丸谷マナブ × 中村泰輔の“音楽制作論” リトグリなど“同一アーティストへの複数曲提供”によって変化するクリエイティブ

丸谷マナブ × 中村泰輔が語り合う創作論

 気鋭の音楽クリエイターたちが、その志を共にする人たちのスタジオを訪れ、機材や制作手法などについて訊いていく連載企画「Studio Bump presented by SMP」。第三回はAKB48(「永遠プレッシャー」「ハート・エレキ」「ラブラドール・レトリバー」など)、Little Glee Monster(「好きだ。」「世界はあなたに笑いかけている」)、大原櫻子(「I am I」「Shine On Me」など)、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE(「HAPPY」)、KAT-TUN(「UNLOCK」)など数多くのヒット曲を手がけてきたクリエイター・丸谷マナブがホスト役となり、櫻坂46やLittle Glee Monsterらへの楽曲提供、miletとの共同制作のほか、いしわたり淳治、野村陽一郎と共に結成した音楽ユニットTHE BLACKBANDのボーカリストとしても活躍する中村泰輔のスタジオを訪問。

 同じアーティストの楽曲をそれぞれ手がけ、作編曲のクレジットを共にしたこともある二人に、それぞれの“らしさ”や欠かせない機材、良いシンガーの定義、Little Glee Monsterの楽曲制作を通じて感じた「同一アーティストへ長く関わることによって生まれる創作」などについて語り合ってもらった。

芯にあるのは「作曲家」としてのスタンス

――おふたりはこれまで楽曲での共演はありましたが、実際にお話したことは?

丸谷:はじめましてではないけど、ほぼ初コミュニケーションですかね。

中村:そうですね。一度少しだけお話したことがあるくらいです。本当いつも素晴らしいアレンジ、ありがとうございます。

丸谷:アレンジさせてもらう人にお会いするの、すごくドキドキしますね。アレンジのときにデモを何曲か聴かせてもらった印象は「ピアノの人」なんですけど、シンガーでもあるよなと思って。ご本人としては、自分は何の人というスタンスなんですか?

中村:楽器で言うとピアノがメインですし、シンガーか作曲家かで言うと作曲家をメインに活動しているつもりです。

丸谷:ピアノは小さいころからやっていたんですか?

中村:そうですね。でも趣味で習ってる程度で、楽譜もあまり読めないんですけど。

――丸谷さんは中村さんのどういった部分にピアニストらしさを感じたんですか?

丸谷:ピアノがメインでデモが作られているのと、アレンジと一緒にピアノだけのデータも送っていただいたのですが、和音の音の抜き方がピアニストっぽいなと思ってましたね。

中村泰輔(左)、丸谷マナブ(右)

――逆に中村さんから見た丸谷さんのクリエイターとしての印象は?

中村:作詞も編曲も作曲もされていますし、いろんなところでお名前をお見かけしてたので、全方位で作れる方なんだなと。僕がご一緒させていただくときも毎回すごくいいアレンジをしてくださっていて、特に編曲の際にはコードを少し変えていただいてるんですけど、僕のコードワークも尊重している上でより良くしていただいていて。

丸谷:コード変えちゃってすみません……。

中村:とんでもないです。こっちの方がいいなと毎回思ってたので。丁寧にやってくださってありがたいなと。

――中村さんが丸谷さんの曲を聴いて「ここが丸谷さんっぽいな」と思う場所は?

中村:ドラムやパーカッションが入ったときに、一気に丸谷さんらしくなるなと感じます。「My Brand New Day」のイントロに入ってくるドラムのサウンドもすごく好きなんです。

丸谷:「My Brand New Day」はおもちゃ箱をひっくり返した曲、みたいな印象があったから、イメージがパッと浮かんだんですよ。The Beatlesの持つ遊び心みたいなものを感じたし、そこに自分のルーツがあるから、ドラムの音選びにも影響が出ているのかもしれません。

――丸谷さんからルーツの話が出ましたが、中村さんのルーツとなったアーティストは?

