歌広場淳×どぐら“古参格ゲーマー”対談 時代が求める「理想のプロゲーマー像」とは?

歌広場淳×どぐら“古参格ゲーマー”対談

「 どぐらさんこそが、僕の思う“理想のプロゲーマー”」(歌広場)

歌広場淳:今年1年、いろいろな大会やイベントを観戦していて思いましたけど、どぐらさんが絡む試合は毎回盛り上がりますよね。

どぐら:『CRカップ』とか、第1回では大将挑戦戦で関(優太)さんに負け、第2回ではささ(sasatikk)さんに負け、と本当に意図せずそういう感じになっちゃいましたけど(苦笑)。

 まさに「1先(1試合先取形式)では何が起きるかわからない」を体現してくれたのが、敵ながらあっぱれでしたね。ホンマに、自分としては超真剣に勝とうとしていたのに……。

歌広場淳:当然そうですよね。ただ、「1先はなにかが起こる」ってみんな言うけれど、本当になにかが起きてしまったことって滅多になかったと思うんです。あの事件は、格ゲーの歴史の教科書に間違いなく載りますよね。

 それで、落としてから持ち上げるわけじゃないですけど、そういう“持ってる”部分も含めて、どぐらさんって僕が理想に思うプロゲーマー像にピッタリの人だと思っていまして。

どぐら:えっ、ホンマですか?

歌広場淳:ウソじゃないですよ! どぐらさんって、「プロゲーマーの仕事とはなにか?」という問いに対して明確に回答できている人だと感じるんです。

 要はプロゲーマーの仕事って「自分がプレイしているゲームを人に好きになってもらうこと」「ゲームを通して自分を好きになってもらうこと」であると、勝手ながら考えていて。

どぐら:究極的にはそうだと思います。僕も同じ意見ですね。

歌広場淳:その点で言えば、やっぱり「どぐらさんがいるあのチームを応援しよう」と、多くの人が集まる流れが生まれていると感じますし。それがひいては『スト6』の大会を観戦する理由だったり、『スト6』を遊んでみる理由だったりにつながっていくわけですから。

 今年度の『ストリートファイターリーグ』(SFL)を通して見ていても、どぐらさんが所属するCAGは、とくに多くの方が応援に熱を上げていたように思います。視聴者による毎試合の勝敗予想も、だいたいCAGが優勢になっていましたからね。

どぐら:いや、本当にありがたいことで。それだけに、プレイオフ進出を逃した悔しさも大きいんですが……。僕らCAGは、2nd STAGEの最終節で魚群と対戦することになったんですよね。

 細かいポイントの勘定を抜きにすると、勝ったほうがプレイオフ進出という勝負でしたが、対戦前に魚群の裏方を務めているコサクから「両者生存ルートがあったらよかったのに」と言われて。

歌広場淳:彼としては、当然ながら魚群を応援する立場ではあるんだけれども、リーグの盛り上がりとかを考えるとCAGにも残ってもらいたいってことですよね。いや、わかるなぁ。その気持ち……。

 それって、格闘ゲームが“eスポーツ”になり、“eスポーツ”という存在が多くの人のものになったことの証明なんだと思います。

 サッカーでも野球でも、“日本代表が試合するときだけ応援する人”のような、いわゆる“にわかファン”を揶揄する風潮があったじゃないですか。昨今、ラグビー日本代表が“にわかファン”を取り込むことの重要性を説いて話題になりましたけど、僕もそのとおりだって思うんですよね。

どぐら:ホント、そうですよね。

歌広場淳:シンプルに、「どぐらさんがいるからCAGが好きなんだ」と。「GO1さんが、フェン様(フェンリっち)が、かずのこさんがいるから」を理由に、CAGに活躍してほしいと応援する。それってすごく大きいこと、価値あることだと感じました。

どぐら:僕らの場合、メンバーで集まっての練習配信を積極的にやっていたことも大きかったのかなと。メンバー同士がどういう関係性なのかや、それぞれどんな接し方をしているのかを配信を通して伝えていけたことで、“CAG箱推し”みたいな形で応援してくれる人も増えたと思います。

歌広場淳:そうそう。物理的に“CAGに触れる”時間をたくさん提供してくれましたよね。練習配信って、ほかのチームに戦略がバレてしまうリスクもあるし、勝つことだけを考えたらデメリットも多いと思うんですけど、そういったファンサービスもやってこそのプロだよなと、僕も感銘を受けました。

どぐら:僕らは僕らで、練習配信をやったほうがいいと判断したからやったことであって、ほかのチームに強要するようなことではないんですが、「やってよかった」と思うことはたくさんありましたね。

「 我々“格ゲー勢”が、どれだけ“方言”で喋っていたかを思い知った」(どぐら)

歌広場淳:『CRカップ』などを通じて、VTuberさんと共演する機会も増えてきたと思うんですが、そういった格闘ゲーム界隈の外の方々と接したことでの新たな発見などはありましたか?

