『Stranger Things VR』はキャラゲーにあらず ヴィラン視点での追体験と尖ったホラーは一見の価値アリ
原作の追体験とVRならではの楽しさを両立する、「ヴェクナ」を軸としたゲーム設計
『Stranger Things VR』の最大の魅力は、原作の主人公に相当するイレブンを中心とした子どもたちではなく、あえてヴィランであるヴェクナを軸にゲーム全体を作り上げていることにある。
これは断言しても良いと思うのだが、VRならではの魅力が「疑似体験」にあるとして、ほとんどの原作ファンが期待するのは「超能力を司るイレブンになりきる体験」だろう。「一度でいいからヴェクナになってみたかった」と思う人は(いないとは言わないが)よっぽどの人物である。
というのも、原作の大きな魅力となっているのは80年代のSF作品やドラマを彷彿とさせるようなレトロでワクワクする「表」の世界と、クトゥルフ神話や『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の影響下にある濃厚なホラーに満ちた「裏」の世界(未知の世界)とのコントラストであり、ヴェクナはまさに「裏」を象徴するキャラクターだからである。
その結果、本作は恐らく原作ファン以外のプレイヤーが「なんとなく話題だから」と聞いて手に取るとギョッとするくらいにはホラー成分の強い作品に仕上がっており、暴力的かつグロテスクな展開の数々に「思っていたのと違う!」と抵抗感を示す可能性すらある(ヴェクナを象徴する蜘蛛も当然のように出てくるし、暗い閉所を探索する場面も多いため、苦手な方は要注意だ)。
だが、プレイを進めていくほどに、その判断がいかに本作の完成度を高めているのかを実感していく。身も蓋もない言い方をすると、こうした原作ありきのゲームに求められることは「原作の追体験」であり、かといってそのまま再現しようとするとダイジェスト感が強すぎてゲームとしての深みに欠けたり、一方でオリジナルの物語を展開してしまうと(もちろん成功例もたくさんあるが)原作ファンが“解釈違い”に苦しむ可能性が高い。
『Stranger Things VR』は、ヴェクナという「これまでの物語のすべてを見てきた立場」かつ「作中の登場人物に入り込むことができるという特徴を持つ」キャラクターを軸とすることによって、(ヴェクナとして)ウィル・バイヤーズやビリー・ハーグローブの視点で原作(主にシーズン2、3)の物語を追体験するパートと、(ヴェクナの元になった)ヘンリー・クリールとして未知の世界を探索するオリジナルパートを違和感なく両立させている。
前者のパートは短い時間の中でうまくポイントを捉えており、単に追体験するだけではなく、原作におけるヴェクナの「キャラクターの弱い部分に入り込み、刺激することで深い闇へと誘う」という恐怖を、VRだからこそ実現できる孤独感を巧みに使いながら容赦なく描いていく(そのため、本作にはグループから取り残される孤独や、家庭内暴力などの描写が存在するため、プレイする際は注意してほしい)。
一方のヴェクナのパートにおいても、ブレナー博士との対話と未知の世界の探索を(強制的に)反復しながら、徐々にヘンリーがヴェクナとして覚醒し、圧倒的な力を手にしていくプロセスがうまく表現されている。
どちらの側面も魅力的ではあるのだが、VRゲーム単体として評価するのであれば、やはりヴェクナのパートを推したいところだ。ヴェクナはイレブンと同様に超能力の使い手であり、ゲームの最序盤から身の回りにあるものを(直接触れることなく)動かしたり、砕いたり、前方に放り投げたりといった操作を直感的に楽しむことができる。
さらに、ヴェクナは何とも形容しがたい触手を司る存在であり、これを活用することで空間全体を縦横無尽に動き回ることができるのだ。その結果として、ヴェクナのパートでは超能力であらゆるものを振り回しながら、触手を操って自由に移動するという、“完全に人間離れした存在”として暴れ回る体験を味わえるのである。
ゲーム内にはこれらの能力を活用した戦闘シーンも多数用意されているため、自らの体験でもってヴェクナの強さを思い知ることになる(ストレス発散にも良いだろう)。
さすがシリーズ最強のヴィランというだけあって、その描写には一切の遠慮がない。動物も人間もこの手で握り潰していくという壮絶な体験は、筆者個人としても「ここまでやっていいのか」と躊躇いを感じるほどのものだったが、それもまたVRの醍醐味であり、本作はそれをよく理解している。