『FF14』など手がける吉田直樹に聞く“ゲーム創作論” 「制約を理解し、ブレイクスルーを作る」ことのおもしろさ

『FF14』吉田直樹の“ゲーム創作論”

制約を踏まえてのブレイクスルーこそが、ゲーム作りのおもしろさ

――MMORPGの理想形について語っていただきましたが、ゲーム作りという枠での理想、究極系のようなものはありますか?

吉田:これが……ないんです。究極的な“これ”というものが、本当にないのです。だから「どうしても作りたいものはなんですか」と聞かれると、一番困ってしまう。もちろん『FF14』の向かう先は考えていますが、『FF14』の良いところはゴールがないところだと思っています。次に目指すべき“山の頂”は決めていますし、イメージもあります。ただ、それはあくまで『FF14』を作るうえでのものであり、個人としての究極目標とかではないのです。

 たとえば、もし「シューティングゲームというジャンルで世界と勝負するぞ」となったら、シューティングを研究して「これだ」というものに挑戦しますし、「バトルロイヤルでなにか作れ」と言われたら、バトロワで「これだ」というものを考える……という感じです。『FF14』じゃないMMORPGをゼロから作っていい、5年運営して収益が上がらなくてもいい、と言われるのなら「これを作ろう」というものもあります。どれもおもしろそうだから、決まっていないんです。

 よく「まっさらの状態からなにかを考えていいと言われたら」と聞かれることもあるのですが、僕はスクウェア・エニックス所属の時点でまっさらではありません。スクウェア・エニックスを応援してくださっているファンのみなさんにとって、僕は『FF14』『FF16』はもちろん、『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族』『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』を作ってきた開発者で、「きっとこういうものを作るんだろうな」というイメージができていると思います。そのなかで、もし「スクエニ、ストーリーなしで第2次世界大戦舞台のガチFPS作ります!」と言われたら「やめとけ! 絶対失敗するぞ!」ってなると思うのです(苦笑)。「お前たちがそこをやらなくていい」となりますよね。

 僕たちは、そうした看板を背負わせてもらっています。看板を背負ってゲームを作っているからこそ、お金もIPも使わせてもらうことができて、こうやってインタビューを受けさせていただくこともあります。この看板を降ろすとなったら、そこに自由はあるのか。そのための資金はどこから出てくるのか、ということですね。仮に独立して会社を作るとしても、まずは食っていかないといけないから、できるだけ短い開発期間、少ない人数でヒットさせて稼いで、そこから好きなものを作ろうとなるんです。その時点で、すでに制約がありますよね。その場合には、金銭的にも現実的にも作るのが難しいジャンルのものがあります。絶対に外せない条件を組み合わせて制約を明確にして、「この状況ならこうする」と考えていくタイプなので、「これが究極です」というものがないんです。逆に言うと、常にその状況での究極を目指してゲームを作っていると言えるのかもしれません。

――その時々の制約や状況から逆算して、ゲームの全体像を作り上げていくという感覚でしょうか?

吉田:逆算というのも、ニュアンスが微妙に違いそうです……。ハードウェアの制約、開発資金の制約、納期の制約、人的リソースの制約、技術レベルの制約と、どんなときでも制約は絶対にあるものです。でも、制約の範囲内で無難なものを作っても絶対につまらないので、そういう作り方ではないのです。引き算ではなく、制約をどうブレイクスルーして作っていくかが、ゲーム作りのおもしろいところだと思っています。予算の壁を破るために決済者に直談判してお金を引き出すというのも、ブレイクスルーのひとつです。ものを作るための努力に、おもしろさがあると思っています。制約の範囲内でやろうということじゃなくて、制約がどんなものなのかをしっかり理解したうえで、それすら組み合わせてブレイクスルーを作っていくということがおもしろさなのではないかな、と漠然と思っています。

 僕は常々、「制約を認識しよう」と開発チームに言ってきました。自分たちにしかできない制約の壊し方、突破の仕方をするからおもしろいんだと。そのためにも、制約を認識しておかないと突破ができない。たまに業界以外の人と話をすると、「やっぱりドMですね」と言われます(笑)。でも、なにが障害になっているのか認識できていないと、急に足を引っ掛けて転んでしまって、「こんなところに(障害が)あったのかよ」となってしまいますよね。どこにどんなハードルがあるのか最初からわかっていれば、飛び越え方もたくさんあります。陸上競技とは違いますから、下をくぐっても、横を回ってもいいんです。もし「早くゴールしないといけない」という制約があるのなら、またどうするのか考えればいい。そういう考え方でやっています。

――では逆に、制約がどれだけあったとしても外せない要素はどのようなものになりますか?

