連載「Studio Bump presented by SMP」(第三回)
丸谷マナブ × 中村泰輔の“音楽制作論” リトグリなど“同一アーティストへの複数曲提供”によって変化するクリエイティブ
「長くやらせてもらえるとストーリーを曲の中に入れられる」
――いま、Little Glee Monsterのお話も出ましたが、何度も同じアーティストに楽曲提供をして関わる機会がありますよね。そうすると、そのアーティストの見え方や、自分がアーティストにどういうカラーを与えられるか、どういう魅力を引き出せるかみたいな視点も入ってくるんじゃないかなと思うんです。わかりやすくLittle Glee Monsterを例にして、最初のころと比べて彼女たちに対してどういう視点で曲を作るようになってきているのか、思うことがあればお聞きしたいです。
丸谷:自分は最初、Little Glee Monsterに書いた曲が「ガオガオ・オールスター」で、その次が「好きだ。」なんですよ。その時はまだこのグループをどうしようというイメージはあまりなくて。ポケモンに書いた曲をLittle Glee Monsterが歌うことになったというのは本当に偶然ですし、「好きだ。」も音楽作家向けの講義『SONIACA - ソニアカ』で講師として1コマを受け持つことになって、そこで疑似コンペみたいなものをやりますとなったときに生まれたものなんです。
ーーリトグリの4thシングルを作るなら、という過程で実際にデモを集めた講義ですよね。
丸谷:そうです。生徒のみなさんの前で「僕ならこうしましたよ」と披露するときの曲で。そのとき、先生だから1回聴いたときにほとんどの人にいいと思われて、かつ何故いいのかを説明できなきゃいけない、という課題があったんですけど、2つ目がとてつもなく難しくて。それを達成するためにキャッチコピー的なのが必要と思ったんですよね。当時は海外の作曲家とコライトすることがあって、そのとき海外の作曲家が照れもせずに「会いたかったよ」「君が好きだよ」と普通に言ってたのを思い出して、Little Glee Monsterがメンバー同士「好きだよ」と言っていたら美しいな、未来は明るいなと思って。そこから「君が好きだ」という言葉をサビ頭で一番輝くように考えて作りました、というのを説明しながら言おうと思って作った曲だったんですよ。結果的にそれがスマッシュヒットになったんですよね。
その2年後くらいにビッグタイアップで「世界はあなたに笑いかけている」が来たときは、曲が独り歩きするくらい普遍的な広がりのあるもので、かつ新鮮さがあるものを作ろうと思って。おじいちゃんおばあちゃんもリズムが取れるようなミドルテンポの曲だけど、紐解いていくとけっこう16分でシンコペーションしていて、というのは考えながらアプローチしていました。
中村:言葉とメロディ、どちらから作るタイプなんですか?
丸谷:一緒に出てくるのが理想なんですよね。でもやっぱり圧倒的に意味のない日本語で出てきちゃったり、英語で出てくることが多いですね。
中村:やればやるほど、言葉の強さって大事だなと思いませんか?
丸谷:思います。この言葉にこのメロディーが乗って、この人がこんな風に歌うから何回も聞きたくなる、という組み合わせの塊ですよね。一方で、じゃあ方程式的にこれとこれとこれが揃ってたら絶対いい曲になるというわけでもない。正解が分からないんですよね。
――中村さんはいかがですか? 今のタイミングだとまさに新体制に向けた「Join Us!」は作る側としても思い入れがあるんじゃないかなとも思いますが。
中村:Little Glee Monsterに曲を書いたのは「NO!NO!!NO!!!」が最初なんですけど、個人的にだいぶコンペで採用されてない時期を経て提供が決まった曲だったりして。そういうタイミングもあって、Little Glee Monsterへの思い入れが強かったんです。もちろんどの仕事もそうなんですけど、曲を作るときにただただ愛情を込めて、「この曲でまたなにかお手伝いができればいいな」とは思っています。「Join Us!」だとラストサビ前にハーモニーが重なるんですけど、新しくメンバーが入ったので、そういった意味で声が重なっていく感じを絶対に入れたいなと思って。長くやらせてもらえるとストーリーを曲の中に入れられるので、より心を込めて作れると思います。
丸谷:作曲は何年くらい続けてるんですか?
中村:最初に曲が世の中に出てから、ちょうど12年ぐらいですね。姉の曲なんですけど。この仕事でご飯を食べられるようになったのはもっと後です。
丸谷:お姉さんの曲以外だと何年ぐらいなんですか?
中村:11年くらいですかね。姉以外で最初に提供したのはHALCALIさんでした。
丸谷:結構ベテランなんですね。でもここ最近、特に曲数が多いような気がしていて。名前を見る機会が右肩上がりで増えている感じがします。
中村:嬉しいです。それも明確にきっかけがあって。これまで割と1人で作ることが多かったんですけど、最近King & Princeさんに提供した「ツキヨミ」もTomoLowくんというプロデューサーと作っていたりと、積極的にコライトをするようになったんです。TomoLowくんはほとんど友人のようなものですが、彼とやることで1人で作るより分業もできますし、早くなったというのもあって。それでリリースさせてもらえるものが増えてきた感じはありますね。
丸谷:コライトはどれくらい前から始めたんですか?
中村:4年前に1回企画でやってみて、その後ほとんどやってなくて。いまも相手としてはTomoLowくん以外とはあまりやったことがないんですけどね。
丸谷:miletさんの曲もコライトですよね?
中村:そうですね。彼女は本当に格好いいメロディーが書けるんですよ。そういったケースで、アーティストさんとコライトする機会は増えてきました。
ーーここで、中村さんが使っている機材についても掘り下げていければと思いますが、丸谷さんが気になったものはありますか?
丸谷:やっぱりキーボードですかね。
中村:ちょうど長く使っているものが壊れてしまって、一時的に使っているのはNative Instrumentsの『KOMPLETE KONTROL』ですね。正直まだ慣れきってはいないのですが……(笑)。
丸谷:スピーカーはFocalですね。 これは横からも音がでるやつですよね?
中村:そうです。『SHAPE 65』ですね。買ったのは4、5年前だと思うんですが、よくお世話になってるエンジニアさんに選んでいただいて。とても自然に作業できるし、音量を小さくしてもバランスが良くなるんです。小さい方はIK MULTIMEDIAの『iLoud Micro Monitor』で、移動を伴う作曲をするときには持っていっています。
丸谷:パソコンはMacBookですね。作曲ソフトはLogicですか?
中村:はい。ずっと変わらないですね。
丸谷:エフェクター周りもかなりシンプルですが……この上に置いてあるものはなんですか?
中村:TC ELECTRONICの『CLARITY M STEREO ラウドネスメーター』です。ステレオ・オーディオメーターで、tofubeatsさんが使っているのをみて購入しました(笑)。エフェクターだと『Fireface UFX+』とAMEK『9098EQ』もよく使っていますね。
丸谷:マイクはMANLEYのチューブマイク『REFERENCE CARDIOID』ですね。第一回で訪れたArmySlickさんのスタジオにもありましたし、僕も持っています(笑)。
中村:コロナ禍でいろんな仕事もストップして、自分の作品を作れる時間があったので、テンションを上げるために買ったんです。めちゃくちゃ良いんですけど、エンジニアさんによると僕にはそんなに合ってないらしいです(笑)。
丸谷:僕の印象だとちょっと丸い声の人が使うとオケの中で角が立つし、日本人に多いこもり声タイプの人が使うと滑舌よく入るし速さも出るというイメージです。