『beatmania IIDX』から新鋭のアプリ音ゲーまで　音ゲーライターが選ぶ2022年の「音楽ゲーム楽曲」10選とシーンの概況

PC音楽ゲーム

4. Пустота (PUSTOTA)
アーティスト：ANAIT
ゲームタイトル：Kovox Pitch
メーカー： Calvares

　『Kovox Pitch』はロシアの開発者Calvaresがリリースした、野球をモチーフにした音楽ゲーム。2019年公開の前作『Lofi Ping Pong』ではLofi Hiphop～Chillhopをフィーチャーしたリズムアクションを展開していたCalvaresだが、本作ではロシア語圏のポストパンク～ポストロック楽曲を全面的に採用している。

　『Lofi Ping Pong』から続投のポストロックアーティストSatoruu、“暗い針葉樹の森に包まれ、フィンランド湾の海岸からの冷たい風に浸された”と自称するサンクトペテルブルクのソロユニットBLAZH、オムスクで活動する3人組バンドКонец солнечных дней（the end of sunny days）など、日本での情報流通が極めて少ない当該エリアの現地アーティストに出会うための、本作『Kovox Pitch』は絶好の切り口だ。

　本稿で着目するのはANAITによる一曲。Пустота（無、虚空、真空）のタイトル通り、重苦しい疾走感をもって虚ろで退廃的な世界を歌い上げる、沈鬱でまっすぐな現地語ポストパンクである。

　ANAITことAnait Isahanovaは、ラトビアの首都リガで高級魚介類店のセールスマネージャー兼TVリポーター業を営む傍ら楽曲制作を行う、インディーズのシンガーソングライター。本楽曲も本来はゲーム外で2021年に公開されたものである。『Kovox Pitch』のリリース時点でANAITは全3曲を提供しているほか、Soundcloudやサブスクリプションでもその魅力を味わうことができる。

5. Winged Airways
アーティスト：DDRKirby(ISQ)
ゲームタイトル：Rhythm Quest
メーカー：DDRKirby(ISQ)

　『Rhythm Quest』はGaijin Games『BIT.TRIP RUNNER』やRobTop Games『Geometry Dash』、さらに遡ればソニー『ビブリボン』にも類型を見いだせる、横スクロール型の2Dプラットフォーマー・リズムアクションだ。2022年にデモ版がSteam上でリリースされ、本稿執筆時点では無料でプレー可能である。

　制作は米国カリフォルニアの個人開発者DDRKirby（ISQ）で、収録曲のすべても自ら手がける。本楽曲をはじめ、ある種の儚さを感じさせる抜群のメロディセンスが香るチップチューン・ダンストラック揃いだ。平常よりBandcampを主な活動拠点としてハイペースに新曲を公開しており、8-bitチップサウンドを基盤としながらその制約には縛られない奔放な音楽スタイルを“9-bit chiptune”と自称する。

　コンポーザーのみならずゲーム開発者としても意欲的な制作を続けており、2015年には後のAwe Interactive『BPM: BULLETS PER MINUTE』やThe Outsiders『Metal: Hellsinger』の出現を予期したようなリズム×射撃（ただし2D）の融合『Rhythm Gunner』、2018年には『リズム天国』的リズムアクション『Samurai Shaver』をリリース。2014年の『Ripple Runner』では、『Rhythm Quest』の原型といえる2Dリズムアクションを、やはり全曲自作のオリジナル曲と共に披露している。

　また2022年には新作ゲーム『Kiwis Can’t Fly』も制作。点数すら存在しない非リズムアクションの小品だが、飛べない鳥・キーウィとさまざまなオブジェクトの接触から心地良いラウンジ・ミュージックがインタラクティブに生み出されてゆく独自の感覚は、任天堂『エレクトロプランクトン』のようなアクティブ・スコア形式の音楽ゲームならではの体験をプレイヤーに与えてくれる。