吉田:第三開発事業本部のみんなが目標設定をするとき、シートの一番上に書いてあることですね。ひとつは、少なくとも自分たちはおもしろいと思うゲームを作ること。そしてしっかりと利益を出すこと。このふたつです。

 まず前者について、自分たちがおもしろいと思っていないものをリリースした場合、世界中の誰ひとりとしておもしろいと思ってくれない可能性があります。せめて自分たちがおもしろいと思えるものを作っていれば、誰もおもしろいと思わないという事態にはなりません。ここで「自分たち」としているのがポイントで、個人の「俺はこれつまらないと思うからダメです」という意見は話にならない。世界中全員がその人のコピーではないからです。自分たちのチーム、第三開発事業本部として、自分たちがおもしろいと思うものを作る。議論もするし、協議もする、「自分たちが」のためにですね。

 そのうえで、赤字は出さない。なぜなら、次を作らせてもらえなくなるからです。最悪、おもしろさに対する世間の評価が僕たちの考えていた75%程度だったとしても、黒字が出ていれば「まあまあの評価だったし、一応黒字だから次も頑張って」という状態になります。でも、僕らの考えるおもしろさが95%伝わって、評価が100点満点中95点と言われていたとしても、赤字になっていたとしたら……ものすごく少ない人が遊んで、その人たちが95点を付けてくれたということですが、次の作品は作らせてもらえなくなってしまうんです。

 だから、このふたつを絶対に達成するというのが信条です。小さい会社も経験してきていますし、食えなくなったり作れなくなったら終わりだというのもわかっていますから、お金を出してくれた人たちに利益で返す、買ってくれた人たちにその分のおもしろさを提示するのが、プロとして当たり前だと思っています。ただ、それ以外はなにをやってもいい。第三開発事業本部は“下剋上上等”ですし、アルバイトからリーダーやサブリーダーになったスタッフもいます。僕自身、契約社員で入ってからずっと正社員オファーを蹴り続けて、急に社員になって、執行役員で、取締役で……となっている人間ですから、そんな下剋上も「ゲーム業界はその方がおもしろいから」と思っています。

――『FF14』の「プロデューサーレターLIVE」を見ていても、頻繁に役職が変わったり、新しいスタッフの方が就任されたりしていますよね。

吉田:役割のコンバートは結構しています。本当に1個の仕事だけを長くしていると、どうしても飽きが来てしまう。開発チームも人間の集まりだからです。もちろん、その仕事を突き詰めたい人の存在はありがたいですし、そのまま続けてもらってもいいんですが、その人のキャリアパスを考えたとき、経験することを増やさないといけない。だからコンバートはしますし、上が詰まっていると下が上がってこられないという事情もあります。上に行ったスタッフはもっと昇格させて……という形になっていますね。

 上に行ったスタッフはだいたい優しさを発揮して、「ギリギリまで(開発を)やらせてあげたいんです!」ということもあります。そんなときは「本当にギリギリまでやったらめちゃくちゃ疲れちゃうから、ここまでにして」という感じで伝えています。この辺は難しいところで、ギリギリまで粘らせたいという気持ちがあったとしても、「ここまで」とズバって切ってあげるのも上の役目なのかなとも思います。

――4月に『FF14』で『FF16』とのクロスオーバーイベント「炎影の旅路」が予定されていますが、ご自身が両方プロデューサーを務めるイベントとして、どのような心境で迎えられるのか教えてください。

吉田:『FF16』は現状、PlayStation 5でしかプレイできない一方、『FF14』はPCで遊んでくださっている方が世界中にたくさんいます。そこに『FF16』の濃すぎる内容を持っていっても、置いてけぼり感が出てしまうのではないかなと。これはどのコラボレーション、クロスオーバーでも気を付けている部分ですが、今回はより強く意識しています。今回のクロスオーバーイベントは“さわり”の部分だけにしておいて、腕まくりして本気で取り組むのは今後、また次回でもいいのではないか、と思っているところです。

 僕が両タイトルを担当しているからこそ、クロスオーバーしたときに内輪ウケ感が出てしまうのはあまり好きではありません。「よく『FF16』の吉田プロデューサーが〜」という話をすることがありますが、そうした表現を通して、ふたつのタイトルを分けておこう、という何となくの抵抗でもあるのです(笑)。

 とはいえ、ちゃんと両方わかっているからこそ、導入として「ここまでならやってもいいだろう」という内容にしたつもりなので、楽しみにしていただけたらうれしいです! 『FF16』を気に入っていただけて、まだ『FF14』をプレイしていない方も、ぜひこの機会にエオルゼアの世界へお越しいただけると幸いです!

最後に

 吉田氏へのインタビューを通じて印象的だったのは、「制約を認識するからこそ、ブレイクスルー/突破ができる」という考え方だ。ゲーム開発はもちろん、どのような仕事にも制約はあり、“制約を意識する”=“制約に縛られる”という考え方になりがちだが、吉田氏の持論にはハッとさせられた。その考えのもとに生み出される作品は、これからも驚きと魅力に満ちあふれたものになっていくのだろうと、あらためて確信している。(取材=片村光博)

小説家・古宮九時が語る“FF14愛”「創作者の憧れの形」 光の戦士と運営の絆は“唯一無二”

スクウェア・エニックスが開発・運営するオンラインRPG『FINAL FANTASY XIV』(以下、FF14)は、さまざまな分野…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる