『FF14』など手がける吉田直樹に聞く“ゲーム創作論” 「制約を理解し、ブレイクスルーを作る」ことのおもしろさ

『FF14』吉田直樹の“ゲーム創作論”

いまも印象深い『新生』、そしてプレイヤーからの「ありがとう」の言葉

――『FF14』ではプロデューサー兼ディレクターを10年以上務めています。そのなかで最も印象深かった出来事を教えてください。

吉田:一番を聞かれてしまうと、やっぱり『新生エオルゼア』をリリースした瞬間ですね。一度は失敗したものを、同名タイトルとしてゼロから再開発して、ストーリー的に合流させて入れ替える……。そんなことを着地させることができて、ホッとしたところはありました。「あれ以上の経験があってたまるか」という思いもあります。常に前進するという気持ちではありますが、「普通、あれ以上のことはそうそう起きないでしょう」と。

 新生後、1回目のファンフェスを北米で開催したときに、本当にたくさんのプレイヤーのみなさんから「ありがとう」と言っていただいて、泣くほどうれしかったことも覚えています。「ありがとう」と言いたいのは僕たちでしたし、「ゲームを作っていて良かったな」と思いました。「このゲーム続けてよかった」「ここまでのゲームにしてくれてありがとう」と言われたときに、ゲームを仕事としている僕たちだけじゃなく、遊んでいる方にとっても『FF14』が日常であり人生になっているんだと。だからこそ「ありがとう」と言ってもらえるんだと感じましたし、生涯忘れられない思い出になりました。

 その後、プレイヤーのみなさんに「ちょっとぬるいんじゃない、このゲーム?」「もうちょっと難しくていいんだよ」と言われて、『蒼天のイシュガルド』では「わかりました! 難易度ノーマルも作るので、ハードはめっちゃハードにしますね!」とニコニコしながらレイドコンテンツを作ったら、「難しすぎんだろ!」と怒られたのも良い経験でした……(※)。このときの経験は、僕のゲーム開発者としてのキャリアのなかでもすごく大きなものでした。プレイヤーのみなさんが求めるもの、その期待の先をお届けするのが僕らだと、そんな思いで(難しいものを)作ったら「あれ?」と。こういったシンプルな回答はゲームには存在せず、その意図や裏にある想い、体験も含めてゲームデザインしなければダメだな、と。あれ以降、開発チームによく言っていたのは「みなさまに『簡単だった』と言われるくらいがちょうどいい」と。本当にこのままのセリフでした。

※『蒼天のイシュガルド』の高難易度コンテンツ「機工城アレキサンダー零式:起動編」「律動編」の難易度が非常に高く、特に「起動編」ではクリア者がなかなか生まれない事態となった。

 でも、ゲームにおける難易度の問題は難しいのです。最近はよく極端な例として「スーパーマリオブラザーズ」を出すんです。穴に落ちてマリオがやられてしまうのは、ストレスですよね。スクロール先から明らかに奈落の底に落ちる穴が見えてくるから、ジャンプしなきゃいけない。でもジャンプの距離は決まっているから、どのくらいの位置で、どれぐらいのスピードでボタンを押して踏み切らなければいけないかを考えると、それだけで緊張が走る。これは言い換えればストレスに該当します。では、ストレスをなくそうとして、最初は穴のサイズを小さくする。それでも落ちてしまう人がいたら、もう穴なんてなくそうと。そうなると「これってなんだっけ?」「穴のないマリオはおもしろいの?」という話になりますよね。繰り返しますが極端な例です。

 チャレンジという名のストレスが、いろいろな見せ方でプレイヤーの目の前に次々と展開されていき、ストレスを克服するためのアプローチを、プレイヤーが指先だったり思考だったり経験だったりを組み合わせて突破する。そのときのカタルシスがゲームの持つおもしろさだと思っています。その強弱が重要で、なくせばいいものでもないし、増やしすぎるものでもないということです。

 ここまで説明を聞くと、「そんなの当たり前ですよね」「難易度の話ですよね」となるのですが、いまの世の中はSNSでみなさんが発信される一言一言がわれわれ開発にダイレクトに届きますし、そこから迷いが生じることもあります。できるだけみなさんに気持ちよくプレイしていただきたいのですが、気持ちよさとストレス=不快感の境目がめちゃくちゃ難しい。ここは『蒼天』レイドのときにすごく勉強になりました。いまもこれだけ大規模なゲームになって、お客様のそれぞれの価値によって遊ぶコンテンツが違うなかで、それぞれ別の“ストレスの境界線”を決めるところが、あらためて「ゲームっておもしろいな」と思って取り組んでいます。

