海外と日本で異なる“VTuber文化”に対応し、世界で成功するために Brave group代表取締役・野口圭登に聞く「これまでとこれから」
2023年にバーチャルタレント/VTuber業界をにぎわせた企業を挙げるとするならば、Brave groupの名前を外すことはできないだろう。同社は現在、複数の子会社を有し、バーチャルタレント、メタバース、eスポーツなど、様々な事業を展開する一大グループ企業へと成長を遂げている。
2022年6月に「ぶいすぽっ!」の運営会社である株式会社バーチャルエンターテイメントをM&Aにより経営統合すると、その後も複数の企業を傘下に加えていった。2023年も拡大路線は続き、11月には「HIMEHINA」運営の株式会社LaRaとXRや3DCGコンテンツなどの制作・開発を行なっている株式会社ディーワンを経営統合。さらに、この一年でアメリカ、イギリス、タイ、中国に現地法人を設立し、海外向けバーチャルタレント事業も始動するなど、グローバル展開も加速させている。
空前絶後の規模で拡大を続けるBrave groupは、どこへ向かおうとしているのか。成長を続ける同社のこれまでとこれからを、代表取締役・野口圭登氏に伺った。(浅田カズラ)
海外と日本で異なる“VTuber文化”への認識
――まず、バーチャルタレント事業についてうかがえればと思います。Brave groupでは2023年の大きな動きとして、海外向けのバーチャルタレント事業をスタートさせましたよね。
野口圭登(以下、野口):2023年は「グローバル展開」を目標として掲げていました。国内の体制が2022年には固まっていたこともあり、グローバルチームの採用を積極的に行い、進出を開始した形です。
――そもそも、このタイミングでグローバル展開を目標として掲げた狙いとは?
野口:まず僕自身がもともと起業家として「グローバル企業をつくりたい」という想いがあり、2023年はグローバル元年にしようと宣言したことから始まります。
また、他社が英語圏、特にアメリカで一定のシェアを獲得し始めていることもあり、「VTuber」というカルチャーが全世界的に受け入れられ始めたと感じたことも大きな理由の一つにあります。
昨年はかなり海外出張を重ねたのですが、現地のアニメコンベンションなどに行くとVTuberを見ている人、VTuberをやっている人をかなり見かけるようになりました。一個人がYouTubeなどのプラットフォームで配信する際に、VTuberが1つの選択肢として、海外でも普通に選ばれるようになっています。
2017年くらいからVTuber事業に関わっている身としても、当時から「これから海外でもブームがきそう」とは感じていました。まさにその“ブームの到来”を感じて、2023年は一気に4カ国(アメリカ、イギリス、タイ、中国)へ進出することにしたんです。
――昨年動き出した海外向けのグループとしては、アメリカ向けの「V4Mirai」、ヨーロッパ向けの「globie」があります。それぞれのグループに対して、現在の感触はいかがでしょうか?
野口:V4Miraiは半年、globieは1ヶ月ほど経ちましたが、V4Miraiはコツコツ伸びてきています。収益化が通ったタレントもいて、想定したKPI通りの推移をたどっている、という認識です。
12月24日にはBrave group US主催でクリスマスコンサートを開催し、今年1月6日には『Animé Los Angeles 19』にてVShojoさんと共同でライブコンサートを開催するなど、コラボ企画や展開を進めています。「globie」に関しては始動したばかりなので、これからコツコツとやっていきます。
ロサンゼルスに設置したスタジオにも、元Meta社のエンジニアなど優秀な方が入ってきています。海外の技術力の高い方って、アニメなど日本のカルチャーが好きな方が多くて、そうそうたる企業で働いていても「いつかVTuberみたいなことを会社でやってみたい」という想いを持っている方が多くいるみたいなんです。そうした方がご縁あってうちにジョインしてくれているので、チームビルディングの面でも大きな手応えを感じています。
――VTuberがエンジニアなどにとっても「花形」の領域になっているのですね。
野口:そうですね。また、アメリカと日本の大きな違いとして、企業に所属せず、個人で活動されるVTuberが結構多いことに気づきました。大きな企業に入るよりも、「個人の表現」のひとつとして、VTuberを選択しているようです。
一方で、「個人でやれる限界」が課題として浮上していて、モデルを発注して3D化したり、美麗なイラストを描いてもらったり、MVを作ったりと、活動していると予算の面で限界が出てきてしまうんですね。「個人で始めたものの、思い描いていたような活動ができない」と感じる中で、「企業に所属するべきでは?」と考える人が海外でも増えているみたいなんです。
そのためか、弊社でもオーディションやスカウトを全世界的にやっている中で、「もともと個人でVTuberをやっていました」という方が多く応募してきています。
――アメリカだと、タレントやアーティストが個人で活動し、そこにエージェンシーとして事務所が関わる構図が多いと思います。そんな中で「企業に所属したほうがいいのでは」という考えが芽生えて、タレント事業が起こされるというのはビジネス的な変化を感じますね。通常は逆じゃないですか。
野口:そうですね。独立もできる時代ではありますが、やはりVTuber活動をする上ではさまざまなリソースが必要になりますし、配信やコンテンツのクオリティを上げていかないとファンの方も飽きが来てしまうので、そういう考えに至るのも不自然ではないかなと。
多様な“器”を持つグループならでは? 他社と対照的なスタンス
――次に国内のバーチャルタレント事業についてですが、なにより「HIMEHINA」運営のLaRaとの経営統合に驚かされました。どのような経緯で実現したのでしょうか?