6. R.F.C. II
アーティスト：ND Lee
ゲームタイトル：EZ2ON REBOOT : R
メーカー： Neonovice / SQUARE PIXELS

　1999年の韓国Amuse World『Ez2Dj』に源流を有する、最新鋭のPC音ゲー『EZ2ON REBOOT : R』。2022年4月に発売された楽曲DLC「PRESTIGE PASS」は、近代音楽ゲーム文化のレジェンドミュージシャンたちが集結するパッケージとしてリリースされた。

　たとえば1998年のコナミアミューズメント『DanceDanceRevolution』立ち上げ人のひとりであるNAOKI。90年代から『beatmania』方面に貢献したASLETICSとPINK PONG。00年代初頭から20年以上にわたりインディーズ・商業音ゲー各分野で活躍を続けるYamajetやonoken。匿名掲示板文化から創発し10年代以降の音ゲーシーンに多大な影響を与える音楽レーベル〈HARDCORE TANO*C〉主宰のREDALiCEことDJ NAGAI。『O2Jam』『EZ2AC』『DJMAX』『TAPSONIC』『SUPERBEAT XONiC』等の韓国音ゲー周辺シーンからの参戦もM2U、NieN、TAK、iMp、Memme、Planetboomと、まさにドリームチームだ。

　豪華絢爛なラインナップからただ1曲を選ぶ苦難を乗り越え、本稿では「R.F.C. II」をピックアップしたい。コンポーザーは『Ez2Dj』シリーズに1999年の最初期作『～THE 1st Tracks SPECIAL EDITION」から関わり、日本でも「Theme of EZ2DJ」（別題：「Changa」）や「Lovely Day」などで古くから知名度を有するND Lee（Andy Lee）。本楽曲は彼がかつて『Ez2Dj 3rd TraX -Absolute Pitch-』に提供した「R.F.C.」の、21年越しの続編曲にあたる。

　KARAの4thアルバム『Full Bloom』のリード曲「淑女になれない」（英題：「Damaged Lady」）の共編曲（イ・チャンヒョン名義）はじめ、一般にはK-POP仕事におけるエレポップ～EDM方面での活躍を主とするND Leeだが、かつてはロックユニットR.F. Childrenに所属するなどバンド音楽方面にも精通。最新曲でもその知見を如才なく発揮し、『GUITARFREAKS』『drummania』（現・『GITADORA』）シリーズの初～中期を想起させるかのような、約160秒の短尺にめくるめく展開と魅力あるリフを高密度に詰め込んだハードロック～プログレフュージョンを披露している。

7. 밤비 （Bambi）
アーティスト：DAZBEE
ゲームタイトル：DJMAX RESPECT V
メーカー： NEOWIZ

　Steamレビュー総数17000超、韓国発のPC音ゲーの一大タイトル『DJMAX RESPECT V』。2022年11月リリースのDLC「V EXTENSION III PACK」に収録されたラインナップ中の一曲がDAZBEE「Bambi」だ。昨年記事で取り上げたTAK＋seibinによるYUKIKA「pit-a-pet」と同様、魅力あるメロをともなってニュートロなシティポップ音景を描く、中毒性のある現地語ダンスポップである。

　DAZBEE（ダズビー）は韓国・大邱広域市出身のボーカリストで、2011年ごろから日本のニコニコ動画で、いわゆる歌い手として活動を開始（当初はダズキン名義）。初期はボカロやアニソン等のカバーのみであったが、2014年頃からは「プラスチック」などオリジナル曲の投稿も開始。2022年に日本のUNIVERSAL MUSICからデビューを果たした。

　デビュー後第一作シングルのジャズポップ「声の在り処」や歌い手としての知名度と経験を発揮したカバーアルバム『Remindful.One』など、日本語詩を主としてメジャー活動を進めてきたDAZBEEが、デビュー後初の韓国語歌唱曲として10月に配信リリースしたシングル曲が本作である。なおタイトルは動物のバンビではなく、韓国語で夜に降る雨を指す。

　楽曲制作は現地コンポーザー陣のイム・スホ、ウン・キム、N!koの3人が共担当。同チームは、韓国の国民的歌姫とも評されるIU（アイユー）にも5thアルバムのリード曲「라일락／ライラック」の提供を行っている。