インディーゲームは漫画と似ている? 『デベロッパーズ~ゲーム創作沼へようこそ~』作者・新井春巻氏インタビュー

インディーゲーム漫画『デベロッパーズ』作者の思い

 『女子校のこひー先生』『こはる はる!』など多くの漫画を描いてきた漫画家・新井春巻氏。彼がこの度挑戦したジャンルは、目覚ましい進化を遂げているインディーゲーム業界だった。

 『デベロッパーズ〜ゲーム創作沼へようこそ〜』(以下、デベロッパーズ)は、ゲーム業界で働きながらも、自分があくまで歯車でしかないことに疑問を感じる青年・山本一途と、インディーゲームの開発に人生を捧げている少女・貫地谷遥の出会いを描いたヒューマンドラマだ。この度、新井氏にインタビューさせていただく機会を得たので、本作を作った経緯から、インディーゲーム業界をどう見ているかについてまで根掘り葉掘り聞かせていただいた。(各務都心)

衝撃を受けたインディーゲームは? 「設定の妙があった」あの作品

――『デベロッパーズ』を作るまでの経緯を教えていただけますか。

新井春巻(以下、新井):連載がひとつ終わって、「お仕事モノを描きたいな」という打ち合わせをしていたんです。興味のある業界を挙げていくなかで「ゲーム」かなということになったんですが、大手はちょっと守秘義務が多かったので、インディーならどうかと考えました。

 それで、インディーゲームの展示会を巡って、名刺をもらったところにDMを送りまくりました。あとは、この漫画が講談社から出ていることもあって、講談社クリエイターズラボさんにも手伝ってもらいました。

――そもそもゲームとはどんな付き合いをされてきましたか? 心に残っている思い出の作品を聞きたいです。

新井:スーパーファミコンの『タクティクスオウガ』や『メタルマックス2』ですね。どちらもリメイク含めてしつこく遊んでました。基本的にはひとりでちまちまやっていくタイプのゲームが好きでしたね。

――では、インディーゲームはどんなタイトルを遊んでいますか?

新井:もともとSteamはチラチラ見ていたんですが、新型コロナウイルス以降に深く遊び始めました。友人とオンラインで協力ゲームをするのが好きなので『Unrailed!』『テラリア』『Valheim』『Kingdoms Reborn』などをよく遊んでいました。

 ひとりだと、RPGを触るので『CrossCode』『Chained Echoes』『Sea of Stars』あたりが好きでした。

 衝撃を受けた作品は『ドキドキ文芸部!』。あれは設定の妙がありますよね。全員怖かったから誰が好きとかはないのですが(笑)。『SANABI』のストーリーも良かったですね。

――インディーゲームのどういったところに惹かれますか?

新井:まずシンプルに「ゲームってひとりで作れるんだ!」ということに驚きました。年齢層も、学生さんから40~50代くらいまで幅広かったのも衝撃でしたね。こんなにも自分の好きなものに打ち込んでいるひとがいっぱいいるということを目の当たりにして、ニコニコしちゃった感じです。

――では、漫画の話に移ります。普段、漫画はどんなものを読まれますか。

新井:これはもう仕事柄、流行っているものに目を通しているという感じですね。やっぱり時間を使うので、仕事が終わった後にちょこっと読むというサイクルになってます。

 最近は漫画よりも仕事しながら観られるドラマや映画のほうが楽しんでいるかもしれません。Netflixで『地面師たち』『愛の不時着』『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』あたりを観ていましたね。

 あと大好きなのは『ゲーム・オブ・スローンズ』です。2周しました。

――『デベロッパーズ』を通して、ゲーマーや漫画ファンにどんなものを届けたいですか?

新井:漫画化した『OMORI』やアニメ化した『天穂のサクナヒメ』、大ヒットした『8番出口』などありますが、僕が取材した限りだと、インディーゲームは国内ではまだ浸透しきっていないと思っている開発者さんが多かったんですよね。

 『デベロッパーズ』は、インディーゲームというジャンル自体の布教という向きがありますね。

――新井さんはこれまでにいろいろなジャンルの漫画を書いてきた経歴をお持ちですが、ゲーム業界を題材に取ったことで、新しい発見はありましたか?

