タイトー『MUSIC DIVER』とその背景 新しい演奏体験と確かな選曲眼が光る最新音楽ゲーム
タイトーは2022年12月1日、完全新作となるアーケード音楽ゲーム『MUSIC DIVER』(ミュージック ダイバー)をリリースする。
『MUSIC DIVER』は同社にとって、『テトテ×コネクト』以来およそ1年ぶりのアーケード音楽ゲーム作品となる。我々は11月上旬、タイトー社内で本作のリリース候補版に触れる貴重な機会を頂いた。本誌では先行して同作品リリースの速報記事を掲載している。本稿では制作陣からのヒアリング内容を交えつつ、本作のリリース背景や音楽ゲーム作品としての興味深さをより深く紹介してゆく。
タイトーの音楽ゲーム作品
同社によるアミューズメント施設向け音楽ゲーム(音ゲー)への初参入作品は、2009年7月稼働開始の『ミュージックガンガン!』だ。
同作はガンシューティング×音ゲーを掲げた新機軸のゲーム体験を提供しつつ、楽曲面での新規性には目を見張るものがあった。たとえばサウンド担当に社内サウンドチームZUNTATAのCOSIOを迎え、一般の版権曲だけでなく、優れたオリジナル楽曲をも積極的に収録した点。初音ミクをボーカルに迎えた書き下ろし曲をアーケード(以下、AC)音ゲーに初めて導入した先進性。バージョンアップ版『ミュージックガンガン!曲がいっぱい☆超増加版!』における、これも世界初となる東方アレンジ楽曲のAC音ゲー収録。
なかでも同作が先陣を切ったボカロ・東方楽曲は、今日の国内リリースのAC音ゲーではほぼ不可欠といってよい一大ジャンルとなっている。シリーズは2011年1月の『ミュージックガンガン!2』を最後に終息したが、コナミ(現・コナミアミューズメント)とバンダイナムコの二強体制が築かれていたAC音ゲーシーンに、第三の陣営としてタイトーの存在感を示す作品となった。
次いでローンチされたのが『グルーヴコースター』である。2011年7月のiOS版アプリを皮切りにスマホアプリ市場での認知度を確立したのち、2013年には縦型の大画面と、ブースターと称する物理デバイスによる新鮮な演奏体験を携えてAC作品としてリリース。以降はスマホ版との相互フィードバックを行いながらバージョンアップを続け、2018年はPC(Steam)、2019年にはSwitchにも展開。本稿執筆時点で、AC作品としての最新バージョンは2020年4月リリースの『グルーヴコースター4MAX ダイヤモンドギャラクシー』である。
2022年10月、『グルーヴコースター』のAC版は筐体の制約により新規楽曲の追加が不可能となる旨がアナウンスされた。ただし、これはいわゆるサービス終了ではなく、オンラインサービスや既存曲を利用したイベント運営などは継続されることもあわせて明言されている。またスマホ/Steam/Switch版については、新規楽曲の提供なども引き続き行われる。
これと並行する存在となったのが『テトテ×コネクト』だ。2019年に情報公開・ロケーションテストが行われ、2021年12月に正式リリース。等身大のキャラクターを表示可能な超巨大ディスプレイを備え、プレイヤーとキャラクターが文字通り触れ合って一体となる、唯一無二のリズムアクションゲーム体験を実現している。
ほかにも家庭用コンソール/携帯アプリ向けの音楽ゲームとして、たとえば『グルーヴコースター』の生みの親である石田礼輔がかつてガラケー用に制作した非リズムアクション作品『トランスピンボール』(2003年リリース)、東方アレンジ楽曲を軸にリズムアクションとパズル要素を融合した『東方スペルバブル』(2020年)なども存在する。
以上の経緯のもと、2021年末時点でAC音ゲーとして公式に稼働していたシリーズは『グルーヴコースター』テトテ×コネクト』の2作品。そして今年2022年、第3の現行ACタイトルとなるべく同社がリリースするのが『MUSIC DIVER』だ。
MUSIC DIVERの概要
『MUSIC DIVER』は2022年5月の初公開と共に、一部ゲームセンターでロケーションテストを実施。その後、同社の運営する配信番組「タイトー音ゲー部」を中心として、ロケテ未収録の新曲などの情報公開が徐々に進められていた。
公称のゲーム内容は「叩いて音色を奏でる音楽ゲーム」。紫色を主体とした存在感のある大型筐体を有し、プレイヤーと向かい合う斜面部分に、縦長の大画面ディスプレイが配置されている。
