することを目指しました。

水谷:大通りが中心にあるような構成がしっかりした統合的なパリのような町も美しいですけど、そういう町は封建主義的なところが多いです。構成がしっかりしていない下町のような場所はどこに出るかわからない楽しさがありますね。

丹下:雑多な町らしさがテーマですね。ユシュカのバックストーリーから裏通りの文化の中で育ったというイメージを簡潔に分かりやすい方法で表現しています。

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水谷:この辺りはモザイクタイルでイスラム文化の装飾っぽく。街の中心にお城があるというのはゲームの構成上どこも共通していますよね?

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小川:中央に目的地を配置して、その周辺に必要な施設を配置することで、どこでも拠点にできるようにしています。

水谷:裏路地はやっぱり楽しいですね。

小川:屋根の上にいけたりとか。

丹下:裏路地に落ちる町のシルエットや影を表現したいということもありました。町のいろんなところから光が漏れていて陰影を作って立体感が出るようにしています。

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小川:バージョン4から対応機種が変更になったこともあり、表現の幅が増えました。

水谷:エフェクトを工夫して軽いデータ量でも表現できるようになったという話をDQXTVで解説していたように気がします。

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水谷:クエストかストーリーでキャラクターを追いかける話がありましたね。某スパイ映画でもトルコを舞台にしたアクションシーンでこういうのがありました。布の上も歩けるし、ちゃんと揺れてる。

丹下:ここは小川さんの担当ですね。

小川:そうですね。マップを描くのが大変でした(笑)。

水谷:作る方は大変ですよね。やっぱりこういう高低差がある地形は演出がしやすそうです。

小川:こんなところにも行けるんだ!というのを楽しんでもらいたいと思って作りました。

水谷:この独特の格子もアラビアの文化ですよね。夜は内側が見えるけど、イスラム文化は女性が顔を出しちゃいけないから、昼間は女性が顔を出さずに外の風景が見れる格子の窓ですね。

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水谷:では、バージョン6の『天星郷フォーリオン』に行きましょう。まさにギリシャですよね。

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丹下:ここは神話の世界ということで。過去の壁の上に現代のフォーリオンを増設したという設定です。初期段階から分かりやすく基壇上に構成にしていくと決めていました。時間をかけて上に積んでいったというのを考えました。

 ここで本当に難しかったのは、白を基調としたことで光が跳ねてしまうことでした。ですが、古代ギリシャの大理石は実は色が塗られていたという学説がありまして、フォーリオンもカラフルな街にしてしまえばライティングが楽になるかと担当者と相談したのですが、やはりギリシャ神殿の共通イメージは白ですよね。だから、ここはライティングが難しくても白でいこうと。

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水谷:天使の世界だし。

丹下:天使の世界だし。でも、先ほどの話ですけど白ってライティングが難しいんですよ。白飛びしちゃうし、光源ライトの色をダイレクトに反応してしまうんです。だから、うまく調整できたのが嬉しくて、すごく好きですね。

水谷:調整でいうと、どの辺りが一番苦労されたんですか?

丹下:白だけだと立体感が無くなるので、薄くテクスチャで青みを入れたり、色をつけています。ダイレクトに光の色が乗りやすいので、それを層になるようにライティングしたりとか。

水谷:それによって凹凸も表現できますね。

丹下:空との境界がわかりやすくなりますね。バージョン6から空を飛ぶことができるようになったので、フォーリオン全体が見えるようになったのは大きいですね。街と外と連携で作ったので大工事でした。結果、他の街には無い一体感が出せました。

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水谷:イメージは『ドラゴンクエストIV』と『ドラゴンクエストV』かな。天空の塔と城のイメージがあるから、オーダーの基壇は天空の塔のモチーフですよね。

丹下:そうです。中に慌てて隠した過去の基壇みたいなのが存在するという。そのコントラストはすごく意識しましたね。

水谷:意図して過去を漂白しようとした痕跡があるような。冒険者さんたちが共通したイメージを持ってくださっているという自信を感じます。次は聖天舎ですね。実際のギリシャ神殿というのはストラクチャー(建築の主構造)で構成しているのでインテリアがありません。

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丹下:その辺は無視してインテリアを構成しています。

水谷:インテリアは写真が映えますね。ゴシックのような装飾で、トップライトのような照明も。

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丹下:ゴシックも意識しています。あと、天使だから階段は設置していません。

水谷:天使は飛ぶことができるから。

小川:上に飛べるワープが設置されているのは優しさです。

水谷:羽のない人でも使える配慮がある。素材はどこからでも持ってこれるのかな……装飾に使っている石は色の付いた石を使っているんですか?

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丹下:下の造成地から集めてきたというイメージです。あと、実は雲間から下に造成地が見えます。「あそこに行けるんだ」と、ちゃんと繋がっているという意識を感じてもらえるように作っています。

水谷:ちょっと、そこを見てみますか。

丹下:フォーリオンにある各試練場の入口はバージョン3の構造と同じ作りにしました。バージョン3では拠点となる場所から各領界に飛んでいく、拠点から各領界が見えるという前提で作っています。ですので、造成地もパニガルムもちゃんと見えている。最初からすべてのコンテンツが見えていて後に解放されていくという一体感のある作りにしようと、初期設計から計算して作りました。

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水谷:外から見た外郭の全体のイメージも、高低差のある地形に合わせて神殿が配置されているギリシャの都市を感じさせますね。

丹下:この辺ですね。カメラを下に向けてもらって。

小川:パニガルムのマップがある。

丹下:パニガルムでボス戦やっている時に上空を見るとフォーリオンのマップもちゃんと見えます。あんまり気づいてもらえないですけど(笑)。

水谷:本当だ! あれがそうなんですね!?こういうのも軌道エレベーターとか作れるようになったら本当にできるんだろうな。100年後とか200年後とかに。なので、どちらかというと有名ロボットアニメ(笑)。

小川:スペースコロニー的なやつですね(笑)。

水谷:幾何学の形状とかどっちかというとメカっぽく見える。

小川:下の方は造成地の岩肌が見えていますね。

水谷:フォーリオンの壁画があるところの上にどんどん町を足していったというイメージですね。重力があるところでは完全に違法な建築物ですね。既存の建物の上に増築すると下の梁や柱の耐力が持たなくなるので。重力は関係ないから、この世界では関係ない。ということは、どんどん増殖していくかもしれないですね、

丹下:この上にさらに。

水谷:もしかして、いつでも上に床を乗せられるようにあの柱はあるんじゃないですか(笑)。

水谷:現実の現代建築でも床を増やせるように設計して柱や梁などのフレームだけは作っておいて、後に床を乗せれば床面積が増やせるという建築もあるんですよ。そもそも、どういう動力で大陸が浮いているのかというのは考えているんですか。

丹下:各試練場のピラーです。実はピラーはこちらから提案して追加したところシナリオ側で拾ってもらえました。

水谷:アストルティアに戻りました。『エテーネの村』はマチュピチュの集落遺跡とか南米のイメージですよね。

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丹下:あと、バージョン4のワグミカのいる自由人の集落と屋根の形式とかデザインラインを合わせています。同じ文化で繋がっているのが感じられるようにしています。

小川:エテーネ大陸のはぐれ者たちが島に来たぞ、みたいな感じで。

丹下:時を越えて繋がっていると感じてもらえる嬉しいなと。あと、エテーネ村の中央の櫓の牧馬は花が咲いたり咲かなかったりするんですよ。

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水谷:それは知りませんでした……では、いよいよ次は最新のバージョン7に行きましょう。

© ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX

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