新井:思ったこととしては、インディゲームと漫画は似ているということです。個人で作れる点はわかりやすく似ていますし、パブリッシャーって出版社と同じようなものだなと。シンパシーを感じるんですよね。

 ただ、取材していて思うのは、インディー開発者さんたちって知見の共有を熱心にするんですよ。薄くても広くつながっていようという意識があるんです。漫画はあまりそういうことないんですよね。羨ましいなと思ってます(笑)。『CEDEC』みたいな技術のシンポジウムも漫画にはないですから。

――なるほど。プログラマーたちのオープンソース的な感覚は少し違うと。

新井:そうかもしれません。漫画はそれぞれの独特な技術があり、隠しちゃうこともありますからね。

――:インディー現場のハングリーさやパワーを感じて、見習いたいと思った点などはありますか?

新井:ゲーム制作は技術的に難しい点に何度も激突するわけですが「それ、どうするんですか?」と聞いたら「根性でどうにかする」とか「なんとかします」という答えが返ってくるケースがほとんどなんですよ。あとは、思い切って要素ごとバッサリ切るとか、誰かに手伝ってもらうとか、漫画よりもいろいろな手段で完成させてくるな~と素直に思いました。

 住まいが北海道でもあらゆるイベントに遠征しまくるとか、イベント用に専用の機材を揃えるとか、みなさん根性がありすぎるなと思ってます。

 ほかには、ネタが思いついちゃったから1年遅れてもいいとか、そういう感覚でやっているのもすごいなと。よく耐えられるなと。漫画ではこうした感覚は有り得ないので、非常に勉強になります。

インディーゲームに興味を持ったら、試しに1本買ってみてほしい

――ゲーム業界で働くことやゲームを売り出すことのリアルな側面と、主人公とヒロインの間柄が進展していくという漫画的な側面のバランスについて、こだわっている部分や気にしている点はありますか?

新井:1巻では、ゲーム業界のリアルの側面を入れすぎちゃったかなと思っています(笑)。専門的すぎるのも問題なので、これからはまったりと恋愛や友情も描いていくつもりです。

 主人公が会社勤めをしながらゲーム制作をするので、そこでバッティングしちゃうんじゃないかとか、個人的な問題も描けたらいいなと思っている次第ですね。

――権利関係の問題をパスしたとして、漫画に登場させたいゲームやIPはありますか?

新井:最初は「全部本物を出したいな」と思っていたんですよ。でも、大規模なイベントや展示会の名前をそのまま出すのがまず無理で、ゲームのプラットフォームの名前も厳しかった。なので、ほぼ架空でやるしかなかった感じです。

 ただ、ちょっとしたコラボで、とあるものをそのままの名前で作中に登場させる……という企画が進行中です。お楽しみに!

――その件だと、吉田輝和さんというゲームライター兼イラストレーターの方が、なぜかあらゆる漫画にちょい役で登場しまくっているというミームがあるのですが、こちらについてはご存じですか?

新井:知ってます(笑)。吉田さんはイベントでニアミスしてしまったので、「本物を見ておけばリアルに描けたのに~!」と悔しい思いをしていますね。

――1巻ではまだ大きな衝突は描かれませんでしたが、チームでものづくりをするうえで、チームが危うい状態に陥ったり、キャラクターたちが人間的に成長したりといった展開は描かれる予定はありますか?

新井:分裂までは考えていませんが、それぞれ問題を抱えているので、お金や家族の話などは出てくると思います。1巻の最後に出てきた韓国出身の子であるスア・ルートヴィヒは、本国に帰ってこいと言われちゃうかも? そういう各々の持つ事情をクリアしながらも、なんとかゲームを作っていく話にしたいですね。

――では、最後に読者へのメッセージを頂けたらと思います。

新井:僕の漫画を通してインディーゲームに興味を持っていただけたら、試しに1本買ってみてください。2000円程度なので。セールだったらもっと安いですし。

 そして「これだけの出来のものが個人制作か」というのを肌で感じていただけたら幸いです。

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