ここ数年で起きた“3つの動き”から見る「VTuberシーンの成熟化」 運営会社の統合や誹謗中傷への対処など、将来を見据えた整備が進む

VTuberシーン成熟化 "3つの動き"

 昨年12月、筆者を含む4人のVTuber有識者たちが参加した、前後編にわたる座談会企画があった。この企画のなかで、「VTuberのタレント化」について話すタイミングがあった。

VTuberのタレント化&マルチプラットフォーム化が進んだ1年と、その先にあるものーー有識者たちによる座談会企画(前編)

2022年はMeta社(旧:Facebook社)が大々的に掲げた「メタバース」という概念の浸透を含め、あらゆる人にとってバーチャ…

 今回の記事では、ここ数年のVTuberシーンを引っ張ってきた事務所・グループにフォーカスし、変容し続けるシーンのなかでVTuber事務所がどのように運営体制・姿勢を変えてきたのかについて記していこう。

 先述した座談会企画のなかで、にじさんじ・ホロライブといった大手の事務所に所属しているメンバーが、PR・広告塔の役割を持つインフルエンサーとしての側面を求められつつも、そういった側面に大きく頼ることなく活動している、という点が話題に挙がった。

 「VTuberが商品をPR・紹介する立場にある」というと、普段彼らの配信を見ているファンはナチュラルに受け取れるかもしれないが、そもそも配信文化やVTuberのシーンを知らない人からすれば驚きであろう。「YouTubeのインフルエンサーに商品を紹介してもらう、ましてやアニメキャラクタールックな存在がPRして売れるのか?」と訝しがる方もいるはずだ。

 実際には大きな販促効果が見込めるほど多くのファンが、VTuberシーンには集まり始めている。

 シーンを引っ張っているにじさんじ・ホロライブの二大事務所に関しては、コロナ禍が落ち着き始めた2021年夏~秋以降、リアル会場を使ったイベントが増え始めており、幕張メッセ・ぴあアリーナMMなど大型の会場を使用した1万人以上の規模のイベントも成功させている。

 なかでも『hololive 3rd fes. Link Your Wish Supported By ヴァイスシュヴァルツ』や『にじさんじフェス2022』は、音楽シーンにおける人気アーティストのアリーナ公演や、一握りの大人気ゲーム・アニメ作品が開催できる大型イベントなどと比較しても、見劣りしないレベルのイベントであった。

 拡大の一途を辿るシーンには、まだ知られていないクローズながらも熱量あるファンダムがそこにあるのだ。

Documentary of NIJIFES'22 #にじフェス2022

 そんなにじさんじ・ホロライブに続くVTuber~バーチャルタレントグループとして注目されているのが、e-Sportsシーンとも親和性が高い「ぶいすぽっ!(Virtual eSports Project)」だ。

 コロナ禍におけるインドア生活・巣ごもり需要の影響で、オンラインゲームの人気が一気に高まり、なかでも『Apex Legends』『VALORANT』といったFPS(一人称視点)ジャンルのゲームは若い世代に注目される人気のゲームとなった。

 それと同時期に、『CRカップ』などFPSをプレイするVTuber・YouTuber・ストリーマーらを中心に据えたカジュアルなゲーム大会が続々とスタートした。各種大会がYouTubeやTwitchなどを通して配信されると、当然のように大きく注目を集めはじめた。

 さらに競技プロのシーンでは『VALORANT』でZETA DIVISION、『Apex Legends』でFNATICと、日本チームがそれぞれ世界大会で好成績を納めたことも絡み、スポーツ観戦的な楽しみ方が一気に浸透することにつながった。

 一ノ瀬うるは、胡桃のあ、橘ひなのを始めとしたぶいすぽっ!所属メンバーたちは、各々がFPSジャンルを得意としており、『CRカップ』などのカジュアル大会で腕前を発揮すると徐々に注目を集め始めた。そのうえで、普段個人で行う配信でもエンタメ性の高い配信をつぎつぎと届け、若い世代を中心に支持を集めている。

 こうした影響もあり、2022年夏には「神田明神納涼祭り」と「ぶいすぽっ!」のコラボレーションイベントを開催すると多くのファンを集め、同年冬にはコミックマーケット101に「ぶいすぽっ!」ブースが初出展を果たした。2022年12月時点でグループ全体のYouTubeチャンネルの合計登録者数は500万人を超え、いまやホロライブやにじさんじに次ぐ国内第3位にまで上り詰めている。

 そういったなかで2022年年末には、ぶいすぽっ!の運営会社であった株式会社バーチャルエンターテイメント、女性バーチャルアイドルグループ「Palette Project」を運営していたMateReal株式会社が、株式会社Brave groupとのM&Aにより経営統合された。

 これにより、Brave groupの会社組織内に「ぶいすぽっ!」「Palette Project」「RIOT MUSIC」と、Brave groupの子会社である株式会社クリエイトリングが運営する「あおぎり高校」を加えた4つのVTuber・バーチャルタレントグループが存在することになった。

 その後、2023年1月16日にBrave groupとゲオホールディングス傘下の株式会社viviONの業務提携が発表、「あおぎり高校」はviviONへと移籍することがアナウンスされた。

 viviONは同人作品、ゲーム、コミックを販売している国内最大級のダウンロードショップ「DLsite」を運営していることもあり、今回の移籍は「あおぎり高校」が今後より大きな活動をしていく上での判断だったという。

〈出典:viviON、株式会社Brave groupとの業務提携を実施。VTuberグループ「あおぎり高校」がviviONに移籍。

 「あおぎり高校」の運営に携わっている運営スタッフ4名もともに移籍を果たすとのこと。「YouTube Shorts」への取り組み強化などが発表されており、基本的な活動内容に大きな変更は無いものと考えられる。

【重大発表】脱退します…

 最終的に、Brave group内には「ぶいすぽっ!」「Palette Project」「RIOT MUSIC」の3つのグループが残り、同社傘下のもとそれぞれの運営会社によって運営されている状況だ。

 ベンチャー企業同士のM&Aと企業統合、企業者によるフロンティアマインドが、このVTuber・バーチャルタレントシーンを裏で支える原動力になっている。

 2022年6月8日に、にじさんじを運営しているANYCOLOR社が東京証券取引所グロース市場に新規上場したことも含めて、シーン全体が今もまだ右肩上がりに成長中であることがうかがい知れるだろう。

 勘違いしてはいけないが、まだVTuberやバーチャルタレントが世に登場してから5年〜6年ほどの年月しか経過していない。いまだ前人未到の未開拓地を歩いている真っ最中なのである。見極めが難しい趨勢と未来だからこそ、各運営会社は方針を考え直し、それぞれが体制を整え始めているのだ。

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