『beatmania IIDX』から新鋭のアプリ音ゲーまで 音ゲーライターが選ぶ2022年の「音楽ゲーム楽曲」10選とシーンの概況

2022年の「音楽ゲーム楽曲」10選とシーンの概況

音楽ゲームアプリ

8. Endless Dreams
アーティスト:守夜人 (Night Keepers)
ゲームタイトル:DEEMO II
メーカー:Rayark

《DEEMO II》コンセプトソング - Endless dreams

 『DEEMO』『Cytus II』『VOEZ』などで広く知られる台湾のRayarkが満を持してリリースした最新作『DEEMO II』。同社が『DEEMO』で切り開いたストーリーと音楽ゲームの高度な統合の継承はもちろんのこと、サウンドデザインに定評のある同社だけに、楽曲面のクオリティコントロールもスマホ音ゲー業界では群を抜いている。

 本稿執筆時点で200曲以上を数える、プレイアブル楽曲だけでも10選が埋まりかねない絢爛豪華な収録曲リストだが、本稿ではあえて非プレイアブルなコンセプトソング「Endless Dream」を取り上げたい。なお本楽曲は2021年の予告動画で公開済であったが、本稿ではゲームのリリース年に合わせて選出した。

 楽曲制作を担当したのは台湾のバンド・守夜人(Night Keepers)だ。守夜人はRayark社のデビュー作『Cytus』から作曲参加する秦旭章(Sleepy Wifi)が率いる、2015年結成のグループ。『Deemo』にED曲「Alice good night」、『VOEZ』に主題歌「Colorful Voice」を提供するなどユニットとしても同社との結びつきは強い。今回も世界観と融和した極上のピアノバラードを、ゲーム中でも重要な場面で流れることになるコンセプトソングとして提供するにいたった。

 守夜人は近年、ゲーム文化の外でも衆目を集めつつあり、例えば台湾のレコード大賞にあたる金曲獎では、2020~2021年の2年連続で最佳演唱組合獎(最優秀ボーカルグループ賞)の最終ノミネートに選ばれた。また楽曲を担当した映画『阿修羅/アシュラ』(原題:該死的阿修羅)では、台湾の映画賞である『第24回台北電影奨』の音楽賞を受賞している。

9. Chrysanthemum
アーティスト:7mai
ゲームタイトル:Rotaeno
メーカー:Dream Engine Games

 『Rotaeno』は、香港のデベロッパー〈Dream Engine Games〉が開発、PeroPeroGames『Muse Dash』でも知られるX.D.Networkをパブリッシャーとしてリリースされた新作音楽ゲームアプリ。『DEEMO』に提供した「Last Promise」のほか『VOEZ』『Cytus II』などでも知られる韓国のコンポーザーHyuNを音響監督に迎えている。

 本稿で取り上げるのは、プログレッシブで予測不可能な展開と清冽なメロディラインを有する変拍子アートコア「Chrysanthemum」。アーティストは日本のコンポーザー7maiで、『SOUND VOLTEX』公募で2018年に収録された「CUTE-Reflection」をはじめ、『Arcaea』『KALPA』『CHUNITHM』『DEEMO II』などに多数の参加歴がある。

 「Chrysanthemum」はもともと、「AIのべりすと」の開発でも世にその名を知らしめた鬼才Staによる音楽ゲーム『Tone Sphere』の2019年楽曲公募に応募されたもの。審査ではStaやYamajetの推薦を得ており、最終的には佳作にとどまるも「全体にはどことなく品の良さがあります」「音作りとしては素晴らしい」と称賛を受けた。また同時応募された7maiとそよもぎの共作「Wonder Circus」は、倍率30倍超の狭き門を潜り抜けて優秀作に選出され、晴れて同作に採用されている。

 本筋からはやや逸れるが、7maiが2016年にはがねと共作した「Exalt」にも言及しておきたい。両者が影響を公言してやまない作曲家・paraokaによる金字塔的作品「L9」「WOW WOW 220」の跡目を継ぐかのような、魅力ある疾走感でBPM=220を駆け抜ける爽快なプログレフュージョンである。後に音楽ゲーム『Azrael』『音霊 INVAXION』にも収録された。

10. OMG
アーティスト:Dopam!ne vs zEnsEn
ゲームタイトル:TAKUMI³
メーカー:THIQXIS

ど~ぱみん × 前線 Electro Swing EP「Honey Butler」

※「OMG」試聴は3:42~

 当初はApp Store開設以前のiOS向けに脱獄アプリとして公開され、後に『Tap Tap Revenge』と改題されて展開を続けたのちディズニー社に買収された『Tap Tap Revolution』など数々の歴史的マイルストーンを含め、小規模スタジオもしくは個人レベルで制作される音楽ゲームの存在は、アプリ/PC分野の音ゲー史においてとうてい無視できるものではない。

 『Hexa Hysteria』『one hand clapping』『WAVEAT ReLight』『Orzmic』『Phigros』『Calice』『Melatonin』『スペース豚汁』と比較的最近の要注目作を列挙するだけでもキリがないが、2020年の初公開から活発なアップデートが続く『TAKUMI³』(タクミキュービック)はとりわけ着眼に値する一作だ。開発者THIQXISらによる極少人数での開発ながら、積極的なオリジナル楽曲公募の実施も含め、収録楽曲の品質水準の高さに驚かされる。

 今回取り上げる「OMG」は10月のハロウィンイベントに合わせて『TAKUMI³』に収録されたエレクトロスウィング楽曲。Dopam!ne(ど~ぱみん)は2019年頃からDTMを始めたという新鋭ミュージシャンで、当初はUKハードコアやアートコアを主体としていたが、2020年の初ボカロ曲「Liberty」付近からエレクトロスウィングの制作を本格始動。同年にはすでに『TAKUMI³』に楽曲「Electrick or Treat」が収録されている。

 2022年春には、クリエイター団体hoshizoraに所属し同じくエレクトロスウィングを得意とするコンポーザー・DJの前線(zensen)と組んで、全編エレクトロスウィングの合同EP「Honey Butler」をリリース。「OMG」はその目玉として書き下ろされた合作曲であり、今回のゲーム収録はいわば晴れての凱旋となった。なお「Honey Butler」は長らく入手困難な状況が続いていたが、この12月に増版が告知されている。

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