ここ数年で起きた“3つの動き”から見る「VTuberシーンの成熟化」 運営会社の統合や誹謗中傷への対処など、将来を見据えた整備が進む

VTuberシーン成熟化 "3つの動き"

 運営会社の体制づくりや、所属タレントが起こしたいアクション、そしてそれがシーンに対してどう影響するのか。それらのバランスをうまく取ることで、今後より大きな波になりそうな準備が各会社で着々と進んでいる。

 その準備は「事務所がVTuber〜バーチャルタレントをどのようにして採用するか?」という点にも及ぶ。そもそも、書類選考などを通じた一般企業的な面接だけで大丈夫なのか?という視点だ。

 にじさんじでは2021年6月18日から「バーチャル・タレント・アカデミー・オーディション」と銘打った独自の育成事業を始めている。

 ライブ配信についてだけでなく、歌やダンスのレッスンを受けることができ、入学に際しての入学料・受講料がかからないという。

〈出典:バーチャル・タレント・アカデミー・オーディション

 ひとつ記しておきたいのは、バーチャル・タレント・アカデミーはにじさんじからデビューする窓口ではあるものの、晴れてアカデミーに入学してもエレベーター式にそのままデビューが決まっているわけではないという点だ。

 オーディションからいきなり活動をスタートしても、活動内容との大きな違いを感じてしまった結果、デビューして半年もしないうちに引退してしまうかもしれない。運営スタッフ・演者ともに混乱を招いてしまうし、リスナーやファンも大いに戸惑ってしまう。

 そういった混乱を事前に無くしつつ、事前段階から学びの時間・場所を設けるアカデミー制度は、事務所・本人ともに想定と実際の活動への乖離が無い状態で活動をスタートできる点で、かなり有用なように感じられる。

 現在バーチャル・タレント・アカデミーには2期生と3期生を合わせて23名のアカデミー生が所属しており、4期生オーディションも受付を締め切り、選考が進んでいる状態だ。しかし、この23名+αがにじさんじから全員デビューするとは限らず、まったく別の道を選ぶアカデミー生が出てきても不思議ではないと感じている。

 「にじさんじに所属してデビューを果たせる」ことが一番のメリットとして考えられていそうだが、筆者としては、生配信・ダンス・歌などのスキルを無料で学べるというだけでも、YouTuberを含めた何かしらのタレント活動を志す人にとって大きなプラスになると考えている。エンターテイメントシーンへの還元という意味でも、今後大きな影響力を誇りそうだ。

 2023年1月からはぶいすぽっ!においても、独自の研究生制度のスタートがアナウンスされた。

 以前まではオーディションへ応募してから面接を受け、メンバーとして採用されれば活動がスタートしていた。この研究員制度はその流れとは異なり、「ぶいすぽっ!のメンバーとしてデビューできるまで、一個人の配信者として活動し、そのサポートをする」というものだ。

 一般のファンには「どの配信者がぶいすぽ研究生なのか」ということは明かされておらず、すでに活動がスタートしている研究生もいるという。現所属メンバーですらも、「具体的な事情はあまり知らない」と配信中に口にしていたのが印象的である。

 名前・所属を明らかにしたうえで日々の活動を見てもらう方式のにじさんじのバーチャル・タレント・アカデミーと、あくまで一個人の配信者として粛々と経験やスキルを磨いていく方式のぶいすぽっ!の研究生制度。似たような制度に思えるが、その流れはまったく別々だ。

 VTuber〜バーチャルタレント事務所と近しいところでいえば、YouTuberやTikTokerなど動画・配信で活躍するタレントを主にした事務所や、テレビや芸能の世界で活躍する一般的な芸能事務所などが競合相手になるだろう。両事務所ともに未来への先行投資・人材の確保という点で、ユニークかつ有効な手を打った恰好だ。

 育成システムが生まれ、順調に運営されているということはシーンの整理・拡大・成熟を感じられる動きとして特筆すべき変化だろう。

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