ファッションのフロンティアは“バーチャル”で花開く――『Virtual Fashion Collection “Voyage” 2023 Winter.』レポート
企業も本気で応援し取り組むバーチャルファッションの世界
三番目の「cherry neru」は、ここまでから打って変わってリアル寄りの装い『Lottie』からスタートした。
ニットとジャケットを軸に据え、ブーツ、カバン、キャスケットなど、小物までそろい踏み。冬のお出かけに似合いそうな、どこにいても違和感のないコーディネートだ。
直後、一転してランウェイにロマンスが訪れる。「cherry neru」による男女衣装シリーズ『Evening primrose Dress & Suit』だ。
宝石をふんだんにあしらったエレガントなドレスに、プリンスにふさわしい大きなマントが目を引くスーツと、ディズニー映画から出てきたような華やかで、ファンタジーな装いである。
「現実で着ることができない服を着ることができるのもバーチャルの魅力」というコンセプトで作られた、同ショップでも初めての方向性の衣装とのことだ。作り手にとっても、着る人にとっても、バーチャルファッションはリアルの常識にとらわれない世界だ。
そこに続く「Add+Re:collection」からは、現行トレンド「天使界隈」を掲げる『zirai chipmunk』が登場し、大きく流れを変えてきた。
ふわふわで巨大なリスのしっぽがまず目を引きつつ、Y2Kを思わせるスニーカーとレッグウォーマーが足元を引き締め、可愛らしさとトレンドをうまく融合したシルエットを作り出している。
2着目の『AKIBA maid rabbit』では、その方向性をより振り切ってきた。「アキバ萌え」ど真ん中を狙う、ウサギをモチーフにしたメイド服だ。
ウサミミはもちろん、スカートの多層フリルや「絶対領域」など、あざとい可愛らしさをこれでもかと盛り込んでおり、地雷系やコンカフェ衣装などを数多く手掛けてきたこのショップの方向性が色濃く出た新作だ。
4ショップが登場したところで、特別なランウェイが実施された。特別協賛の株式会社往来が関わるプロジェクト『メタバースヨコスカ』より、無料配布中のスカジャンが紹介されたのである。
スカジャン絵師・横地広海知氏が刺繍デザインを手掛け、このあと登場する「EXTENSION CLOTHING」オーナー・アルティメットゆい氏らが3Dモデル化に関わった、ハイクオリティなスカジャンである。男女向けにトータルコーディネート含めて無料配布されるという大盤振る舞いも話題になった一着だ。
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このパートのみ、アクターたちは普段使っているアバターにスカジャンを着せた姿で現れた。無料配布であることや、カジュアルな装いから”普段着”として愛用しやすい特徴を打ち出してきたような印象だ。
往来自体、『Voyage』を第1回開催時から応援してきた企業でもあり、3回目にして同社の関連事業からランウェイを歩く光景が実現した形だ。文脈の交わりと同時に、様々な応援によって支えられているイベントであることを感じさせられた瞬間だった。
続く5ショップ目に登場したのは、なんと現実でセレクトショップを手掛ける「BEAMS」だった。すでに現実のアパレルの3Dモデル化を推し進めている「BEAMS」だが、今回は「VR限定」の新作アイテムを2つ発表した。
1つ目は『レースと手刺繍のセーラー服』。セーラー服のデザインを踏襲しつつ、ボリュームのあるバルーンスリーブに、幾重にも重なるパニエがフェミニンなシルエットを形作る、非常にキュートなマリンルックだ。「BEAMS」のデザイナー・水上路美氏がデザインディレクションを手掛け、バーチャルファッションブランド「Natelier」オーナーのなとり氏との共作で生まれた一着だ。
2つ目では大きな舞台展開がおこなわれ、天井からダンサーとともにブランコに乗って降りてくるという、ド派手な演出とともに現れた『オートクチュールのバーレスクドレス』。
ビジューがまばゆく輝くボディースーツの上から、シルクのオーバースカートを重ねたドレスで、ヴィンテージゴールドの仮面が艶やかさを添えている。『レースと手刺繍のセーラー服』とは対照的に、セクシーでありながら女帝のような威厳も感じさせる。
こちらも「BEAMS」水上氏がデザインディレクションに参加しており、『Voyage』の主催を務めるゆいぴ氏との共作となる一着だ。「BEAMS」は今回、特別協賛としても参画しており、『Voyage』がバーチャルの世界に留まらず、現実のアパレル業界も注目するファッションイベントに成長したということがうかがえるだろう。