野口:昨年8月に大宮ソニックシティホールで実施したHIMEHINAのワンマンライブ『提灯暗航、夏をゆく』を見て感銘を受け、LaRaの前社長である太田豊紀氏からHIMEHINAチームの雑務代表・中島さんをご紹介いただいたのがきっかけです。「シナジーがある会社さんとともに、HIMEHINAをもっと大きくしていきたい」というお話をいただき、これまでの活動を継続しつつもっと大きなチャレンジができる環境を提供したいと思い、そこから経営統合へと話が進みました。
――HIMEHINAに限らず、2023年はBrave groupから新規VTuber事業がいくつか始動しました。これだけ多くのVTuber事業を新たにスタートされる理由はなんなのでしょうか?
野口:前提として、Brave groupは「挑戦したい人を抜擢していこう」というカルチャーが強いんです。昨年末、コーポレートビジョンを「時代をつくる、事業家集団へ」と刷新したのですが、挑戦したい人にちゃんと権限移譲して、やらせてあげたい、という思いがあります。またグループとしても、IPをたくさん創っていこうという経営戦略があり、それも影響しています。
ちなみに、Brave groupは全体で総合オーディションを実施しているんですが、ゲームが上手い「ぶいすぽっ!」や、歌がとても上手い「RIOT MUSIC」といった既存の枠には入らないけど、すごくポテンシャルがある方が応募されることもあるんです。そういう人を応援したいし、社内でも「事業責任者として挑戦したい」という人が出てくる。そして自分も「ならば新しく立ち上げてもいいんじゃない」って思うんですよね。こんな感じで、いろいろと重なった結果、「受け皿になるようなものを新規で作る」という流れが生まれました。
――手を上げた人に対してちゃんとチャンスを与える社風が大きいと。
野口:特にVTuber事業に関しては、「ぶいすぽっ!」運営のバーチャルエンターテイメントの社長・星にまかせています。「ぶいすぽっ!」にしてもHIMEHINAにしても、基本的には彼らがやりたいことを後方支援するスタンスなんで、「Brave groupとしてこうやれ」とは言わないです。やりたくないことは親会社が引き受けるので、どうぞ事業に集中してください、というスタンスですね。
――スタートアップを巻き込んでグループ会社化しつつ、M&Aもやりつつ、さらに社内のスタートアップも支援するって、なかなか会社の度量がないとできないですよね……。
野口:実際、やりすぎなんじゃないかとは思っていますね(笑)。
――こうした戦略は功を奏しているのでしょうか? 現状で課題などはありますか?
野口:どちらかと言えば功を奏している部分が大きいかなと思いますね。特に人材採用には大きくプラスになっていると思います。
Brave groupっていま、けっこう目立ち始めていると思うんですよね。資金調達もするし、ガンガン新会社作るし、経営統合もやりまくる。「なんなんだあいつら」って思われているかもしれない(笑)。
でも、そうしたモメンタム(勢い)を作り続けることはすごく意識しています。勢いのある会社って、本当にいい人が集まるじゃないですか。
特に、子会社がたくさんあると、そこの取締役や執行役員になれるチャンスがあります。本体1社だけだと、社長は私がやっていて、取締役の数も、執行役員の数も決まっている。だけど子会社があれば、そこの取締役や執行役員になるために、向上心を持って飛び込んできてくれる人がいる。
それから、バーチャルエンターテイメントと経営統合して約1半年が経ちますが、そこから「ぶいすぽっ!」はすさまじく伸びました。それは星が培ってきたプロデューサーとしての力量が大半の要因にはなるものの、Brave groupが親会社として、とにかく「ぶいすぽっ!」を伸ばそう! とサポートしてきたのも大きいです。その成功体験を横展開していきたいので、HIMEHINAやそのほかの新規VTuber事業も、時間をかけながら取り組みたいですね。
――他社とは明確に異なる、対照的なスタンスですね。
野口:もちろん、経営者としては「伸びているところにリソースを集中させる」という判断も十分考えられます。また、今後上場した場合は新規事業展開は難しくなるでしょうから、ならば新規事業をいまやるしかないでしょう、と。
例えばサイバーエージェント社は、広告事業もあればABEMAもあり、Cygamesもありますよね。あのような複数の業種にまたがっての経営が理想的だ、というのが経営陣の中で一致している見解です。
今後、上場に向けてドライな意思決定をしなければならないフェーズが来るのかもしれませんが、今はもう少しチャレンジしましょう、というスタンスです。