帰ってきた観客たちの受容は変化し、パフォーマンス・アクトは密教化するーーhuez代表・としくにが語るコロナ禍を経た"ライブ演出”の現在地

huezに聞く、コロナ後"ライブ演出”の現在地

 テクノロジーの進化に伴い発展するライブ演出。この潮流のなかで特異な存在感を示すのが、「フレームの変更」をコンセプトに掲げる空間演出ユニット・huez(ヒューズ)だ。ライブ演出における“ヴィジュアル”と “光”の専門家が集まるユニットで、アーティストの物語に寄り添った演出を得意とする。

 本連載「3.5次元のライブ演出」ではhuezのメンバーを迎え、具体的な演出事例を交えながらその視座を伺う。第8回となる今回は2022年から2023年、コロナ禍において目まぐるしく変化したライブ・パフォーマンスをめぐる情勢とその中で活動するアーティストの状況、これから予想される変化の潮流などについて、huez代表のとしくに氏に語っていただいた。(白石倖介)

ライブシーンにおける制限が大きく緩和した2023年

ーー2022年から2023年の6月に至るなかで、ライブハウスやステージ・アクトを巡る状況は大きく変化しました。現在は新型コロナウイルス(COVID-19)が5類感染症に分類され、ライブの動員も制限が緩和されました。huezさんはこの1年を振り返って、どのような印象をお持ちですか。

としくに:2022年の前半はコロナ禍の真っ只中で、huezとしてはそうした「制限下のライブ・フォーマットに慣れ始めた」という状況でしたね。お客さんは声が出せず、客席の規制は多少緩和されたにせよ緊張感を持って対応する時期で、僕らの業界で特に影響を受けた音響・照明さんやイベント制作さんもこうした対応に慣れ始め、非日常が定常になる、日常の一部になっている、という感覚がありました。

 また、業界のトレンドとして「バーチャルライブ」や「XRライブ」のような配信コンテンツが2020年のコロナ禍の初めに大きく注目され、その後も伸び続けていましたが、当初の急激な右肩上がりは2022年の前半には収まり出した印象があります。

ーー前回連載は2022年5月ごろに取材しましたが、当時は配信ライブで変わり種の演出を仕掛ける事例もありつつ、「配信のフォーマット自体に観客が飽き始めている」というお話も伺いました。

としくに:2020年を契機にした「配信ライブで変なことをしよう」という取り組みは適度に盛り上がったと思いますが、こうした潮流の中で発展した技術はその後MV、つまりライブではなく映像の進化に向かっていきました。2022年にはもうオフラインでのライブが復活し始めていて、グリーンバックを使った実写合成などの“ワザ”はMVに活用され始めたんですね。2020年にhuezがでんぱ組.incのライブ演出でおこなった「Zoom」風のフレームでライブを見せていくような取り組みを配信ライブの演出で観ることは減り、フォーマットがどんどん落ち着いて、一般的な、複数台のカメラをスイッチングして見せる、歌詞やタイトルが出てくる程度のライブに収まっていきました。

ーーそして今年、2023年の5月には新型コロナウイルスが5類感染症に移行し、ライブパフォーマンスにおける制限も緩和されました。

としくに:5類感染症への移行によって事実上、季節性インフルエンザと同じ扱いになりました。コロナ禍の間に変化した生活様式のなかで、ライブに関わる部分でいまも残っているのは多分マスクの着用ぐらいで、ライブシーン全体としてはおおむね元に戻ったんじゃないかと思います。じつは3〜4月の段階ですでにいろんな規制緩和があって、声出しとかもできる現場がちらほら出てきていたんですけど、お客さんはまだおっかなびっくりでした。「本当に声出していいのかな」みたいな。

 僕は最近趣味の活動でステージに立っていて、自分が出演するライブハウスでファンの人と交流しているんですが、そこで聞いてなるほどと思ったのは「ファンとしてはもちろん声を出したい、アーティストにも声を出してほしい。でも自分が盛り上がったことで、それがSNSで拡散して迷惑をかけたら嫌だ」という意見でした。だから、いまもある程度継続して「声出していいんだよ」っていうことを言っていかないと、ファンの人は「足を引っ張りたくない」というような気持ちで萎縮しちゃうのかなと。

ーー自分の振る舞いが“炎上”してしまうことで、アーティストに迷惑をかけたくないという心情ですよね。すこし脱線しますが、コロナ禍においては“炎上”の過激さが増したようにも感じます。アーティストやファンの立場に限らず、「SNSで公にできることとそのリスク」について考える時間が増えている実感もあります。

としくに:メンバーシップとかファンクラブのようなコンテンツが流行るのも、そうした理由からでしょう。ファンクラブにしか向けていない秘匿されたコンテンツを筆頭に、公共の電波に乗らないコンテンツが「密教化」したように思います。コロナ禍以前はありとあらゆるものがオープンで、「どこでも誰でも見れますモード」だったと思うんですが、こうした状況では物議を醸すコンテンツや過激なものが叩かれ始める。多分、インターネットがあらゆるものを拡散しすぎて、届く必要のない人にも届いてしまい始めたんですよね。だからこれからは「閉じながら広げていく」ことが大事になるんだろうと思っています。