――個人的には『紅蓮のリベレーター』での「次元の狭間オメガ零式:デルタ編」のバランスが絶妙に感じましたが、その感覚も人によって違うと思います。

吉田:実際は『漆黒のヴィランズ』のレイド「希望の園エデン」くらいの難易度が、ジョブの練度も含めて一番ちょうどよかったのかなとは思っています。でも、どんなときでもさまざまなフィードバックがありました。ターゲットサークルが小さくて近接DPSが攻撃できないとか、方向指定を取るのが難しいからなくしてほしいという声もありました。1%の範囲内で火力のバランスは収めていたとしても、「この層はこのジョブがいい」という差はどうしてもあります。そこでパーフェクトなバランスにしようとすると、全部同じようなギミックのボスになってしまう……。ストレスをなくすことと、ゲームが“ぬるく”なってしまうことは本当に紙一重です。いろいろ勉強させていただいたうえで、またチャレンジしようとは思っています。でも、「デルタ編」をお褒めいただきありがとうございます。デルタ編はたしかにおもしろかったですね。

――ここまで伺うと、やはり初期のころに印象的な出来事が多かったんですね。

吉田:本当は印象に残っていないものなんてないんです(笑)。必ず学びがあって、失敗も、うまくいったこともありました。全部覚えているし、 全部語れるんですが、全部語っていると時間がなくなってしまいます。また、この経験はゲーム開発者として僕個人が持っている財産でもあるので、あまり大っぴらに話してほかの人にヒントを与えたくないというのもあります(笑)。

『暁月のフィナーレ』の大団円で伝えた「中途半端はやめよう」

――『FF14』は『暁月のフィナーレ』で大きなカタルシスとともにひとつの物語が終わりを迎えました。いまは「再びドミノを並べる時期」というお話もありましたが、次回の拡張パッケージ『黄金のレガシー』ではプレイヤーにどのような体験を届けたいと考えていますか?

吉田:もともと「このテーマをお客様に知ってほしい、味わってほしい」と偉そうに言えるようなものは決めていないのです。感じていただく内容は、プレイヤーのみなさん、それぞれ自由だと思っているからです。ただ、お客様に支えていただいたからこそ、これだけ長く続けられていて、すべての拡張で信じられないくらいずっと成長できているなかで、暁月まで続くストーリーを漫然と引き延ばすような形にはしたくなかったんです。

 僕は海外のドラマシリーズが昔から好きなのですが、引き延ばしに入ると感じてしまうところがあって……。「引き延ばしに入っちゃったなぁ……」みたいな、あのパターンに陥るのが本当に嫌だったんです。『旧FF14』から続く伏線の多いストーリーも、味を薄くして引き延ばせば、拡張パッケージ3本分くらいは引っ張れたとは思います。ただ『暁月のフィナーレ』のように、ジェットコースターで言えば凄まじい上昇から一気に加速とともに落下していって、回転して綺麗にプラットフォームに戻ってくるような経験は、一生涯かけたとしても何回もやれることではないと考えました。

 会社にも「リスクはありますが、ここまで来たからにはやらせてください」と確認しました。「それは確認になっていないだろ」と言われたら、たしかにそうなんですが(笑)。開発に対しても「大団円だからこそ大団円。思い切ってやる」「中途半端はやめよう」と伝えつつ、そのなかでも先につながるものはいくつか入れておきました。

 実際の『暁月』で『ハイデリン・ゾディアーク』というサーガを一旦完結させ、いまは文字通りドミノを並べ直している段階です。『新生』のときはドミノを並べる段階にはなくて、道なき道にレールを引き始めるような形でした。ですが、これまでに多くの経験をさせていただいてきたので、今回はドミノを並べ直すことができています。ただ、今回は平面に並べていくというよりも、初っ端から結構な“積み方”をしています。それでみなさんからの反応がいまいちだと感じた場合は、一度崩してまた積んでいけばいいとも思っているんです。思い切って、新しい種を植え、新しいチャレンジをして、またその先につながっていくような……。凄まじく組み上がった巨大なドミノの集合体をまた作りたいなと。

 ひとつずつ積み上げていかないとそこには到達できないですし、それでもなるべく地味にならないようにしたいですね。それは、これまでの拡張パッケージで必ずやってきたことでもあります。プレイヤーの方から見ると、「おいおい、マジかよ」と思うことが必ずあったと思うんです。『漆黒』で「第一世界に行くんだ!?」と驚いたり、『暁月』で「ついに月に行くんだ! 最終決戦は月か」と思っていたら、「(最終レベルは90なのに)レベル83で月に来たんだけど……」となったり。拡張単体としての驚きと、物語の完成度は『黄金のレガシー』でも変わっていないと思いますし、まずは1本のタイトルとして勝負したうえで、「この先、こっちに転がっていく可能性もあるな」というところまでお見せしたいと思っています。

