ゲームクリエイター・金子一馬の“AI”が独自カードを生成 コロプラ新作『神魔狩りのツクヨミ』開発陣が語る「ゲーム作りと生成AI」

コロプラが2024年5月に発表した『project MASK』。「真・女神転生」シリーズや「ペルソナ」シリーズで知られるゲームクリエイター・金子一馬氏による新作ゲームだ。その正式タイトルが『神魔狩りのツクヨミ』(iOS/Android/PC)であることが発表された。
本作のジャンルはデッキ構築型ローグライクであり、その最大の特徴としては、生成AI「AIカネコ」によるオリジナルカード生成システムを搭載していることが挙げられる。
「AIカネコ」はその名のとおり金子氏のクリエイティブを学習しており、金子氏の画風が反映されたカードイラストと、プレイヤーの行動記録に基づいたカード名・効果が付与された完全オリジナルカードを生成。それらをゲーム内で使用できるという。
今回、本作のコンセプトプランナーを務める金子氏と、開発プロデューサーの齋藤 ケビン 雄輔氏に合同取材する機会を得たので、そちらの模様をお届けする。
“生成AI×デッキ構築型ローグライク”のかけ合わせが生む「あなただけのゲーム体験」
――今回、生成AIを取り入れた作品を制作することになった経緯について教えてください。
金子:僕は世間で“イラストレーター”という肩書きで認識していただくことが多いと思うんですけど、実際はゲームのコンセプトや世界観も包括的に作ってきた経験があります。
本作の開発に携わるようになったきっかけは、コロプラに入社したタイミングで、「(新作ゲームを)世界観を含めてゼロから作ってほしい」との打診を受けたことでした。とくにジャンルの縛りもないということで、ひとまずRPGのイメージで作り始めまして。後々、マンガやアニメなどのメディアミックス展開をすることになっても耐えられるように、細かいところまで世界観設定を詰めていきました。
その後、「この世界観をどうゲームにしていくか」という議論のなかで、方向性としてはローグライク要素を盛り込んだ骨太なカードゲームで、同時に最近話題のAIをゲームに織り込んでいくことが決まったという経緯です。

ケビン:弊社は、最新のテクノロジーを駆使することでユーザーのみなさんに新たな体験を届けたいという思いを持っています。そのなかで、生成AIというある意味ではランダム性を持ったテクノロジーを、もともとランダム性に富んだローグライクというジャンルに掛け合わせてみるのはおもしろいのではないか、という発想からゲームシステムを構築していきました。
――本作において生成AIがどういった役割を果たすのか、あらためて教えてください。
ケビン:ゲーム内では「オオカミ」という存在が登場し、プレイヤーがどのような選択肢を取ったのか、どのような敵と戦ったのかといったプレイログが自動的に収集されていきます。
そうしたプレイログをもとに「オオカミ」が独自の性能とイラストを備えたカードを生成してくれるんです。そういったプレイログの収集と、独自カードの生成をAIが担当しています。
この「オオカミ」を司るAIには金子さんのクリエイティブを学習させているので、僕らは「AIカネコ」と呼んでいるんです。

