国内外アーケードからインディー作品まで 音ゲーライターが選ぶ2023年の「音楽ゲーム楽曲」10選
本稿では、2023年の音楽ゲームシーンの概況を整理しながら、個人的に惹かれた音ゲー楽曲の10選をピックアップしていきたい。
選定基準は一昨年(https://realsound.jp/tech/2021/12/post-937338.html)および昨年(https://realsound.jp/tech/2022/12/post-1223673.html)と同様、「2023年、新たに音楽ゲームに収録された」楽曲とする。楽曲自体としては、ゲーム外で昨年までに公開されていたものも含まれる。
また『アイドルマスター』シリーズや『ワールドダイスター 夢のステラリウム』、『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』などのいわゆるアイドル系・キャラクター系、メディアミックスものの音楽ゲームは、本稿では選定対象外とさせていただく。これらに類する作品は、各々のたたえる世界があまりに広大かつ豊かに過ぎ、単一の記事内で同時に扱うことが困難なためである。悪しからずご諒解いただければ幸いです。
アーケード音楽ゲーム
1. 最果ての勇者にラブソングを
アーティスト:deli.+駄々子
ゲームタイトル:SOUND VOLTEX
メーカー:コナミアミューズメント
音ゲーのeスポーツ文化が花盛りだ。コナミアミューズメントは世界初の音ゲープロリーグ「BEMANI PRO LEAGUE(BPL)」をエンターテインメントコンテンツとして継続開催しつつ、2011年から続く個人競技の頂点大会『KONAMI Arcade Championship(KAC)』の2023年版を完遂。セガ社はアーケード部門で『オンゲキ』『maimai でらっくす』『CHUNITHM』の大会『KING of Performai The 4th』、モバイルでは『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』題材の競技イベントをそれぞれ開催した。バンダイナムコでも『太鼓の達人』の大会として17の国・地域を対象とした一般参加の世界大会と、出場者を小学生に限定した「小学生ドンカツ王決定戦!」の最新回が進行中である。
なかでも度肝を抜かれたのが、音ゲーeスポーツをリードする「BPL」の第2シーズンで新たに立ち上げられた『SOUND VOLTEX』のプロリーグである。本リーグ戦では、対戦カードの勝敗を大きく左右する大将戦において、毎回1曲ずつ完全新曲をお披露目してゆく趣向を実施。その全楽曲を公募で決定するという壮大な企画をぶち上げた。2012年のローンチから定常的な楽曲公募を行い、また歴代KACの決勝楽曲はじめ重要な立ち位置を公募企画と的確な演出により見事に彩ってきた、『SOUND VOLTEX』という作品ならではのコンセプトといえる。
まさに音ゲーの粋を極めた楽曲群から、ここでは「最果ての勇者にラブソングを」をピックアップしたい。『太鼓の達人』や『SOUND VOLTEX』への公募楽曲採用、さっぽろももこ作詞作曲による美少女ゲーム『#Geminism 〜 #げみにずむ 〜』テーマ楽曲への編曲参加などで知られるdeli.と、『Dynamix』『TAPSONIC TOP』『SEVEN's CODE』『jubeat』『BEAT ARENA』『DANCE aROUND』など多数の作品で歌唱を執ってきた駄々子。鬼才二人のコラボレーションが織りなし、元ドラマーのdeli.による変拍子を伴う自由奔放なビートと楽曲を貫く疾走感、そして駄々子のエモーショナルなボーカルに情緒を振り回され目眩を覚える、音ゲーの華と表現するにふさわしい高速ポストロックだ。
ゲーム版だけでも本稿の10選から決して欠かせない楽曲だが、特筆すべきはM3-2023秋でリリースされたdeli.+駄々子による最新アルバム『ワルキューリアに花束を』収録のロングバージョンだ。全編リライトされた日本語詞を伴って、7分近くにわたる堂々たるアレンジに仕立てた大曲。ゲーム収録バージョンで魅了された者ならずとも必聴の作品である。
2. リナリア
アーティスト:OSTER project feat. hinatanso
ゲームタイトル:pop'n music
メーカー: コナミアミューズメント
1998年9月にリリースされたコナミ(現・コナミアミューズメント)の音楽ゲーム『ポップンミュージック』。平成10年から令和5年の現在に至る時代を駆け抜け、ポップンはついに25周年の節目を迎えた。2023年現在はアーケード最新作『pop'n music UniLab』とPC用『pop'n music Lively』の2作を柱として、今もなお音楽ゲーム業界の最前線を開拓し続けている。その作品史と現在地については、リアルサウンドテックに執筆した別記事で十二分に語った通りだ。