どぐら:いちばんに感じたのは、「我々って、ふだんはものすごく局所的にしか伝わらない“方言”で喋っていたんだな」ってことですね。

歌広場淳:方言、要は“格ゲー用語”ってことですよね。とうとう気付きました?(笑)。

どぐら:はい、そりゃあもう身にしみて……。

歌広場淳:僕はわりと前から気付いていました。僕らの会話って、格ゲー勢にしか通じないスラングまみれだったんですよ。

どぐら:そうそう。外の人たちからしたら「『ジャングルの王者ターちゃん』に出てくるウポポ族かよ」って思われていてもおかしくない(笑)。

 本当に、自分たちがどれだけ狭いコミュニティで、内輪ノリで安寧としてきたかを思い知ったというか。

歌広場淳:しかも、それでいて僕ら格ゲー勢は「誰でもウェルカムだよ!」と対外的にはアピールできているつもりでいましたからね。

どぐら:思ってた、思ってた! その実、新規参入者を遠ざけているのは我々でした。「みんな、格ゲー村は楽しいところだからおいで」と口では言っておきながら、いざ村に足を踏み入れてみたら、わけのわからん言語で書かれた回覧板が回ってくるみたいな構図になってましたからね。

歌広場淳:僕もヴィジュアル系をやっている手前、そういった用語とか、共通言語を介したコミュニケーションの面白さはよく理解できるところなんですけれども。

 たとえば、“咲く”とか。メンバーに向かって両手を広げる動作のことなんですけど。あと、“柵ダイ”とかですね。これは柵前でする“逆ダイ”のことを指していたりして……。

どぐら:ああ、なんか「最前で咲いてた」みたいな用語は僕も聞いたことありますね。

歌広場淳:いや、どぐらさん。「最前」の発音が違いますよ。正確には、「最↑前↓で咲いてた」なんですよ。

どぐら:えっ、そうなんや!

歌広場淳:界隈の外の人が聞いたら、全然意味がわからないですよね(笑)。ゴールデンボンバーは、むしろそういった“わかる人にしかわからない面白さ”に早くから気付いていて、意識的に取り入れていたんですけれど……。

 そうした、異文化交流ないしカルチャーショックを受けるような経験が、どぐらさんの日常のいろいろなところで起きているわけですね。

どぐら:そうですね。だから、VTuberの方々としゃべるときにはできるだけ一般的な言葉で喋ろうとするんですけど、“格ゲー用語”を使わないとどうしてもニュアンスが伝わらないなというときには、先に用語の意味から説明して……と、前置きが長くなっちゃったりとかして。

歌広場淳:いまこそ、あらためて“格ゲー用語辞典”が求められる時代になってきましたね。逆に僕は、最近になって“VTuber用語”に興味が出てきたりもしています。

 だって僕ら格ゲー勢からすると、「隆盛を極める隣国の王子様・お姫様たちが、格ゲー村に遊びに来てくれた!」みたいなことが毎日のように起きているわけじゃないですか。

どぐら:我々も、これを機に隣国についての研究や理解を深めるべきだと。

歌広場淳:そうそう。僕も最近になって、VTuberにおける“ママ”が何を指すかを知りましたもん。どぐらさん、わかります?

どぐら:わかりますよ! デザインしてくれたイラストレーターさんのことを「ママ」って言うんですよね。

歌広場淳:さすが、やっぱりどぐらさんは僕らの一歩先を進んでますね。“VTuber用語”だと「くしゃみ助かる」とかもおもしろいですよね。ふだんとちょっと違う声が聞けてかわいかった、みたいな。

 僕はまだVTuberさんとそこまで絡んだことがないですし、今後もそういった機会があるかは全然わからないんですけど、興味を持って自分から調べるってことは大切だなと思いました。

 きっと、どぐらさんは今後、『スト6』ブームにある種、乗っかろうとする芸能人の方と接する機会も増えていくんじゃないですか?

どぐら:言いかたがよくないっす(笑)。でも、僕としては「『スト6』が流行っているみたいだし、美味しそうだからあやかりたいな」って動機でもまったくなんとも思わないし、理由がどうあれ触ってくれるならうれしいし、「必要とあらば全力で応援するので、言ってください」ってスタンスですね。

歌広場淳:わかります。もうやってくれるならスタートなんてどうだっていいし、なんだったら始めてくれなくても興味を持ってもらえただけでありがたいって感じですよね。

どぐら:そうなんですよ。これは僕の勝手な印象なんですが、格闘ゲームってとくに「本当に好きじゃないやつが、好きっぽく振る舞うな」みたいな風潮が強い気がしていて。

歌広場淳:ああ、ありますよね。そういう雰囲気。

どぐら:そういう考え方が、僕は理解できないんです。人間なんだから、流行を取り入れたいと思ったり、自分にもメリットがありそうなものをやってみたいと思ったりすることって、自然なことじゃないですか。

 「この人は格ゲーを本気で好きじゃないし、どうせちゃんとやらんやろ」なんて、言ったその人の主観の決めつけでしかないし、誰ひとりとして幸せにならない言葉だと思います。

歌広場淳:それこそゲームセンター流に言えば、「100円を入れた者はみな平等」ってことですよね。筐体に100円を入れたら、誰にだって遊ぶ権利があるわけですから。小学生だろうと、ヤンキーだろうと、サラリーマンだろうと。

どぐら:そのとおり! そこが格闘ゲームのいいところですよね。

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