――プレイヤーのプレイ内容によって生成されるカードの内容が変化するとのことですが、「AIカネコ」は具体的にどのようなプレイデータを収集しているのでしょうか。
ケビン:探索においてどのようなルートをたどったのか、発生したイベントにおいてどの選択肢を取ったのか、どういった敵と戦って勝利したかなどを収集しています。逆に、バトルにおいてどんなカードを使ったかまでは、実はAIは見ていません。
――“生成AI×デッキ構築型ローグライク”を掛け合わせることで生まれた、本作ならではのゲーム体験や魅力について教えてください。
ケビン:十人十色、“その人にしかできないゲーム体験”が生まれることだと思います。プレイヤーがどのように攻略するかで生成されるカードの内容が変化しますし、そうして生まれた新たなオリジナルカードによって遊びかたや攻略方法が変化するという意味でも、真のランダム性を作り上げることができたかなと思っています。
再現性のないプレイヤーごとの体験という部分を大事にしていきたいですし、それが「僕の場合はこうなった」「私のときはこうだったよ」といったプレイヤー同士のコミュニケーションにつながっていく、という広がりかたを生成AIを使ったゲーム体験によって実現させていきたいです。
AI学習を快諾した金子氏「時代の変化に対応していきたい」
――「AIカネコ」に金子さんのイラストを学習させるにあたって、どの程度の時間がかかったのでしょうか。
ケビン:学習させること自体よりも、どういった画像素材を学習させれば良い出力結果になるかという、素材選定に時間がかかりました。数万~数十万枚の画像を人の目でチェックをし、「これは学習させるべきではない」と弾いていく作業に最も時間がかかり、選別した素材を学習させる作業自体は数日程度で終わりましたね。
ちなみに、実際にゲームへと実装する完成度までにはいたらなかったものの、開発段階ではサウンド(BGM)を生成AIで作成しようと試みたこともありました。また、ゲームバランス調整のための分析などにもAIを活用しており、ゲーム体験としてはもちろん、ゲーム開発の現場においてもAIをどれだけ活用できるかに挑みました。
――AI学習用の画像素材は、どのような基準で選定していったのでしょうか。
ケビン:おもにふたつの基準を設けていて、ひとつ目は生成物のクオリティ管理を目的としたものです。現状の画像生成AIは、細かい描写が苦手で、とくに人間の手足や指の描写に何かしらの破綻が起きやすいという弱点があります。学習させる資料に破綻が多ければ、必然的に生成物も破綻するので、そういった資料を弾くための選定を行いました。
ふたつ目は、権利侵害あるいはセンシティブな内容を含むような、問題のある生成物を発生させないための基準ですね。弊社における生成AI技術利用のガイドライン(※)に則って、問題を生じさせる可能性のある素材を学習させるものの中に含めないよう精査しています。
※コロプラ社のAIポリシー:https://colopl.co.jp/aipolicy/
――ゲーム内で問題のあるコンテンツが生成されないようにするための、安全装置的なシステムはあるのでしょうか。
ケビン:はい。ゲーム内でカードを生成してからプレイヤーの手元で表示される前に、バックグラウンドで問題がないかどうかをチェックする機構を挟むようにしてあります。それでもなお、問題のある生成物が100%出ないとは断言できないのですが、万一の場合はお問い合わせフォームなどを通じてイラストの差し替え対応をさせていただくといった体制も整えています。
――金子さんは、「AIカネコ」というメタフィクション的な立場でゲーム本編に関わることや、ご自身のイラストが生成AIの学習対象になることに対して抵抗感はありましたか。
金子:生成AIについてはさまざまな考えかたがありますし、懸念や嫌悪感を抱いている方も多くいらっしゃいますよね。我々の仕事がとられてしまうのでは、といった不安とか。実際、ミシンが生まれて御針子さんたちはこれまでと働き方を変えたり、そもそもお仕事を変えたりしたといった歴史もありますし。
ただ、そういった技術革新によって時代はどんどん変化していきますし、僕自身、変化に対応していきたいとつくづく思っていたこともあって、今回このような機会が得られたことは素直にうれしいです。会社としても「チャレンジしたい」ということだったので、「ああ、そこに挑むんだ。おもしろいな」と。
そんなわけで、「どんどんAIに学習させてください」と快諾しました。コロプラの社員として、すべてを捧げます。それに自分の預かり知らぬところでAIに学習されるよりは、コロプラとしてやってもらえるほうがありがたいということもありますし。

――「AIカネコ」が生成したイラストをご覧になった際の、率直な感想はいかがでしたか。
金子:嫌な気持ちになったり、怖いと感じたりするようなことは全然なかったですね。それに「AIカネコ」によって生成されたイラストは、たしかに僕のデータから生まれたものかもしれないけれど、それは学習させた僕のデータをなぞったに過ぎないわけです。
たとえば何かしら題材を与えられたとして、「AIカネコ」が生成するイラストと、実際に僕が描こうと思うイラストがまったく同じものになるかといったら、やっぱり違うんですよ。「僕だったらこういうアプローチをするんだけどな」と思ってしまうので、だから怖いとは思わなかったです。
――ちなみに、金子さんのイラストが生成AIの学習対象になるにあたって、手当などはあるのでしょうか。
金子:そこに関してはたぶん出ないんですけれど(笑)。ただ、ほかのクリエイターさんのことも考えると「AI学習されました手当」のようなものは、方法論のひとつとしてあってもいいかなと思いました。
たとえば社外向けの「AIカネコ」をかっちりと作って、他社に有償で貸し出して、僕も何かしらのリターンをいただくとか。あるいは別のクリエイターさんバージョンの「AIカネコ」的なものを作って、コロプラが管理を受け持つとか。そういったビジネスもありなんじゃないかなと思ってはいます。