密教化していくファンクラブの強さと限界

ーーhuezはライブ演出を手掛けるユニットであり、そのマネジメントである渋都市株式会社にはアーティスト・マネジメントの実績もあります。2019年末から現在に至るまでのコロナ禍において、多くのアーティストが活動を休止、終了しましたが、こうした状況について、いずれの視点からもお話を伺いたいです。

としくに:いなくなってしまったグループやアーティストはたくさんいますが、個人的にはシビアに捉えています。コロナ禍を原因としてアーティストや芸人さんーーようはエンタメ業界の方々がたくさん引退したと思うんですが、そもそも僕はコロナ禍以前から「増えすぎだろう」と思っていました。今はYouTubeやTikTokで誰でも発信できる時代だから、箱の数や場所に対してプレイヤーの数がどんどん増えている。で、プレイヤーの数が増えるということは、マネジメントとか裏方の人も同じように増えないといけないんだけれど、実情として全然足りていなかったし、資質に問題のある人間が裏方に居たり、それにまつわる事件も事故もたくさん起きた。だから、あえてすごく嫌な言い方をすれば「淘汰された」部分があると思っています。なので逆にいうと、この期間を何とか乗り越えられたマネジメントってすごい優秀だと思うんです。箱を借りたらそもそも赤字になるような状況で、国の助成金を申請するのも大変だったし、そういうことをできた人たちだけが生き残ったという考え方です。

 ただ、コロナ禍以前から活動していたアーティストさんにとっては当然苦しい状況があったと思います。突然、今までやっていたライブとまったく違うライブをしなきゃいけないわけですよ。モッシュとか歓声がいきなり無くなって、クラシックの公演会を聞くような観客に向かってライブをすることになって……お客さんと同じようにアーティストも辛かったはずです。

 こうした方々の活動がコロナ禍で立ち行かなくなったことはとても残念で、なかにはhuezが携わった人もいるからなおさら思いますけど、一方でコロナ禍にアーティストが事務所をやめて独立するようなこともたくさん起きていて、そういう意味だと「覚悟」を問われるような状況が目の前に生まれた結果、“破壊”がたくさん起きたのだなと。

ーーいい面も見えつつ、基本的にはストレートに打撃を受けた、というのは間違いないですよね。

としくに:ただただ、みんなで大怪我をしましたよね。ただ、huezは元々2019年くらい、コロナ禍の直前ぐらいからメンバーのYAVAOが「XRのバーチャルライブがやりたい、どうしてもやりたい」っていうのをずっと言っていて、これがたまたまコロナ禍にハマってうまく仕事に繋がったという流れがありました。

 ライブ・エンタメ業界としてはバーチャルライブが発展して、お客さんにも認知されたことは、ひとつのうまくいった事例だと思います。だからもしかしたら、この時期にバーチャルシンガーやVTuberに転向した人も多いのかもしれない。あと、さっきの話に対してコロナ禍から活動を始めたアーティストさんはむしろ楽しそうですよね。お客さんの声援を受けないライブを重ねてきて、いきなり「声出しOK」になったわけですから。「お客さんの声が自分の中に入ってくる」みたいな感動があるみたいで、すごく高いモチベーションで活動を続けている人も居ます。

 あとは、2019年ぐらいからある流れでしたが、事務所から独立する方がとても増えましたね。僕はノリで独立して1人で会社をやって、今年で8年目になりますが、色んな人から「会社ってどうやるの」みたいな相談を受けることがとても増えています。「これからは自分たちで手綱を引いてやっていくぞ」みたいなパワーがある。これは数年前のインタビューでも話したことなんですが、huezの仕事が増えた理由が、「この規模感のライブの演出を、誰に頼んでいいのか誰もわかっていなかったから」なんですよ。同じように、若い人たちが理解している文化、SNSとかは特にそうだと思うんですけど、そのトレンドが理解できてないマネジメント会社から離れたいというパワーも相まって、独立する方々がすごい増えている。

ーー旧来型のマネジメントを若い人たちが見限ったような形でしょうか。

としくに:でも、マネジメントする方も大変ですよね。いまはアイドルなのかアイドルじゃないのか、芸人なのかYouTuberなのか、コンカフェ嬢はアイドルなのか? みたいな、活動の線引きが不可能な時代で、会社が時代のトレンドに追いつけない。ただ、だからこそ大手のマネジメント会社は昔からある大事なこと、それこそ著作権を守るとか、誹謗中傷を防ぐなどのことを徹底した方がいいように思います。実際、その流れも感じますしね。

ーーまとめると、カテゴリ分け不可能な個人が、その魅力をファンに向けて限定的に発信する時代だからこそ、貪欲なプレイヤーは独立して一人でやっていくし、ファンたちの「好きなものだけを受容する」というスタイルの向かう先として文化自体も「密教化」していくと。

としくに:でもね、活動している本人は「Zeppを埋めたい」と思っていたりするんです。そしてそれは“密教のまま”では無理なんですよね。「活動を続けること」、「活動で食っていくこと」はできるかもしれない。でも密教化した狭い世界のファンと活動することが、自分の夢と合致していない場合は少し苦しいと思います。

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