中村:僕はクリスチャンではないんですが、キリスト教系の学校に通っていた時期があって。そこでは毎日、礼拝で賛美歌を歌っていたんですよね。そういった経歴もあって、教会音楽は自分の中に深く根付いているなと思います。自分主導で聴いたものだと、久石譲さんや坂本龍一さんのピアノ曲をよく聴いていたので、コードの弾き方には強い影響を受けていると思います。あとは僕が学生時代にRIP SLYMEやDragon Ashといった日本のヒップホップがチャートに上がってきたタイミングだったので、そこからHIPHOPに興味を持って、友だちの兄が作ったミックステープを通してSnoop DogやEminem、Dr.Dreなどを聴いていたので、ループもののトラックの上にメロディを乗せるのが好きというのも、自分の軸にあるような気がします。

――教会音楽がルーツというのは、提供された楽曲のハーモニーを聴いていても納得する部分ですね。

丸谷:聞きたかったことがあるんですけど、僕がアレンジやらせてもらった曲って、Little Glee Monsterの曲だから結構難易度高めじゃないですか。それも自分で仮歌を歌って提出してるんですよね。

中村:そうですね。

丸谷:ということは、女性ボーカルの仮歌さんを入れてデモを作ることはないっていうことですか?

中村:ほとんどないですね。全部自分で歌わせてもらってます。

丸谷:僕も結構自分で歌うタイプではありますが、Little Glee Monsterのように歌唱力がめちゃくちゃ必要とされるタイプは自分が歌うとイメージが合わないなと思っちゃって、結局女性ボーカルをお願いすることが多くて。でも中村さんのデモを聴いたら、男性キーのままなのにLittle Glee Monsterがイメージできるなと思って。

中村:姉が歌手だったんですけど、最初は姉の曲を作ることが多くて。自然とキー高めで曲を作ることが多くなってたので、女性ボーカルの曲はそういう風になったのかなとは思いますね。そこで鍛えられたのかなと。

丸谷:なるほど。

中村:元々僕はインストゥメンタルの曲が作りたくて作曲家になろうと思ったんですけど、同じタイミングで姉が歌手になると言い始めて。「ちょっと曲作ってみてよ」ということで歌モノを作るようになったんです。逆に男性の方に書くときに、ちょっと高すぎちゃって「落としてください」とか言われることがたまにあるので、それは気をつけなきゃいけないんですけどね。

丸谷:最近のKing & Princeさんの曲(「ツキヨミ」)も結構高いですけど、中村さんっぽいなと感じるんです。僕は声を知ってるから、こういう感じでデモ作ったんだろうなと考えながら聴いちゃいました。

中村:あれは自分の中でも一番高いくらいです(笑)。

丸谷:最近だとLittle Glee Monsterの「Join Us!」は、すごく展開が目まぐるしいじゃないですか。あれって頭の中で最初からそうしようと思ってイントロから作ったのか、どういう感じで構成していったのかが気になっていて。

中村泰輔

中村:一番最初にできたのはイントロでした。Little Glee Monsterの再出発みたいなタイミングだったので、一番最初をどうするかはすごく考えて、そこから順序通りに作りましたね。僕、いしわたり淳治さんと野村陽一郎と3人でTHE BLACKBANDというグループを結成してるんですけど、いしわたりさんに「曲を作るときはファンになったつもりで作れ」とアドバイスいただいたことがあって。だからこの曲も、Aメロは個人のスキルが見えるようなものが良くて、Bメロになったらコーラス感を聴きたい、という風に、自分がLittle Glee Monsterのファンになって、どういう音を聴きたいかなという気持ちで作ったんです。

丸谷:なるほど。中村さんはアーティスト活動もされてるから、もうちょっとアーティストマインドで楽曲を作るタイプなのかなっていう先入観もあったんです。でも今聞いて、もちろんアーティストのマインドも強いんですけど、完全に作曲家というかプロデューサー目線も持ち合わせているんだなと思いました。

中村:自分の一番芯にあるのは「作曲家」なんですよね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる