ソニー『NW-ZX707』レビュー:スマホ時代にあえて音楽専用デバイスを持つ意義を探る

ソニー『NW-ZX707』レビュー

 ソニーがウォークマンの新製品『NW-ZX707』を2023年1月27日に発売した。

 『NW-ZX707』は、Android OSを搭載したストリーミングウォークマン。2019年に発売されたミドルクラスの『NW-ZX500』シリーズの後継モデルという位置づけだ。

 『NW-ZX707』は、フラッグシップモデル「WM1」シリーズの技術を継承し、さらに進化したハイエンドなストリーミングウォークマンであり、ポータブルな音楽専用デバイスとしての使い勝手の向上と、より長時間の音楽再生を実現している。しかし、スマホでいつでも音楽を聴ける時代において、音楽専用デバイスを所有する意義はどこにあるのだろうか?

 最後に筆者が音楽専用デバイスを所有していたのは、iPhone登場以前のiPod時代まで遡る。またストリーミングサービスの登場以降は、自分が所有しているCDやダウンロード音源のデータをわざわざスマホに移行して聴くという習慣はなくなった。その意味では、長らく音楽専用デバイスを所有することに意義を見出せなかったわけだが、このスマホ時代に発売される音楽専用デバイスには、一台でいろいろなことができるスマホにはない、ならではの魅力があった。本稿では筆者の『NW-ZX707』体験を通して、その意義を改めて考えていきたい。

 では、早速筆者が『NW-ZX707』が持ついくつかの特長の中で気になった点を挙げていこう。まず『NW-ZX707』のスペックを見て気になったのは、採用されている高音質技術だ。この高音質技術は、30万円を超えるフラッグシップモデルのWM1シリーズに採用されているものと同じということが『NW-ZX707』のウリのひとつになっている。具体的には、大容量固体高分子コンデンサー、FTCAP3、無酸素銅切削ブロック、大型コイル、手付はんだ部、リフローはんだ部に金を添加した高音質はんだといった厳選パーツが採用されていることなのだが、このプロダクトとしてのこだわりによって、音の透明感や広がり、表現力、そして低音の力強さを実現している点は、確実に音質を追求した音楽専用デバイスならではの仕様だといえる。

 また、音楽専用デバイスならではの機能として注目したのは「DSDリマスタリングエンジン」だ。通常、CDなどのデジタル音源は、アナログの音声信号をデジタル信号に変換したPCM音源になっている。DSDリマスタリングエンジンでは、その音源をソニー独自のアルゴリズムにより元のデータの情報量を損なわずDSD信号に変換できる。これによりリスナーは奏でられた音そのものはもとより、音源が録音された会場の空気感を甦らせたかのような音質、つまり、アナログ・レコードのような滑らかさと、デジタルならではの透明度を合わせ持つ、より深みのある音質を体験できるようになるというわけだ。

 特にこのような音質は、原音の忠実さにこだわりたいクラシックやジャズリスナーに好まれると言われているが、そういった音にこだわる人の多くは専用の再生環境を自宅に整えているものだ。しかし、ポータブルな『NW-ZX707』では、場所的な条件に縛られることなく、いつでもどこでも好きな時にそのようなリッチな音質で音楽を楽しめる。このことは音質にこだわりたい音楽リスナーにとって、『NW-ZX707』を選ぶ大きな理由のひとつになり得るだろう。

 次に筆者が現代の音楽専用デバイスならではの機能として、興奮を覚えたのは「DSEE Ultimate」という機能だ。この機能は簡単に説明すると、一般的なストリーミングサービスで採用されているAACやダウンロード販売サイトで採用されているMP3といった圧縮音源(非可逆圧縮)をハイレゾ級高音質に音質変換するというもの。

 この機能の背景にあるのはAI技術だ。DSEE Ultimateでは、膨大な楽曲データを学習しているAI技術により、曲を自動で判別、ハイレゾ級に微細な音の再現性を向上させるが、驚いたのは有線接続時や専用プレイヤーの「W.ミュージック」アプリ使用時だけでなく、ワイヤレス接続時、外部のストリーミングサービス使用時にも対応するという点だ。これによりロスレス/ハイレゾ音源を配信していないSpotifyの音源やYouTubeのライブ動画などもハイレゾ級の音質で楽しめるようになるわけだが、普段から多くの人に使用されている一般的な音楽プラットフォームの音源がアップスケールされるということは、音楽業界的にもインパクトは大きい。

 これにより音源を圧縮することによって損なわれたアーティストの息遣いや楽器の響きなど、空気感や臨場感が仮想的に再現されることで、普段から圧縮音源に親しんでいる人でも手軽にハイレゾ級音質を体験できることで、今後のハイファイなリスニング習慣のさらなる普及にも期待が持てるようになるはず。またこれにより本来、アーティストが意図していた音像に近い音に触れることができるため、自分が好きなアーティストの音源を聴く際の満足度の向上にも期待できるだろう。そういった音楽体験が手持ちのハイレゾ音源以外にも広がることは改めてすごいと言わざるを得ない。

 ちなみに音質を変化させる機能としては、「バイナルプロセッサー」や「DCフェーズリニアライザー」機能も興味深い。バイナルプロセッサーは、アナログレコード特有の音響現象を再現することで、デジタル音源をヘッドホン/イヤホンで聴く場合でも振動系の初動感度特性の向上と空間フィードバックを再現した豊かな音の再生を可能にするというもの。一方、「DCフェーズリニアライザー」は、アナログアンプと同じ位相特性を再現し、デジタルアンプでありながらもアナログアンプに近い、十分な低音感が得られるというものだ。

 これらの機能はオン/オフの切り替えだけでなく、バイナルプロセッサーは4種類の効果、DCフェーズリニアライザーはカーブの異なる6つのモードが用意されるなど、よりユーザーの好みにあった音を選択可能。どちらもレコード時代に作られた音源をその当時の音質に近いものとして楽しみたい人にとっては重宝されそうな機能だ。

 また近年は、ローファイヒップホップのように楽曲スタイルだけでなく音響的にもオールドスクールな匂いがする音楽が人気を博している。ローファイヒップホップは、DAWなどデジタル機材を使って制作される現代の音楽ジャンルではあるが、制作段階で高音域を大幅に削ることでアナログ風のあたたかみのある音を再現するなど、音響的な工夫が施されていることも特徴だ。そういった現代の音楽をよりジャンルのルーツに近い音で楽しみたい場合にも『NW-ZX707』は、その価値を発揮してくれるだろう。

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