ホロライブの“ひと味違う”新グループ・ReGLOSSの四半期を振り返る(音乃瀬奏/轟はじめ/儒烏風亭らでん編)
美術/芸術の知識豊富なユニークタレント・儒烏風亭らでん
今回の記事で最後に紹介するのは、儒烏風亭(じゅうふうてい)らでんである。
彼女の名前を初めてみたとき、「まるで落語家のような名前だ」と感じた方もいるだろう。後述するが、その感触は決して間違いではない。
ルックスを見てみると、黒を貴重にしたゴスロリな洋服、黒とブロンドがキレイに混ざった長髪、薄水色の大きい瞳や目鼻立ちと西洋人を思わせる容姿が目を引く。
初配信時にはなぜか能面を被り、お酒を飲み、「タバコが吸いたくなってきた」とハッキリ口にする、この時点で「今までのホロライブにいないタイプ」であるというのが感じられる。
その後明かされた自身のエピソードを振り返っても、お酒・タバコ・パチスロ好きと、破天荒な側面を垣間見せる。かとおもえば、落語好きであることを明かし、噺家として「前座見習い」という立場で、将来的には配信で落語を披露してみたいと語るなど、これまでのホロライブ所属の面々と一線を画すタレントであることがハッキリとわかる。
くわえて、九州・福岡出身ということで博多弁を操り配信のなかでテンションが高まるとはしゃぎはじめ、明るいふるまいで配信を何度も盛り上げる。ビジュアル・趣味性・言動や振る舞いなど、どれを見ても個性的な新人の登場ということで、大いに注目を集めたのだ。
そんな彼女のもっとも大きな個性・資質ともいえるのが、文化・芸能への深い造詣であろう。公式サイトのプロフィールに「文化・芸能を愛しており、美術館通いの結果、 金欠気味の日々を過ごしている」とあるように、マンガやアニメといったサブカルチャー/ポップカルチャーにとどまらず、学術的な西洋芸術/ファインアートにも精通していることがすこしづつ明らかになっていった。
じつは彼女は学芸員の資格を取得しており、博物館などでの実習やボランティアで作品解説をつとめたことがあると語っている。学芸員の資格は、博物館の専門的な業務を担当する職員として働くために必須となる国家資格であり、資料収集から保管、調査研究、展示普及までをも任される、全国的にみても貴重な人材だ。
らでんはVTuber~バーチャルタレントとしてデビューし、これまで自身が学んできた学術的/専門的な知識をフルに活かし、リスナーらに美術を楽しむためのノウハウや知見を広め始めることになった。
「国家資格をもつレベルの美術系VTuberが、ホロライブからデビューした」というインパクトは凄まじかった。自身のチャンネルにてホロライブの先輩とのコラボ配信を初めて企画した際、尾丸ポルカとともに美術館紹介をおこなったところ、紹介した美術館すべての公式WEBサイトがサーバー落ちしてしまったのだ。
今年1月15日に三井記念美術館で開催されていた『国宝 雪松図と能面×能の意匠』展にまつわる配信をした。美術館側からの写真提供があり、「雪松図屏風」の写真をリスナーと楽しみつつ、美術について知らない人にも伝わりやすい明快な言葉選びで作品の魅力を解説していく内容となっていた。
じつはこの2度の配信のなかでつかわれた資料は、美術館側から提供されたもの。いくらカバー株式会社が大手プロダクションとはいえ、デビューしてわずか数ヶ月のVTuberに対して美術館側から資料提供がなされるというのは、それだけでも大きな出来事だろう。
ただ、こうして美術・芸術にまつわる博識ぶりが広まるにつれて、初期に見せていた奇人なイメージから、徐々に常識人・知識者としてのイメージへと変わっていくことになる。そのことは彼女にとって悩みにもなっている模様。
ホロライブの先輩らによって年末に実施されたとある企画に出演した際には、「じつは2ヶ月前から禁煙をしていて、デビューから忙しくなってスロットにも行けなくなってしまい、個性がなくなっている。これからどういうキャラで生きていけば良いのか……」と、真面目な相談をしてしまうほど。もちろん、振る舞いを見る限り、一種のネタとして話題にあげているであろうことは伝わる。
「やっぱり型破りキャラを演じようと思っても、本物のスロカスがチキンを冷ましながらスロット打ってたり、配信中にママに相談事しはじめるやつもいる。常識人にはいけない、真の“あたおか”な世界があるんです」
その場にいた宝鐘マリンの返答は、大仰な言葉選びではあるがホロライブリスナーも納得の答えであった。このアドバイスが効いたのか、年明け最初の配信で「ネタ枠はもう諦めつつあるよ!」とケロっとした口調でリスナーにあかしていた。
とはいえ、やはり飛び抜けた知識人は時として奇抜であったり、並外れた感覚で物事に接していることが往々にしてある。
配信でホラーゲームをプレイしていると、ゲームに登場する建築物を見て年代を特定し、様式や歴史について話しだすなど、自然と美術や芸術の話題がでてきてしまう。
また、ほかのメンバーと散歩について話していた際、「散歩するのって目的がないじゃん、なにしたら良いかわからない。何のためにしてるの?」と問われて
「面白いものを見つけたら楽しいじゃん? 変な建築物をみつけたり、珍しい花を見つけたら調べてみたりして、ちっちゃな幸せをいっぱい見つけるのが楽しい」
このように明瞭かつ簡潔に答えている。「こういう考え方の人が幸せになっていくんだなぁ。そんな感覚、はじめにはなかった」と同期の轟がおもわずこぼしたように、らでんのなかで養ってきた感性・知識・好奇心はやはり卓抜しているとみるファンも多いはずだ。
個々人が色濃い個性を持つReGLOSSメンバーたち。ホロライブ内のタレントやユニット、グループをみても、タレントとしての資質が図抜けているように筆者は感じる。無二の個性/経歴をいかし、魅力的なグループであるというイメージをこれから構築していくだろう。