 だから、これまでとあまり変わらない、というのが正直なところです。でも、『暁月』のストーリーがあれだけきれいなアクロバットが決まって着地したからこそ、プレイヤーのみなさんが絶対に「この先どうすんの?」と感じられるのはその通りです。それは開発チームにも言っていました。それはそれでいいんです。この次、さらにアクロバティックな、クアドラアクセルくらいの着地をするために、引き続き物語を積み上げていくので、またお付き合いしていただければいいなと。1回休もうかなと思った場合は無理せず休んで、もう少し積み上がってきてから戻るとか、お子さんが生まれてプレイ期間が空いた人も、一段落してから戻ってきてもらえばうれしいです。プレイヤーのみなさんも、いつも通り気楽に楽しんでいただけると幸いです。

――ちょっと間を置いて戻ってきても復帰しやすいシステムになっていることもあり、マイペースにゲームと付き合うのがよい、というのはプレイヤーの間でも共通理解になっていると感じます。

吉田:ありがとうございます。どうしてもMMORPGは、ずっと遊んでなきゃいけない、と思われがちなゲームです。それも壊したかったところがあって……。ドイツのプレイヤーから「『FF14』が大好きなんだけど続けるのが苦しくて、ちょっと休止してるんだ。ごめんよ、吉P」と言われて、「いいんだよ別に。ほかのゲームを遊んでから、気が向いたら帰ってきて」と伝えたら、「そんなこと言うプロデューサー初めて会ったわ」と言われたこともありました(笑)。

 でも、自分もゲーマーですので、「どうしてもこのゲームを遊びたい!」という気持ちもわかるのです。でも、そこで固執してしまうと、どうしてもネガティブなストレスのかかり方をしてしまう。『FF14』は常に動いているものだからこそ、いつ遊んでもいいし、いつ休止してもいいし、いつ戻ってきてくれてもいい。それこそ、世界が常にちゃんとそこに存在し続けることの意味だと思います。

――休止しないとしても、『FF14』ではコンテンツを遊ぶわけでもなく、ログインするだけでも楽しいというプレイヤーも多いですよね。

吉田:ビジネス面でもゲーム面でも、それがMMORPGの理想形だとも思います。課金してくださって、ログインもしてくださって世界に滞在している、それ自体が日常になる。そうしたプレイヤーの方は、僕たちにとって理想的な一面もあるのですが、そこに甘えるのが一番ダメだと思っています。僕らは世界をより良くして、更新し続けないといけない。毎日ログインして、なにもしなくても「なんとなく楽しい」と思ってもらえる雰囲気というのは、世界に対してすごい勢いでアップデートをかけていないと発生しないと思っているんです。

 たとえばリムサ・ロミンサやグリダニア、ウルダハのエーテライト付近でぼーっとしていると、自分はなにもしていなくても、実は目の前を通り過ぎている人たちに変化が出ている。見たことのない装備で走り回っていたり、演奏の中に聞いたことのない楽器の音色が入っていたり、若葉マークを付けた新人冒険者たちが遠足のように一列になって歩いていたり……。「お祭りやってるよ」というシャウト(※)が流れてきて、案内してくれる人に付いていったら、ハウジングのストリートを使って夏祭りをしている人たちがいた、ということもありますよね。こういう出来事に遭遇したプレイヤーの方々は「ログインしているだけで楽しい」とおっしゃってくださるんです。MMORPGの世界はほかの誰かがなにかをしていることによる相互作用で、楽しさや刺激を受けることになっていて、そこから「毎日ログインしているだけで楽しい」という状況が生まれている。だから、その言葉に甘えて安穏としていてはダメなんです。さらに変化を作り続けることによって、ログインしているだけで楽しい空気が醸成されるものと思っています。

※エリア内のキャラクター全員に聞こえるチャット形式。

 『FF14』にはたくさんのコンテンツがあって、最前線で戦闘コンテンツを楽しんでいる人たち、ミリ単位でオブジェクトをずらして精巧なハウジングに心血を注いでいる人たち……。その“余波”で変化が生まれて、空気感につながっている。だからより住みやすく、それでいて刺激的な世界を作らないといけない。そして、その世界に月額課金していただければ、それが一番理想的な形です。

――プレイヤー目線では、無意識のうちにそうした努力の成果を享受してきたなと感じます。

吉田:もちろん、尋ねられなければ、自分から言うことはでもありませんし、お客様が認識する必要はないと思うのです。それが僕たちの仕事です。『FF14』プレイヤーの方々はそうしたこともよく考えてくださって、それ自体は非常にうれしいのですが、こちらから強要することでもありません。「そんなことまで知らないと遊べないの?」と思われるのは、本意ではなく、とにかく楽しんでくださるのが一番うれしいです。

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