連載「multi perspective for metaverse」第二回(ゲスト:awai)
メタバースによって接近する“アバターとファッション” DJ RIO × awai(fale)が語り合う
毎回「メタバース×〇〇」をテーマに、様々なエンタメ・カルチャーに造詣の深い相手を招きながら、多面的な視点でメタバースに関する理解を深めていくDJ RIO氏の「multi perspective for metaverse」。
第2回の対談相手はフィジカル、デジタル、バーチャルを越境的に活動するファッションブランド・faleを手掛けるawai氏。
二人の対談から見えてきたメタバース、そしてSNSにもつながるコミュニケーションとしてのファッションの在り方とは。
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■DJ RIO
2005年、慶應義塾大学環境情報学部在籍時代に、複数のスタートアップの創業に参加。事業売却後に大学を卒業し、4人目の正社員としてグリー株式会社に入社。事業責任者兼エンジニアとして、モバイル版GREE、ソーシャルゲーム、スマートフォン向けGREE等の立ち上げを主導した後、2011年から北米事業の立ち上げ。2013年に日本に帰国し、グリー株式会社 取締役に就任する。2014年にゲームスタジオWright Flyer Studiosを立ち上げ(現WFS)代表取締役に就任。2018年にはWright Flyer Live Entertainment(現REALITY)を立ち上げ代表取締役社長に就任。2021年、REALITYを中心とした「メタバース事業」への参入を主導。
■awai
文化ファッション大学院大学/ここのがっこうを卒業後、ファッションブランドやVTuberへ、XRを中心としたデザインとエンジニアリングを提供する事業を開始。XRプラットフォーム「STYLY」を運営するPsychic VR Labにも所属。2021年XR/Web3時代の装いをデザインするファッションブランド「fale」を立ち上げ。
ファッションの「コミュニケーションのためのインターフェイス」としての機能
DJ RIO:この連載の趣旨は、メタバースにおける潮流の中で既存の産業やカルチャーがどんな影響を受けるのか、またどんな新しいものが生まれていくのかを、各分野で活躍されている人に伺っていく、一緒に考えていくというものです。
awaiさんはAR分野における衣装制作やバーチャルファッションショーのイベントを企画するなど、さまざまな取り組みをされていますよね。
awai:そうですね。「XR×ファッション」の領域において「新しいファッションデザインって何だろう、そのファッションデザインによって人の生き方がどう変わっていくんだろう」ということを考えながらコンテンツを作っています。
もともとは東京文化服装学院という専門学校と大学院で、文化面でのファッションについての考え方やコンセプトの作り方を勉強していました。
その後XRというテクノロジーに出会ったんですが、「新しいファッションを表現できる、そういうツールになるな」と思いました。ファッションデザインの領域では、「人間の形」が変わらないためまったく新しいものはなかなか出てこず、過去のリミックスがもうずっとメインになっているので、「新しい人間像やファッションデザインとは何だろう」と考えたときに、XRの世界では肉体から解き放たれたアバターを使って、身体の形をも変えて人間じゃないものになれるところまで領域が広がっていくことに気づいて。そしてARで使えるようになった技術が、現実に染み出していくと考えて、さまざまな取り組みをするなかで現在に至ります。
DJ RIO:メタバースとアバターは切っても切り離せない存在で、そこには当然ファッションの領域が創出できる。今後、メタバース領域でファッション、あるいは「どういう自分に見られたいか」ということをどのようにコントロールしていくようになるのか、お話できればなと思っています。
ーーawaiさんから見てDJ RIOさんの事業や活動はどのように見えていますか?
