「アダストリア」メタバース事業担当者が語る、VR×ファッションの魅力 機会を作ることで生まれるリアルとバーチャルの“双方向性”

「アダストリア」メタバース担当者インタビュー

 「.st(ドットエスティ)」というWEBサイト、アプリをご存知だろうか。「niko and ...」や「グローバルワーク」、「HARE」を始め、30もの人気ブランドを取り扱うファッションECサイトだ。そんな「.st」を運営する会社「アダストリア」がソーシャルVR『VRChat』に進出をしていることを知っている方は意外と少ないのではないだろうか。

 .stは、これまでに『枡花 蒼(ますはな あお)』、『一色 晴(いっしきひより)』といった『VRChat』向けの3Dアバターを手掛けており、それらのアバターを活用した「メタバースファッションコンテスト」なども開催してきた。

 そしてもちろん、.stは3Dアバター向けの洋服も多数展開している。特徴的なのは、販売されている洋服がいずれも「.st」で“実際に販売されている服”をモデルにしていること。つまり、現実の洋服と同じデザインのものが手に入るのだ。

 

 『VRChat』ユーザーの一部には、「リアルクローズ」としてリアル(現実)で着ている服を着るのを好む人がいる。そんな“リアルクローズ好き”にとって、.stが抱える多くのブランドの洋服を、バーチャルでも着ることができるのは非常に魅力的に映るのだ。

 本稿では、.stのメタバースプロジェクトマネージャー島田氏にインタビュー。プラットフォームとして『VRChat』を選んだ理由から、実際に展開してからこれまでで感じた手応えについてお聞きした。(東雲りん)

.st・島田氏

 

ーーまずはじめに、.stが数あるプラットフォームのなかから『VRChat』を選んだ理由を教えてください。

島田:様々なプラットフォームを見ていくなかで、決め手となったのは、『VRChat』ユーザーの間にはアバター改変を始めとする“ファッション文化”がすでに存在していることがあります。また、洋服のクオリティや表現力も他のプラットフォームに比べて圧倒的に高いというのもありました。

ーー.stはこれまで自社アバター・アイテムの展開だけでなくメタバースファッションコンテストの開催、『VRChat』コミュニティとのコラボレーションなど、メタバース事業にたいしてかなり意欲的に取り組んでいらっしゃると思います。事業を担当する島田さんとしては、どういったモチベーションがあるのでしょうか?

島田:私たちは、リアルの世界でファッションが楽しまれているのと同じように、メタバースの世界でもファッションを楽しんでもらえること、そのきっかけを作りたいと思っているんです。

 たとえばリアルで友達と遊ぶとき、遊びに行く場所やシーズンなどその時々に合わせた格好をするじゃないですか。『VRChat』の世界でも同じことが言えて、夏になれば半袖に着替えるし、寒くなってくればアウターを羽織るし、季節やイベントに合わせたお着替えをするんですよね。私たちは洋服を作るだけではなくて、そういった「ファッションを楽しむ機会」を作っていくことも大事にしています。

ーー今年3月に開催されたファッションコンテストでは「リアルクローズ」をテーマにされていましたね。そういった意味では、リアルとメタバースの両方においてファッションを意識する場にもなったと思います。実際に開催してみて手応えはいかがでしたか?

島田:とにかくいろんなクリエイターさんやユーザーさんとつながるきっかけになりましたし、.stのファンになってもらえたので開催してよかったですね。面白かったのが、5月に販売したアイテム「Flower shirt co-ord」は、バーチャルをきっかけにリアルでも同じシャツを購入したという方が多くいらっしゃったんですよ。

 「アバターにシャツを着せてみたらかわいかったから、リアルでも同じものを購入した」とユーザーの方からお声をいただきました。まさかこんなにも早くリアルとバーチャルが連動する日が来るとは思いませんでしたが、私たちの取り組みがリアルでもメタバースでもオシャレを楽しむきっかけになれていたらうれしいです。

ーー「Flower shirt co-ord」のときはリアルとバーチャルで同じ服を着て、「リンクコーデ」として投稿する方もいましたね。「こんなにも早くリアルとバーチャルが連動するとは」とおっしゃられていましたが、そうした連動、掛け合わせは最初から想定していたことだったのでしょうか。

島田:そもそも.stがメタバース事業になぜ乗り出したのかといえば、ユーザーとの接点を増やしたかったからなんですよ。

 会社としては大きく成長したものの、まだまだ.stのことを知らない人は多くいます。メタバース事業で展開する3Dアバターや洋服を通じて、私たちが取り扱っているブランドのことを知ってもらおう、というのが最初の目的だったわけです。

ーー最初は徐々に接点を増やしていこうと思っていたら、思いのほか反響があり、「リンクコーデ」などを通じて実際に購入者が現れたと。まさに大成功ですね。

島田:それまで「リアルではそこまで洋服に興味がなかった」という人が、アバター用のファッションをきっかけにリアルにお店に足を運んでいただいたり、実際に洋服を購入したという声もいただいています。ファッションに詳しくなかったけれど、『VRChat』をきっかけにファッションが楽しくなって、リアルでも新しい洋服に挑戦してみた、という方が、今後も増えてくれたらうれしいですね。

ーーファッションにおいては、リアルからメタバースへの一方通行ではなく、双方向性もあり、より裾野がひろがっていきそうな気配があります。

島田:『VRChat』のアバターで洋服を着替える楽しみを知ったこと、それをきっかけにリアルでも挑戦したり、試してくれたりしているのを見ていると、とてもうれしいですね。アバターの洋服を探すのと同じように.stやお店を訪れて、ファッションを楽しんでいただけたらうれしいです。

ーー最後に、.stとしての今後の展望をお聞かせ願えればと思います。

島田:.stは現在、30以上のブランドを取り扱っていて、メタバース事業でも取り扱うブランドをどんどん増やしていきたいと思っています。まだ取り扱っていないブランドの中には、多くの方に認知していただいているブランドや、特徴的なブランドもありますからね。

 もう1つは、繰り返しお話していることになりますが、やはりファッションを楽しむ機会そのものを増やしていきたいですね。『VRChat』でモデルやアンバサダーとして活動されている方々を起用して、その方々自身に楽しんでもらいながら、ファッションの楽しみ方を広げていってもらいたいですね。

 それから、今はまだお話することはまだできないのですが、様々なことを準備しているところなので、今後も.stの動きを楽しみにしてください。

■関連リンク
「.st」:https://www.dot-st.com/
「.st」(BOOTH):https://dot-st.booth.pm/

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