祝・『ポップンミュージック』25周年! “渋谷系”との接続など、音楽的功績や筐体の歴史を改めて振り返る
1997年12月にコナミ(現・コナミアミューズメント)から発売され、社会現象を巻き起こした『beatmania』のブームも冷め…
同シリーズの音楽面を語るうえで欠くことの許されない事項が、シリーズを貫いてきたギターポップ/ネオアコ、ネオ~ポスト渋谷系との相互作用だ。第一作に公称ジャンル「ポップス」として収録された、フリッパーズ・ギター、ピチカート・ファイヴ、Culture Clubといった先行音楽を南雲玲生が参照した「I REALLY WANT TO HURT YOU」から始まった関わり。竹安弘、杉本清隆、wac(脇田潤)、TOMOSUKE(舟木智介)ら歴代スタッフによるディレクションのもと、数多くの興趣あるオマージュと引用参照、文化を築いてきた当事者の参画、そしてアーティスト各自の有するオリジナリティと既存文化との調和融合による変容を繰り返しながら、その甘い関係はポップン史を通して常にあり続けてきた。
red glasses、そよもぎ、m@sumiらと共にその潮流を引き継ぐOSTER projectが、シリーズ最新作に提供したポスト渋谷系ポップスが「リナリア」だ。OSTER projectは2007年、「初音ミク」発売のわずか2週間後に投稿したオリジナル曲「恋スルVOC@LOID」でボカロP活動を開始。2012年の『beatmania IIDX 20 tricoro』でのBEMANIデビュー以来、コナミ、セガ、バンダイナムコ、Ubisoftなど各社の音楽ゲームに寄与している。
ポストロック、ジャズ、クラシカルと多ジャンルに通暁するOSTER projectは、極上のフレンチポップ「犬に雨傘」をはじめ、risetteの常盤ゆうをボーカルに迎えた「ラブラドライト」「ひとりきりのパレード」「エディブルフラワーの独白」、かなたん歌唱の「シエルブルーマルシェ」、ああああによる高速ラウンジポップ「rainbow」のリミックスといった渋谷系シーン周辺曲を、音楽ゲームの内外で制作してきた。3Dモデリングアーティストでありユニットpicoco(ピコッコ)の一員・たまことしても活動するひなた(hinatanso)が歌唱を執る本楽曲は、ポップンが有する楽曲史の最先端においてもギターポップ・渋谷系のDNAがいまだ健在であることを示す、愛しくも美しいひとつの里程標だ。
3. KUGUTSU
アーティスト:onoken
ゲームタイトル:Pump It Up
メーカー:Andamiro
国内のアーケード音ゲーシーンは、コナミアミューズメントが展開するBEMANIシリーズ、セガのいわゆるゲキチュウマイの3大タイトル、バンダイナムコによる『太鼓の達人』、そしてタイトーによる『グルーヴコースター』『テトテコネクト』『MUSIC DIVER』が競い合う、相も変わらぬ激戦区である。
そんななかで、見逃せない独自の存在感を保っているのが韓国アンダミロ社だ。国内では長らく展開が非常に限られていたアンダミロだが、2021年にラウンドワン独占の完全新規タイトルとして『クロノサークル』をリリース。こちらは残念なことに最近、2024年はコンテンツアップデートを一切行わず、2025年1月をもってオンラインサービス終了とオフライン化を行う旨の予告がなされた。
一方でアンダミロ社の本陣たる、世界に名だたるステップリズムアクション「Pump It Up」シリーズは好調だ。本年は最新作となる『Pump It Up 2023 PHOENIX』をリリース。7月にモード限定の特別楽曲として追加されたのが、20年以上の活動歴を持つ日本のベテランコンポーザー・onokenによる、彼の製作歴で最速となるBPM220を記録したハードコアテクノ「KUGUTSU」だ。アートコアやバラード方面で武器とする抒情的メロを最小限に抑え、緻密に打ち込まれた強烈なビートがグルーヴを牽引するストイックな作風は、彼の近作よりもむしろキャリア最初期の「esc」「K8107」といったインディーズリリース作品を想起させる。
本年11月には、セガ『オンゲキ』収録曲の「Maqrite」などで知られる匿名アーティストowl*treeもまた自身の変名義であることを大々的に公表したonoken。国内外のメジャー音ゲータイトルの多くで大きな看板を担い、国際的な舞台へも躍進を続ける彼が、今後どのようなフィールドへ活躍を広げることになるのか、ますます目が離せない。