生成AI×エンタメの相性を見極める試金石であり、最初の一歩として
――おふたりは、AIという存在をどう捉えていらっしゃいますか。たとえば、「現状は人間にとっての良き“道具”に過ぎないけれど、10年後は人間がAIに使役される側になっているかもしれない」などの予想や展望などがあれば、ぜひお聞きしたいです。
金子:いまのところは完全に“道具”の認識です。すごく便利だなと感じています。AIに踊らされている感覚もなくて、たとえば最近はGoogle検索するとAIの要約が出てくるから、それを参考に自分で調べ直すようなことがあります。
なぜAIを道具と捉えているかというと、それはAIに“欲望”がないからかなと。僕ら人間が集めた情報を管理することに長けている脳みそなのであって、「こういうことをしてやろう」という欲がないから。もしも何者かが欲望を持ってAIをコントロールするようになったら、そのときは感じかたが変わってくるかもしれませんね。
それはそれとして、このままAI技術が発達していけば、もしかしたら自分ひとりでゲームを作れるようになるんじゃないか、なんて想像も膨らみます。「こういうゲームで、こういう世界観にしたいんだけど」とAIに伝えたら、「わかりました」と言ってゲームが出来上がっちゃうとか。そうなったら問屋さんを通さずにウェブ上で販売すればいいのかな、でもそうすると別のどこかに手数料が取られるのかなとか、そういうことも考えたりはしますね。
ケビン:僕も金子さんと似たような感覚で、現状は特定の分野においてのみ優れた能力を持った職人気質なテクノロジーだと思っています。AIが得意ではない領域は多いし、苦手なことはまったくできないですし、AIがひとりでに何かを考えて動くものでもないので。
結局、人間が(AIに対して)何をやりたいのかをどのように伝えるか、どのように指示するかを工夫してあげないと、求めているものが出力されない。そういう意味では、便利に使えるかどうかはあくまで使う人次第だなと思います。
とはいえ、人間がやっていた仕事がAIにどんどん置き換えられていくという予想はそのとおりだろうなとも思っていて。これまで人海戦術で長時間かけてやっていたビッグデータの分析などをAIはごく短時間で処理できてしまうわけですから、今後一緒に働いていく存在としてAIのことを常に考えていく必要があると感じています。

――今回、生成AIをゲームシステムの軸とした作品を発表するにあたり、「ユーザーから好意的に受け入れてもらえるだろうか?」などの心配や不安はありましたか。
金子:もちろん(不安は)あります。ただ、僕らは生成AIを活用したゲームにおける、ひとつの到達点を目指そうという思いを持っているんです。
今後、生成AIは遅かれ早かれゲーム作りにも活用されていくでしょう。僕としても、そうした流れを推し進めようとまでは考えてはいないのですが、現実問題としてそうした流れは止めようがないことかもしれないと個人的には思っていました。
そのうえで、賛否両論あるなかでもコロプラはAIに関して前向きにチャレンジをさせてくれる会社だったので、僕としてもAIを恐れてばかりではいられないなという思いがありますから、前向きに取り組ませていただいてるというところです。
ケビン:僕も同じで、怖さはあります。生成AIの利用に反対している方々にどういった形で届くのか、どのように見ていただけるのかという部分はありますから。ただ、今後AI技術がさらに発展することはあってもなくなることはないと考えています。だとしたら、あえてフル活用してみたらどうなるのかという挑戦をしてみようじゃないかと。
誤解を恐れずに言えば、生成AIをフル活用した本作を実際にユーザーのみなさんに触れていただいて、結果どのような受け止めかたをしていただけるか、ということこそがやりたかったことでもあります。怖さはありますけど、そのチャレンジをしないと、生成AIがエンタメに対してどう作用するのかなどが見えてこないと思っていますし、それを見極めるための第一歩となるような挑戦に、コロプラとして取り組んでいきたいです。



