awai:REALITYについてはもちろん知ってます。そのCEOの方がアバターで活動しているのはものすごい説得力があると思ったのが第一印象です。
そういったサービスにおいて、運営している人とユーザーさんとの距離感が重要ですが、普通はCEOの方が何を考えているのかなんて、一般のユーザーさんからはよく分からないじゃないですか。けれど、DJ RIOさんというアバターの姿があることによって、ユーザーさんとのコミュニケーションがよりスムーズになるんじゃないかなと。ファッションにおいても「コミュニケーションのためのインターフェイス」という考え方があるので、ファッション的にもアバターとしての機能をすごい活かされているんだなと勝手に思ってました。
DJ RIO:いまご指摘をいただいたとおり、ファッションあるいはアバター、「自分の見た目を自分でコントロールすること」って「自分はどこに属している人なのか」というメッセージを打ち出す側面がすごく強いと思っているんですよ。
たとえば、僕のアバターを見せれば「メタバースやアバター世界の住民なんですよ」ということが口で言わなくても伝わる。日本のアニメ的な絵柄であれば、いわゆるアニメカルチャーとかそういうカルチャーに属している人なんだなとわかると思うんです。
リアルのファッションでも同じだと思っていて、例えばストリートファッションとか特定のブランドのわかりやすいロゴの入った服を着る人は「自分はこのブランドが好きなんだ」「このブランドを好む人のコミュニティの一員なんだ」という意識で着ている。
スケーターやヒップホップ系のファッション、あとはゴスロリ系のファッションのように、一目で見て「この人はこのコミュニティ、このカルチャーの一員なんだ」とわかるタイプの服には、自分の帰属を明らかにする機能がありますよね。
自分と同じコミュニティに所属しているとわかると、やはり話しやすかったり同族意識を持てるところもある。もちろん僕は好きでこういうアバターで活動していますけど、「なりたい自分で生きていく」とうたうアバターコミュニティを運営するからには、自分もユーザーさんたちと同じような目線で同じようなコミュニケーションができるように意識して、アバターを纏っていると言うこともできます。まあ後付けですけど。
ラグジュアリーブランドのデジタル領域での展開
ーー現実世界からメタバースに参入する企業も増えていますが、ファッションの世界ではそのような動きはありますか?
DJ RIO:僕はVRやARが普及していくと、ファッション産業がアバター産業と近づいていくと思っています。その辺について、awaiさんから見たお話をぜひ聞きたいですね。
awai:既存のファッション業界、現実に洋服を作っている人たちの業界は、ある種「危ない」んじゃないかと数年前から思っています。いま、アバターを作る技術を持っているのはCGデザイナーやゲーム業界の人が多いと思うんですが、ファッション業界におけるアバターの需要が高まれば高まるほど、既存のファッション業界には作り手がいないことで、厳しくなってくるところはありますよね。
テクノロジー業界からデジタルネイティブというか、アバターネイティブのファッションデザイナーがどんどん出てくるようになっている。ファッション業界の人は参入しようと思ってもスキルセットが全然違うので難しい。ゲームを経験していない、デジタルならではのデザインの手法をわかっていない人にとっては、逆境になってくるとは思っています。
DJ RIO:そこに関してはすでにアプローチが出始めていて、つい昨年末、ナイキがRTFKT(アーティファクト)というNFTのデジタルスニーカーを作る会社を買収したんです。
フィジカルのブランドやコミュニティを築いているファッションブランドが、メタバースで同じような地位を維持するためには、そういうデジタル空間上のファッションブランドとか、デジタルアパレルクリエイターたちを買収して取り込んでいく必要があるということですね。
これはフィジカル/デジタルほどの大きな差ではないものの、過去10年においてラグジュアリーブランドがストリートファッションを取り込んできた歴史と似ている部分がある。
10年前だったら想像できなかったと思うんですけど、ストリートファッションの盛り上がりと、特に中華系の新興富裕層の台頭によって、ラグジュアリーストリートファッションという業界が生まれたわけで。
全体の消費に占めるストリートウェアの比重が高まっていった結果、昔からのトラディショナルなハイブランド、シャネルもグッチもルイ・ヴィトンもみんな、そこを取り込まざるを得なくなった。新興ストリートブランドを買収したり、ストリートのカリスマデザイナーを引き抜いて自社のクリエイティブディレクターに据えたりして、ストリートファッションも取り込んでいる。それと同じようなことがデジタル領域においても起こるんじゃないかと思いますね。
ーーハイブランドがゲームとコラボしてゲーム内でスキンを、現実でファッションアイテムを販売する事例がありますね。
DJ RIO:『Fortnite』とバレンシアガのコラボも2〜30億円の売上を記録していましたね。
awai:そういった施策については、資本力がある「ラグジュアリーブランド」と呼ばれるところじゃないとできないことなので、それ以外のブランドがどうしていくのか、という部分には課題があると思います。