ディスプレイには円形の枠が設置され、枠の内側のスクリーンがメインのゲーム画面かつ操作部となる。また枠自体にも操作対象となるパッドが設置されており、これはエッジと呼ばれる。楽曲名・アーティスト名やクリアゲージ・点数などの関連情報は枠の上部に表示される。スクリーン内部には譜面や判定、コンボ表示といった、狭義の音楽ゲーム部分にかかわる情報のみが表示され、音楽世界への没頭を誘う仕組みだ。
ゲーム演奏にあたってはスクリーン内部にトンネル状の空間が表示され、プレイヤーはその深みへとダイブしてゆく演出を味わう。演奏の対象となるノーツはトンネルの奥側にあたるスクリーン中心から現れ、周囲へと移動してゆく。
スクリーンは斜め十字の区切り線によって上下左右に区分けされており、ノーツは各方向に対して赤色のスクリーンノーツ、青色のエッジノーツのいずれかが現れる。外縁(枠の内縁)が判定ラインであり、ここにノーツが達した瞬間に、ドラムスティック状の専用スティックを用いて、ノーツの表示方向に対応する上下左右のスクリーンやエッジを叩くことになる。
ノーツの種類はエッジもしくはスクリーンの単押し、あるいは2箇所の同時押しのみに限定され、長押しやドラムロールのような特殊ノーツは、少なくとも稼働時点では存在しない。
スティックでディスプレイを直接叩くことに心理的に抵抗があるかもしれないが、付属のスティックの先には弾力のあるカバーが取り付けられており、またディスプレイ自体の耐久性も十分に確保されているとのことだ。
演奏面の特徴
本作の特徴として際立つのが、ノーツを叩いた際に鳴らされる演出音だ。一般的に、リズムアクション系の音楽ゲームはおおむね2種類に大別される。一つは、一部の音が欠けた音源が流れ、プレイヤーの操作音=演奏が欠損を補完するタイプ。もう一つは、完成した楽曲の上に既定の効果音(典型的には1~2種類)が上乗せされるものだ。
本作はそのハイブリッドとみなせるユニークな形態を取っている。楽曲自体は完成された音が流されるが、各ノーツの演奏に成功すると、さまざまな楽器の演奏音が楽曲に重なって鳴らされるのだ。
プレイヤーの演奏対象となる楽器はエッジ&スクリーン操作の上下左右にそれぞれ割り当てられており、パーカッション系のリズム楽器のみではなく、ピアノやギター、トランペットといったメロディ楽器までもが選択され得る。
注目すべきは、その楽器(演奏音)を、プレイヤーが任意に選択可能であることだ。これがサウンドチェンジと呼ばれるシステムである。楽曲と譜面自体は同一であるため、純粋な音楽ゲーム面での不公平は生じないという仕組みだ。
譜面作成機能とバトルモード
さらに驚くべきは、稼働後にアップデートによる実装が予告されている「クリエイトダイブ」だ。これは収録された楽曲に対して自ら音ゲー譜面を作成して遊び、またネット経由でのユーザー間共有を実現する機能である。いわば音ゲー版『スーパーマリオメーカー』といえる趣向だ。あくまで既存の音源に対する上乗せ演奏の選択であり、楽曲そのものを作り変えるわけではないにせよ、格段の自由度がある。
譜面作成をユーザーの手に委ねる機能を持つ音楽ゲームは、家庭用ゲームやスマホアプリ、また演奏音をもたないAC作品であれば数々の前例がある。しかしメロディ楽器すら楽曲に上乗せ可能とするタイプのAC音ゲーでは、最初期(1990年代)の例外的な試みを除いては、ちょっと聞いたことがない。どのような楽器を任意の譜面をもって上乗せしても楽曲を損なうことのないよう、一曲一曲に対して綿密な調整が進められていることは想像に難くない。
クリエイトダイブの譜面作成は、AC筐体に実装されたエディタを用いて行う。クレジットを入れて専用のモードを選ぶと所定の編集時間が提供され、その枠内で譜面制作を進める仕組みだ。1クレジットでの譜面制作は困難と予想されるが、エディタには様々な譜面作成補助機能が備えられており、NESiCAまたはアミューズメントIC対応カードを用いて複数クレジットをまたいでの編集も可能。なお譜面の共有機能は、作成者本人がプレイしてクリアできた譜面に限定されるとのことだ。
さらに、筐体2台を利用した1vs1のバトルモードである「Battle Dive」も実装されている。当該モードでは各プレイヤーに固有の色が割り当てられ、スクリーンの周りに円形のバーが表示され、劣勢側が優勢側の色に侵食されてゆく演出がなされる。
プレイ中は画面上部のスコア表示が排されており、優劣はおおまかにしか把握できないようになっている。多くの音ゲーは本質的に楽曲(譜面)vsプレイヤーの1対1が基本であるが、2人(2筐体)での競技プレイは、2020年代に目覚ましく発展の進む、音ゲーのeスポーツ化の流れとも共鳴し得るものだ。